カッコイイ!平成四年生まれ阿川未知の転機

公開日:2020-03-24

【ストーリー~保険に加入する理由~】シリーズVol.5

 

保険になぜ加入するのか?
 

この問いに対する答えは人それぞれだと思います。
 

本シリーズでは様々な登場人物の物語を通じて、”人それぞれの理由”を疑似体験して頂きたいと考えています。
 

お楽しみ頂けますと、幸いです。

 

スイーツ,ジェラート,カフェ
<写真=pixabay.com>

 

高校卒業後製菓専門学校で学び、洋菓子メーカーで働く阿川未知
 

新商品開発を担当しているが、先輩社員たちに押され気味でなかなかアイディアを採用してもらえない毎日だった。
 

とうとう検査部門にまわされ、ルーティンワークのなかで「新しいスイーツをつくる」という夢がついえていくのを感じる。
 

2月のある日、専門学校の先輩である杉咲春から連絡があった。
 

自家製のスイーツを提供するカフェを開業したから、一緒にやらないか? という誘いだった。
 

春は両親が亡くなり、生命保険金を元手にはじめたらしい……。
 

1. 阿川未知の勇気、新しい1歩

空,勇気,未来
<写真=pixabay.com>

 

私、阿川未知は仕事を終えてロッカー室で白衣を脱ぐ。
 

おとといの夜、LINEが入り春さんと梅田の喫茶店で会った。
 

春さんは3歳年上だけど、短大を出ているので専門学校では1学年しか違わない。背が高く、いつも男物のシャツを着ていた春さんは、学校内を大股で闊歩していた。偶然、学祭で同じブースを担当することになり、親しくなった。
 

仕事を終えて着替えながらロッカー室で着替える人たちを見る。誰もがうつむき、疲れをにじませた顔つきだ。
 

それにひきかえ、春さんはやる気に満ちて輝いていた。春さんの声が耳の奥にずっと残り、頭のなかで響く。
 

「あんねえ、亜弥も一緒に3人で新しいスイーツのブランドをつくりたいねん。未知の粘り強さとアイディアは、別格やと前から思っててんよ。それに、わたしが苦手なフローズンデザートを任せたい」
 

今日も仕事中、自然に顔がほころぶのを感じた。
 

亜弥さんは春さんの同級生で、ふっくらした体型で一見穏やかそうに見えるけど、春さんに負けず劣らず芯はしっかりしている。
 

一緒にやりたい、という想いがふくらんでくる。
 

家に帰って、夕食のロールキャベツを食べながら、両親に春からの誘いについて説明した。
 

「えっ……」母の顔が曇る。最近父の給料が下がったとかで話していたのを聞いたことがあった。「せっかく安定した会社にいるのに、危なっかしいことせんといてほしい」
 

「ごめん、春さんを信じてみたいねん。まだ若いから失敗してもやり直せる。お願いや、挑戦させて。それに、何かあったらいけないから、が春さんの口癖で、大胆な行動を起こす前に必ず一度立ち止まって考える人なの。きちんと何かの裏づけがあって誘ってくれてる」
 

いつも両親の言うことに素直に従っていたが、今度ばかりはしつこく食い下がった。
 

「わかった、やってみたらええ」
父がにっこり笑って賛成してくれた。灰色の雲の隙間からまぶしい太陽がのぞいたような気がした。

 

2. 阿川未知の喜び、新作スイーツ

春,新しい,桜
<写真=pixabay.com>

 

私は3月で会社をやめて、4月から春さんの店へ向かった。
 

大阪城の桜が満開で、私の門出を祝ってくれているように見える。
 

朝は早いけれど、夕方はさっさと店を閉めると聞いていた。
 

年季の入った木の扉を開くと、小麦粉とバターのにおいがした。長年パン屋さんをしてきた春さんの祖父母やご両親が焼いてきたパンの香りが柱や天井に染みついているのだ。
 

毎朝ブレックファストミーティングがあるそうだ。今朝は亜弥さんが、クロックムッシュときゅうりとトマトのサラダを用意してくれた。カフェではスイーツだけでなく軽食も出すので、その試作もかねているらしい。パンの隙間からのぞくチーズとハムが食欲を誘う。
 

「露地もののいいイチゴが手に入ったから、今日はそれをメインに出してみたい」
 

イチゴはスイーツでは欠かせないので年中使うけれど、この時期のイチゴは格別だ。カフェ「HARU」では、定番メニューもあるけれど、その日限定のサプライズメニューが売りだ。亜弥さんが昼前にInstagramにアップすると、昼前からわらわらと人がやってくる。
 

テーブルにのせられたぴかぴか光るイチゴを見たとたん、私はイチゴのつぶつぶをいかしたフローズンヨーグルトをつくろう、と決めた。
 

亜弥さんも真剣な面持ちで、イチゴを見ている。フィナンシェやマドレーヌが得意な亜弥さんがどんなスイーツをつくるのか。
 

「HARU」ブランドの一角を担いたい! と私は強く願った。

 

3. 阿川未知の不安、大丈夫?

