コラム東京23区の3割は「水没」、のハザードマップの使い方

公開日:2018-11-22

保険を選ぶときに「知っ得」話~第4回

 

 

 豪雨による水害が目立っています。日本の首都である東京は水害に強いのでしょうか?

 

 過去最大規模のスーパー台風が東京を直撃すると、23区の3割が浸水被害に遭い、その中には最大10メートルを超え、1週間以上も水が引かない地域もある――。これは2018年3月に東京都が公表した被害の想定です。

 

 都は、現在想定する最大規模の高潮で河川が氾濫生した際に、浸水が起きる区域を「高潮浸水想定区域図」として公表しました。上に挙げた被害はこれを基にしています。

 

 この「高潮浸水想定区域図」の公表を受け、都内の各区は「ハザードマップ」を作成することになります。ハザードマップは一定の想定に基づいて自然災害による被害の範囲を地図で示したもので、2015年の水防法改正によって現在想定し得る最大級の被害想定を基に、作成されることになっています。

 

 高潮による浸水被害の他にも、ハザードマップの種類は地震や火災など様々で、自治体が公開しています。住んでいる地域の各種ハザードマップを活用すれば、火災保険で自分にはどのような補償が必要なのか、また不要なのかのヒントを得られます。それが今回の「知っ得」ポイントです。

 

23区の東部3区は面積の9割が浸水

 

 ではその例として、冒頭に挙げた「高潮浸水想定区域図」を使って、同じ東京で高潮被害に対する備えが必要な地域と、そうでない地域があるのかを見ていきましょう。高潮とは、台風や発達した低気圧が通過するときに海水面が大きく上昇することで、満潮と高潮が重なると水位がさらに上昇し、大きな災害が発生しやすくなるといわれます。

 

 都の想定で、大きな被害になるとみられているのが23区東部で、葛飾区・墨田区・江戸川区は、それぞれの区の面積のほぼ9割が浸水すると予測されています(下の図)。一方、渋谷区や世田谷区、杉並区、中野区、練馬区などは浸水が想定されていません。

 

 

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 浸水の高さは10メートル未満でも、浸水継続時間が12時間を超える場所が隅田川や江戸川、多摩川の一部の流域に見られることが分かります。

 

 

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 東京湾の最奥部にある東京は、もともと高潮被害を受けやすい地形のため、都も水害に耐えられる街をめざして、高潮対策事業を進めてきました。それでも、先に示したような大きな被害が予想されているのです。

 

 前提条件は、これまで日本に上陸した最大規模の台風が東京湾周辺を通過したケースで、中心気圧は1934年に発生した室戸台風の910ヘクトパスカル、台風の中心から風速が最大になる地点の距離は59年に発生した伊勢湾台風の75㎞です。そして移動速度は伊勢湾台風の時速73㎞で、この規模の台風が東京を襲う確率は、1000~5000年に1回とされています。

 

 自分が生きている間にこんなスーパー台風が到来する確率は非常に低いかもしれませんが、来ない保証はありません。地球温暖化に伴う海面上昇の影響は盛り込まれていないので、万が一の時は、想定より被害地域が広がったり、浸水の高さや浸水継続時間が増えたりすることもあり得ます。ハザードマップが示す以上の被害も起こり得ることは、肝に銘じておく必要があります。

 

被害区域に限らず、災害時の避難方法もわかる

 

 被害の規模を知ることも大事ですが、いざという時にどこに避難すればいいのか、あらかじめ頭に入れておくことも大切です。各市区町村が作成するハザードマップには想定被害区域に限らず、災害時の避難方法なども記載されています。

 

 下は大阪府の西南部にある忠岡町が作成している「津波ハザードマップ」です。津波が起きたときの浸水区域や浸水の高さのほかに、避難すべき場所や指定避難場所が表示されています。

 

 

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 多くの市区町村のウェブサイトでは高潮や洪水、内水(公共の水域等に雨水を排水できないことによる出水)、火山、土砂など地域の災害特性に応じたハザードマップを作成し公表しています。

 

