カッコイイ!「兄のラッキー傘」

公開日:2020-03-19 (更新日:2020-03-24)

【ストーリー~保険に加入する理由~】シリーズVol.2

 

保険になぜ加入するのか?
 

この問いに対する答えは人それぞれだと思います。
 

本シリーズでは様々な登場人物の物語を通じて、”人それぞれの理由”を疑似体験して頂きたいと考えています。
 

お楽しみ頂けますと、幸いです。

 

傘,明るい,希望
<写真=pixabay.com>

 

この春、私は付き合って2年の彼と結婚した。大学卒業後に新卒で入社したメーカーで出会った、優しい男性と。彼は3歳年上だけど、まだまだ子供っぽいやんちゃなところがある。
 

身内と親しい友人だけで披露宴を開催して、新婚旅行などにはお金をかけずに駅前の手ごろな中古マンションを購入した。
 

順風満帆な結婚生活のスタート。そんな私は、毎朝必ず夫のマサキにお願いしていることがある。それは、折り畳み傘を持っていくこと。
 

1. 親からもらった特別な折り畳み傘

お祝い,風船,喜び
<写真=pixabay.com>

 

「じゃあ、お先に行くね。今日は割と早く帰れるはずだから」
 

玄関先で私より先に出勤するマサキが言う。「はーい」と返事をしながら玄関へ走っていき、私は聞いた。
 

傘、持った?
 

外は晴天、気温12度の微風で、素晴らしい秋の朝だ。マサキは外を一瞥してから少し苦笑したけれど、何も言わずにラックから折り畳み傘を取りだした。
 

「行ってきます」
 

「うん、気を付けてね」
 

これは、毎朝恒例の行事だ。我が家では必ず、晴れた日でも折り畳み傘を夫に持たせる。深いグリーンに黒いラインが入った、少し古い折り畳み傘。
 

雨だった金曜日は使用したらしく、開いて干されていたのを昨日の日曜日に私が畳んでおいたのだ。きっと忘れるだろうと思って、見にきて正解だった。
 

「行ってらっしゃい」
 

私はにっこりとほほ笑む。マサキは手を軽く挙げて、ドアを開けて出ていった。
 

深い緑色をした折り畳み傘は、私の兄が持っていたものだ。私とは年齢が8歳離れた、いたずら好きで縁担ぎが好きな兄のタカシが。
 

高校へ入学するときに、当時まだ元気だった母方の祖母に贈られた少し高級な折り畳み傘を、兄は本当に気に入っていた。
 

どこにでも持っていき、「これを持っているとラッキーなことが起こるんだ」と真剣な目をして言っていたものだ。「これ、俺のラッキー傘なんだ」って。
 

そんな兄が、車の事故で亡くなってしまったのは私が中学生のとき。兄はそのとき、ラッキー傘を持っていなかった。「こんなに晴天なんだから今日は必要ないわよ」と母に笑われて、家に置いていったのだ。

 

母はいまだに、そのことを悔いている。

 

そして両親は、私が結婚したときに折り畳み傘をくれたのだ。「大切な人を守ってくれるわよ」と、兄のラッキー傘を。
 

2. 晴れた日でも夫に傘を持たせるわけ

夫婦,愛,絆
<写真=pixabay.com>

 

「さて、私も行かなきゃ」
 

支度を済ませて駅へと急ぐ。今朝は本当に良い天気だ。休日なら、2人でドライブにでも行きたいくらい。
 

今日のように晴れた日でも、私は夫に折り畳み傘を持たせる。だって近頃の日本は、毎年のようにゲリラ豪雨に襲われている。営業のマサキが外出先で雨に遭ってしまったら大変だ。
 

それにそれに、縁担ぎが好きだった兄が愛用していたラッキー傘、持っているだけでまたラッキーを運んでくれそうじゃない?
 

営業職には、強力なラッキーが必要!
 

私は夫を守りたいのだ。突然の雨から、冷たい水や風から、そして降り注ぐように待ち構える数々のアンラッキーから。
 

これも、妻として夫にできる支えの1つだと思っている。
 

3. 自分も彼の折り畳み傘になろう

雨,水滴,傘
<写真=pixabay.com>

 

「ねーえ、そういえばさあ、結婚してから保険の受取人の変更した?」
 

昼休み、お昼ご飯を食べていると、斜め前に座った先輩の1人が身を乗り出して言った。
 

「え、私ですか?」
 

お箸を止めて聞く。先輩は大きく頷いて、眉間にしわを寄せて話しだした。
 

「そうよおー、最近結婚したのってあなただけでしょ。自分の経験からさ、つい忘れがちなことを教えてあげようと思って」
 

この先輩は“自分の経験から”を枕詞にして、偉そうに説教するのを得意としている。私の前に座った同期の子が、目玉をくるんと回しげんなりした顔をした。
 

先輩は人差し指をたてて話し続ける。
 

「保険の受取人、結婚した後に親から旦那に変えるのを忘れる人って多いのよー。そのままもし死んじゃったら、旦那には一銭もいかないで親にいっちゃうことだってあるんだから」
 