フルーツ,果物,柑橘
<写真=pixabay.com>

 

6月に入って、”山ガール”でもある春さんが3日間の休みを取って信州へ出かけた。
 

ONとOFFの切り替えが大事で、きちんと休みを取ることが、長続きの秘訣だ、と春さんは言う。だけど連続しての休みは私が入ってからははじめてだ。
 

3人ともスイーツづくりは大好きだけど、メリハリをつけなくては、いつか惰性になってしまう、と亜弥さんも同じ考えらしい。私もHARUで働きだしてから、意識するようになった。
 

タルトは店の看板なので、欠かせない。春さんが前もって冷凍したタルト生地を焼き、亜弥さんと私は春の味を再現するために、フルーツやクリームを盛りつける。1日目の昨日は無事乗り切って、亜弥さんと2人で帰りに焼き肉を食べに行った。今日もきっと大丈夫、と私は自分を激励した。
 

わざわざ自分を励ますのには理由がある。
 

やはり春さんの不在は店の空気を変えていて、ふとしたときに不安がよぎる。「もし春さんがいなくなったらどうなるのだろう?」母の心配が現実味を伴い迫ってきて、手が止まる。
 

「未知、あかんよ、手止まってる」亜弥さんはそう言ったが怒っているわけじゃなく、私のほうを向いて、うんうん、というように首を振った。亜弥さんも同じ気持ちなのだ。
 

ときどきパートで入ってくれる近所の主婦がやってきて、カフェの準備を終える。あとは、ただただ忙しく働いた。太陽の光が西に傾きだしたとき、電話が鳴った。ドキッとして電話を取ると、春さんの声が聞こえた。
 

「ちょっと崖から落ちちゃった」
 

返す言葉を失い、涙があふれてくる。すぐにお見舞いに行きたいけれど、お店を放り出しては行けない。

 

4. 阿川未知の実感、「何かあったときのために」

愛,絆,思いやり
<写真=pixabay.com>

 

「春は大丈夫、ぬかりないはずだよ! わたし達は春が戻ってきたときのために、新しいスイーツつくろう」亜弥さんの落ち着いた声に元気づけられる。
 

3日後、春さんが信州から近くの病院に転院した。私は、目の前にある珍しい柑橘、河内晩柑の表面を指先でなぞった。
 

「亜弥さん、これでゼリーをつくろうと思うんですけど」
「春に食べさせたいの? そしたら、わたしはパイをつくってみるわ」
亜弥さんも同じ気持ちのようだ。春さんを安心させたいのだ。

 

春さんが亜弥さんをパートナーに選んだのがわかった気がした。わたしも、と思う。亜弥さんと一緒に春さんを支えたい。
 

仕事を終えて、2人は病院へ向かった。病室へ入ると春さんはベッドの上で苦笑した。春さんの顔を見たとたん、涙があふれそうになる。
 

「見てコレ!」と春は包帯で巻かれた足を指さした。そんな状態で転院してくるなんて信じられなかった。きっとワガママを通したのだろう。
 

「足首が折れてた。ごめん、二週間ほどの入院らしい」
心が曇っていく。退院してもすぐにはバリバリ働けないだろう。

 

私は春さんの視線を感じて顔を上げた。春さんにスイーツを手渡す。
「うれしいわ。わたしに何かあっても大丈夫やなあ……」
春さんはケガをしているのに満足そうな顔をした。つづいて、いざとなったらバイトを雇える蓄えもあることを教えてくれた。

 

春さんは、自分自身を過信していた、としょんぼりしたあと、すっと顔を上げて目を輝かせた。
「でも、わたしには亜弥と未知がいる!」と言いながら笑った。
私は春さんの笑顔を見て心がゆるやかにほどけていくのを感じた。春さんは「何かあったときのために」準備していたのだ。

 

5. 仲間たちとの「何かあったときのために」

 

アクシデントにあっても笑っていられるのは、春さんが備えてくれていたからだった。
 

私は3人のチームそのものが「何かあったときのため」だった、と気づいた。
 

1人が倒れても2人なら支えられる。
 

2人だと1人が転んでしまったとき、残された1人では支えきれないかもしれない。
 

それだけじゃない。お見舞いに行ったあとで亜弥さんから聞いた。春さんは医療保険や就業不能保険にも加入している。だからお金の心配をする必要はないのだ、と。
 

春さんは仲間のためにちゃんと備えてくれていた。このことが何だかとても嬉しかった。
 

私は自分が春さんにとっての大切な柱になれるようがんばる決意をする。春さんのように何かがあっても乗り越えられる人間になりたい。

 

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共同執筆者
美月 麻希
大阪文学学校小説クラスチューター/文芸同人誌『白鴉』同人
フルタイムで働きながら小説を書いています。『鳩の血(ピジョン・ブラッド)』にて神戸エルマール賞佳作受賞。

執筆者情報
垣内 結以

垣内 結以
フリーライター  2009年に大手損害保険会社へ入社し、営業事務、保険金お支払いセンター、総務、役員秘書などを経験。フリーライターとして独立後、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。現在は多数のWebメディアにて貯蓄や保険、節約に関する記事を執筆。


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