「うちはオール電化住宅だし、煙草も吸わないから、火災保険は要らないんですよ」
こんな話を耳にしたことがあります。ですが、これは誤解による間違った判断と言わざるを得ません。どのような人でも火災保険は必要であるからです。
なぜでしょうか。これが今回紹介する知っ得ポイントです。
第3回「火災保険は「火災だけではない!」で紹介したように、火災保険は火災に限らず、自然災害でこうむる住まいの損害をカバーする保険です。近年、豪雨や洪水、土砂崩れといった災害が相次ぐなか、被災の備えとして火災保険の存在感が増してきています。
一方、商品の名称にある「火災」そのものは、建物の不燃化が進んだことなどもあり、減少傾向にあります。消防庁が公表したデータによれば、2017年中に起きた建物の火災は2万1000件程度と、08年の7割未満の水準になっています。
減ってはいるものの、ひとたび起きれば住宅や家財などの財産はもちろん、命すら奪うほどの深刻な被害が生じ得るのが火災です。いくら気を付けていても、誰でも火災を起こすリスクをゼロにすることはできません。
さらに、自分が気を付けていたとしても、放火による被害を受ける、あるいは隣家など他人が起こした火災に巻き込まれることも考えられます。他人の行動はコントロールできません。火災の被害に遭わない保証は誰にもないわけです。
16年12月に新潟県糸魚川市で起きた大規模火災「糸魚川市駅北大火」を覚えている方も多いでしょう。出火原因は、中華料理店によるコンロの消し忘れ。幸いにして死者は出なかったものの147棟が焼損、うち120棟が全焼という大被害が発生し、多くの人が住まいや家財、そして店舗を失いました。
糸魚川市駅北大火の被害状況
まさに、他人の起こした火災に巻き込まれてしまったケースですが、このとき、火災を起こした火元の責任はどうなるのかと、疑問に思った人も多かったようです。
日本で暮らしまわりのルールを定めているのが民法です。その709条に、以下のような「不法行為」の規定があります。
他人に損害を与えたら、たとえわざとでなくても、その損害を賠償しなければなりません。たとえば自動車を運転していて他人にケガを負わせたら、被害者に対する法律上の損害賠償責任を負うことになります。デパートで商品を破損させたら、弁償しなくてはならないのです。
ところが火災では、そうではありません。以下の例外規定によって、火元は被害者に賠償しなくてよいことになっているからです。
つまり、民法の特別法である通称「失火責任法」では、火災を起こした火元に重大な過失がない限り、民法709条の規定を適用しないと定めています。
「重大な過失(重過失)」とは、故意(=わざと)ではないが、不注意のレベルの重い過失、いわば非常識だと非難されるような行動が該当します。ケースバイケースですが、過去には、加熱した天ぷら鍋を放置して起きた火災や、ガス自殺を図ったことで発生した火災などが火元の重過失とされた事例があります。
他方、ちょっとしたうっかりミスが「過失」です。ストーブを消し忘れた、たばこの火を消し損ねるなどということは、どんなに気を付けていても誰でも起こし得ることでしょう。
失火責任法が設けられた明治32年は木造家屋が多く、ひとたび火災となれば、近隣への延焼は避けられませんでした。うっかり火を出し、自分も財産を失った火元に、延焼の責任すべてを負わせるのはあまりに酷。失火責任法はこうした趣旨から設けられているのです。
日本損害保険協会によれば、糸魚川市の火災で支払われた火災保険金は約11億7500万円、車両保険は987万円でした(17年1月5日時点)。この火災で、火元は重過失と認定されていませんが、仮に認定され被害者に対する損害賠償責任を負うことになっても、これだけの賠償金を負担するのはまず無理でしょう。
いずれにしろ、火災では、火元から損害賠償を受けられない可能性が高いということです。糸魚川市の火災は強風による自然災害と認定され、災害救助法および被災者生活再建支援法(第2回「災害で被災したとき、公的支援は期待できる?」参照)が適用となったため公的支援が行われましたが、通常の火災での公的支援はありません。住宅などの財産は、自分で守らなくてはならないからこそ、火災保険は誰でも必要なのです。
しかし内閣府によれば、持ち家世帯の火災保険(共済も含む)の加入率は82%に留まっています(内閣府「保険・共済による災害への備えの促進に関する検討会(2017年)」)。火災保険の更新をうっかり忘れたり、住宅ローン完済とともに終わった火災保険をそのままにしたりしていませんか? 機会をとらえて、確実に加入しておきましょう。では、ここからは火災保険の仕組みについておさらいしていきましょう。
火災保険では、住宅と家財のそれぞれに加入する形になっています。持ち家世帯はその両方に、賃貸世帯は家財のみに加入します。建物と家財の範囲は以下の通りです。
■ 建物
定義 | 土地に定着し、屋根および柱又は壁を有するもの |
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対象 | ☆ 畳・建具 ☆ 電気・ガス・冷暖房設備その他の付属設備 ☆ 浴槽・流し・ガス台・調理台・棚 *1 ☆ 門・塀・垣・物置・車庫 *2 |
非対象 | 屋外設備・装置 |
*1 これらに類いする建物の付属設備を含む。*2 その他の付属建物を含む
定義 | 建物の中に収容されている被保険者の所有物 *3 |
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対象 | A 1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・宝玉 および宝石・書画・骨董・彫刻物 B 賃貸入居者が所有する以下の物 △ 畳・建具 *4 △ 電気・通信・ガス・給排水・衛生・消火・エアコン *5 △ 建物に付加したエレベータ・リフト等の設備 △ 浴槽・流し・ガス代・調理台・棚 *6 |
非対象 | 自動車・自動三輪車・自動二輪車 *7 通貨・有価証券・預貯金証書 *8 *9 印紙・切手類 動物・植物等の生物 プログラム・データ |
*3 物置や車庫内を含む。 *4 契約時に明記が必要なことがある。 *5 その他これらに類するものを含む。 *6 エアコンは室外機を含む。 *7 建物に付加したその他これらに類するものを含む。 *8 総排気量125㏄以下の原動機付き自転車を除く。 *9 通帳・キャッシュカードを含む。*10 生活用の通貨と預貯金証書は、対象の建物内で盗難による損害が生じた場合のみ保険金の支払い対象
家財のうち、貴金属や書画・骨とう品などを保険の対象に含めることは可能です。ただしこうしたものは、保険金を受け取っても元には戻せません。再取得が難しいものや、貴重なものは、貸金庫に預けるなどの対策を検討してもよいでしょう。
また現金や通帳などは家財に含まれないため、損害を受けても保険ではカバーできません。タンス預金のある方は要注意ですね。ただし、自宅にあった生活用の通貨等が盗難に遭った場合には、一定額までは火災保険の盗難補償でカバーできます。
最後にもう1点。同じ火災でも地震が原因の火災には、火災保険金が支払われません。知っていましたか?
その理由は、地震が起こると平時より多くの火事が起こる一方で、道路の破壊や大渋滞の発生で消防活動は困難を極め、甚大な被害が発生してしまう可能性が高いからです。こうした事情から、地震による火災は、火災保険の補償対象になっていないのです。
地震が原因で起きた火災でも補償を受けられるようにするには、火災保険とともに「地震保険」に加入しておく必要があります。
次回は、地震保険についてお伝えします。
記事内容は執筆時点(2018年12月)のものです。最新の内容をご確認ください。