 また国土交通省のウェブサイトには、各自治体が作成している各種のハザードマップへの入り口となる「ハザードマップポータルサイト」があります。ここには、日本各地の各種ハザードマップを見られる「わがまちハザードマップ」と、複数の災害リスクを同時に確認できる「重ねるハザードマップ」という2つの入り口があります。

 

 

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 上の図の右側にある「わがまちハザードマップ」は、日本地図から住所地を選択するか、災害の種類から選択して、全国の市区町村が公開しているハザードマップを確認できるものです。カテゴリーは洪水・内水・高潮・津波・土砂災害・火山の5つあります。

 

 これに加えて地震防災・危険度マップがあります。確認できるのは、震度被害・地盤被害・液状化被害・建物被害・火災被害・避難被害・その他被害を予測したそれぞれ地図を確認できます。

 

 ハザードマップは自治体によって整備状況が異なります。上に挙げた5つのカテゴリーと、地震防災・危険度マップにある各種被害を、すべての自治体が作成しているわけではありません。そうした中で、洪水ハザードマップについては整備が進んでおり、対象市区町村の98%が公表済みです。

 

 上の図の左側にある「重ねるハザードマップ」では、その名の通り複数のをハザードマップを重ねてみることができます。災害時に危険が想定される道路防災情報などを同時に表示できるなど、なかなかのスグレモノです。

 

 また指定した住所について、古い時代の航空写真なども見られるので、昔はそこがどのような土地だったのか確認することもできます。例えば、今はアスファルトに覆われている地域でも、昔は海や湖でその後に埋め立てられた土地であるとか、参考になる情報を確認できます。

 

火災保険の補償選びでも活用できる

 

 では、ここから今回の「知っ得」ポイントである、自分に適した火災保険を選ぶ際の活用法についてみていきましょう。たとえば、洪水・土砂災害・高潮などのハザードマップで被害が予測されるなら、火災保険の「水災」をセットします。逆に水害が考えにくい立地だとか、都市部のマンションの高層階に住むなら、水害補償をなくせば保険料を抑えられます。

 

 耐震性能が高い、新しい建物に住んでいれば、地震保険は必要ないでしょうか。損害保険料率算出機構が地震保険に未加入の人に聞いた調査では、加入しない理由の46%は「住宅の耐震性が充分高い」、25%は「住居建物が新しい」と回答しています(「地震危険に関する消費者意識調査」の2012年版)。

 

 しかし、耐震性が高い住宅でも近隣で起きた地震による火災で自宅が延焼したり、液状化で建物が傾いたりなどの被害が発生することもあります。地震による被害は地震保険に加入していないとカバーできません。地震防災・危険度マップを確認して検討するとよいでしょう。

 

「ハザードマップを見たことがない」が3割

 

 残念なことに、ハザードマップの活用はいまひとつです。15年の関東・東北豪雨で大きな被害が生じた茨城県常総市では、実は09年にハザードマップを住民に全戸配布していました。しかし見たことがあるのは3割の世帯に過ぎませんでした。

 

 また今年起きた西日本豪雨では、岡山県倉敷市が作成されたハザードマップの想定とほぼ重なる被害が出ました。しかし、同市で50人の死者が出てしまったことを考えると、想定被害の情報は住民に十分浸透していなかったようです。

 

 住宅を購入する際、立地条件として交通の便や通勤時間、土地や建物の価格を優先するとの回答数が圧倒的に多い一方で、災害に遭う危険度について鑑みる人はわずかです。先の地震保険に関する調査でも、地震保険の未加入者は、地震や火山のリスクを考えている人は約8%、風水害については1%程度に過ぎません。

 

 ライフプラン(生活設計)というと、老後の暮らし向きのことが気になりがちですが、今や災害に対する備えなしのプランは成り立たない、といっても過言ではありません。快適な人生を送るためにも、改めて自分の住んでいる場所のハザードマップの確認をし、必要な対策を講じておきましょう。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員

執筆者の紹介

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー
清水香(Kaori Shimizu)

生活設計塾クルー・取締役 ファイナンシャルプランナー(CFP・...

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