人は様々な状況を想定して備えます。
心配ごとが現実に起こらないに越したことはないのですが、予め準備しておくことはやはり大事です。
今回はそんなお話をご紹介いたします。
<写真=photo-ac.com>
この春、小学校に入学したばかりのさくらちゃん。ピカピカのランドセルを背負って毎日小学校に楽しく通っています。ランドセルを背負って歩く自分の姿がさくらちゃんのお気に入りのようです。
ランドセルに喜ぶさくらちゃんの横で、おばあちゃんがあるものを見つけました。
おばあちゃんが見つけたのは、さくらちゃんのランドセルについていた見慣れない機械。おばあちゃんの息子、お父さんが子供の頃にはなかったものに、おばあちゃんは興味津々です。
お嫁さんに話を聞くと、それは防犯ブザー。紐を引っ張ると大きな音が出て、周りに緊急事態を知らせる防犯用品でした。
昔から「世のため人のため」と地域のボランティアに参加するなど、人を助ける活動を続けてきたかっこいいおばあちゃん。自分ができることは、なんだってやれるだけやろうとする性格です。
防犯ブザーの仕組みを見てみると
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さくらちゃんに何かあっては大変だと考えたおばあちゃん。防犯ブザーをいろいろ調べてみたところ、紐を引っ張ると音が鳴る仕組みだと分かりました。電池には単4電池が使われているようです。
電池が切れたり、故障したりして音が鳴らなかったら、肝心なときに役に立たないのでは? とおばあちゃんは考えました。
防犯ブザーは、いざというときに備えるものです。おばあちゃんは、普段からきちんと点検をしておこうと決意しました。
電池の残量を測るチェッカーを買ってきた
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おばあちゃんは電池の残量を確認できる「チェッカー」という道具をホームセンターで購入してきました。
これで電池切れになる前に、交換できるようになりました。
電池残量がギリギリになったら、防犯ブザーが動かないかもしれません。そこでおばあちゃんは、電池残量が半分になったらすぐに交換することを決めました。
毎日紐を引っ張って動作確認!
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電池の残量を測って、減ってきたら交換するだけでなく、毎日紐を引っ張ってちゃんと音が鳴るかどうかも確認します。
電池の残量チェックと音を鳴らしての動作チェックは、おばあちゃんの日課となっていきました。
おばあちゃんも「孫のため」と使命感に燃えている様子で、毎日の防犯ブザーの点検を欠かさず行っています。
「そこまでしなくても大丈夫じゃない?」
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お父さん「おふくろって毎日毎日、さくらの部屋で何をしてるんだ? 警報みたいにものすごい音がしているんだけど……?」
お母さん「さくらのランドセルにつけている防犯ブザーの音よ。毎日ちゃんと音が鳴るか確認して、電池残量もチェックしてくれてるみたいよ」
おばあちゃんがさくらちゃんのためにやってくれているのは分かっていますが、防犯ブザーの音はかなり大きいのです。お父さんは、防犯ブザーの音が近所迷惑になるかもしれない、と心配してしまうのでした。
さくらちゃんが学校で不審者について授業を受ける
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ある日、学校で不審者について授業があったときのこと。
先生「いいですか? 皆さん。知らない人から声をかけられても絶対について行ってはいけません。いきなり連れていかれちゃうときもあるんですよ。もし『危ない!』って思ったら、ランドセルについてる防犯ブザーを鳴らして逃げてください」
これを聞いたさくらちゃんは、怖い人に捕まっちゃうんだ。遠いところに連れていかれたらどうしよう。お家に帰れないなんてイヤだよ。と、ものすごく怖くなってしまいました。
学校帰りに後ろから声をかけられて
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不審者の授業があった日の放課後。さくらちゃんは学校が終わって、通学路を歩いて帰っていました。もうすぐ家に着くところで、後ろから男の人の声がします。
「おーい!」
さくらちゃんはハッとします。今日、学校で習った不審者っていう人だ! どうしよう、連れていかれちゃうかもしれない。イヤだ、怖いよ。パパ、ママ、どうしよう……怖くて自然に涙が出てきます。
さくらちゃんは大声で泣き出したい気持ちをグッと押さえて、先生の言葉を思い出しました。
(そうだ、防犯ブザーを鳴らして走って逃げよう!)
さくらちゃんは、ランドセルについた防犯ブザーの紐を強く引っ張ります。同時にけたたましい「ピピーッ! ピピーッ!」という音が周囲に鳴り響きました。
家はすぐそこ。さくらちゃんは、怖くて怖くて大声で泣きながら走ります。後ろから男の声がしますが、さくらちゃんは怖くて仕方がありません。涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、走り続けました。
周囲には、たくさんの人がいました。女の子の大きな泣き声、追いかける男性。そして鳴り響く防犯ブザーの音。
周辺の空気は一気に凍りつきます。
「おい、不審者だ! 捕まえろ!」周りの大人が叫びます。
後ろからいろいろな声が聞こえてくるけれど、さくらちゃんはお構いなし。とにかく走って逃げます。家の玄関を開けると、おばあちゃんが出迎えてくれました。
さくらちゃん「怖かったよー、うわあああああん!」
おばあちゃんに、泣きながら抱きついたさくらちゃんなのでした。
早く帰ってきたお父さん 声をかけたのは……
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お父さん「た……ただいま」
お父さんがげっそりした顔で帰ってきました。いつもよりずいぶん早い帰宅です。
お父さん「たまたま早く帰れることになって、途中でさくらを見つけたんだよ。声をかけたら防犯ブザーを鳴らして走って逃げるもんだから、周りの人に不審者だと思われちゃったよ……」
さくらちゃんは声をかけてきたのがお父さんだと分かって、やっと安心しました。学校で不審者について授業を受けたばかりだったので、つい勘違いしてしまったのです。
おばあちゃん「そうかい、お前の顔がよっぽど不審者に見えたんだね。でもさくらの防犯ブザーが、ちゃんと動いて役に立ったんだから良かったじゃないか。」
お父さん「近所のおばさんがその場にいたから説明してくれて助かったけど、もしおばさんがいなかったら本当に警察を呼ばれちゃうところだったんだぞー」
笑い話に聞こえますが、お父さんにとっては大変な出来事だったようです。
さくらちゃん「お父さんごめんね」
さくらちゃんは、お父さんに申し訳ない気持ちになってしまいました。なんとなくランドセルを見ると、見慣れた防犯ブザーがゆらゆら揺れています。
おばあちゃん「良い予行演習になった。ぶ男もたまには役に立ったじゃないか」
さくらちゃんは、おばあちゃんがいつも点検してくれている防犯ブザーを見て、なんだか少しホッとしたような気持ちになりました。
記事内容は執筆時点(2020年03月)のものです。最新の内容をご確認ください。
<共同執筆者>
とや
フリーライター
ライターとして記事を書きつつ、カメラマン、コスメコンシェジュ、ラジオパーソナリティーとしても活躍中。