あら、と私は口を開けて考えた。
 

「だけど私、医療保険だけですよ。だから死亡保障はないんです」
 

先輩は大きくのけぞって、目を見開く。
 

「えー、医療保険だけなの? だってあなた、マンション買ったんでしょ!?」
 

私たちは結婚と同時にマンションを買った。とにかく自分で家を買う、ということにこだわったマサキは、自分の両親と私の親から一切援助を受けなかった。
 

結婚する前、マサキのお母さんが私にこっそり言った。「あの子は自分の家を持つって、積み木遊びをしているころから言っていたの。だけど、お金があると全部使っちゃうから、お給料は私が管理してたのよ。だから、ミホちゃんもしっかりと管理してあげてね」と。
 

私とマサキのお母さんは、こっそりと微笑みあったのだった。
 

お母さんがしっかりと給料を管理してくれていたおかげで、まとまった頭金を準備できた。マサキは夢を叶え、結婚と同時に単独名義の家を手に入れたのだ。
 

私はお茶を飲みながら、先輩に言った。
 

「あ、はい。でも名義は夫ですし。まだ子供もいませんし」
 

いやいやいや!

 

そう叫びながら、先輩は長い説明を始めた。今あなたが死んだら、夫はローンを抱えて生活費も支払うことになる、云々。そもそも自分の葬式代くらいは遺すべきだとも。
 

あまりに興奮してお箸ごとこぶしを振り回し、周囲に止められたほどだった。
 

私は若干、申し訳なく思った。
 

……今、私が死んだら、マサキは悲しみとともに住宅ローンが残って大変な生活になるんだ。
 

結婚とは、相手の人生に責任を持つことなんだな、と改めてハッとする。相手にもたれかかることじゃない、相手と支えあうことなんだ。
 

折り畳み傘を晴れた日でも必ず持たせる、それ以外にも、妻として夫を支える方法はいろいろあるんだ……。
 

その日、夕方から空模様がいきなり変わり、短い間だったけれど雨が降った。会社の窓から、私は空を見つめる。傘を持たせて良かったな、夫は濡れていないだろうかと考えながら。
 

共働きなので、普段から夕食は遅めになる。20時半にマサキが帰宅して、2人で食卓を囲んだときだ。マサキが「あのさ」と話しだした。
 

「保険、入ろうと思うんだけど。団信はあるけど、俺が病気したり働けなくなったりしたときの保険も必要だろう?」
 

私はタイミングの良さにビックリした。彼は少し視線をそらし、食べながら話を続ける。「俺に何かあったとき、君や子供を困らせたくないから」と。
 

話しているときに少し視線をそらすのは、マサキが照れているときのクセだ。
 

ミホが、少なくとも経済的には困らないようにしておきたいんだ
 

私は笑って、会社で考えていたことを話す。「同じこと考えてたんだよ」って。
 

夫は目を優しく細めて、にっこりと笑った。
 

4. 両親は微笑んでいた

女性,幸福,未来
<写真=pixabay.com>

 

次の週末、私の両親と食事する約束をしていたので、マサキと実家へ行った。
 

4人で中華料理を楽しみながら、マサキは「そういえば」と保険に入ることを両親に話す。
 

両親は箸を置き、真面目な顔で聞いた後、優しく、とても優しく微笑んだ。
 

そして夫に言ったのだ。
 

「ありがとう。ミホのことを真剣に考えてくれて。おかげさまで、私たちも幸せだ」って。
 

兄を亡くして以来、どこか寂しそうだった両親が、はっきりと幸せそうな笑顔を見せていた。
 

私は一瞬、胸を突かれた。
 

そして、ゆっくりと、全身で幸福を感じた。両親が今、とても安心したのが分かったのだ。安心を贈ること、それは間違いなく親孝行なんだって……。
 

5. 大切な人の「折り畳み傘」になる方法

傘,備え,準備
<写真=pixabay.com>

 

兄のラッキー傘は、物理的に、私の大切な夫を守ってくれる。だから、私は精神的・経済的に夫を守ろうと思う。
 

愛する人が困らないように、普段からできることをしていく。考えたくない“万一のこと”も、一度は真剣に向き合うべきだと気付いた。
 

私が大切な夫の“折り畳み傘”になる方法——。それは、これからもずっとずっと考え続けていくのだけれど……。
 

▲目次にもどる

<共同執筆者>
関目 いちこ
フリーライター
別名義でウェブ小説やイラストを書く。

執筆者情報
服部 椿

服部 椿
AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士  金融代理店での勤務経験と、自身の投資経験を活かしたマネーコラムを多数執筆中。
子育て中のママFPでもあり、子育て世帯向けの資産形成、ライフプラン相談が得意。


ページTOPへ