コラム地震保険の保険料は、本当に高いの?

公開日:2018-12-20 (更新日:2019-01-10)

保険を選ぶときに「知っ得」話~第6回

 

 

 

 「保険料が高いから」――。

 

 内閣府が実施する「防災に関する世論調査」の平成29年版によると、地震保険に加入しない理由で最も多い理由がこれで、全体の25.6%を占めました。この調査で地震保険、あるいは共済が提供する地震保障に加入していると回答した人は46.1%でした。

 

 地震保険は火災保険に付帯します。損害保険算出機構の統計で地震保険の付帯状況をみると、2017年時点で63%でした。制度が出来てから加入率は右肩上がりでずっと増えていますが、100%に遠く及ばないのは「保険料が高い」と感じるからのようです。

 

 では本当に高いのでしょうか。それが今回の知っ得ポイントです。

 

 保険料が高いと感じる理由は、いくつかあるでしょう。まず地震保険は火災保険の加入が必要で、火災保険の保険料にさらに地震保険の保険料を支払う必要があります。しかし、地震保険の補償額は火災保険の30~50%で、かつ住宅建物は5000万円、生活用家財は1000万円までと上限があり、さらに全損や一部損など損害の程度で保険金が変わってしまいます。

 

 仮に建物で最大5000万円を補償する契約にしても、損害の程度でその5%しか保険金を受け取れないこともあるのです。こうした仕組みの複雑さが、「高い」と感じさせているのかもしれません。

 

 地震保険の保険料にまつわる疑問を解いていくには、そもそも保険料はどうやって決まるのかを知った上で、地震保険料の算定が他の保険料と同様にはいかない事情があることを知る必要があります。

 

大数の法則が当てはまらない

 

 私たちが支払う保険料は、一定の事柄についての過去の発生確率をベースに算出されています。過去のデータを大量に集めて一定期間観察をすると、将来の発生確率が推定できる「大数の法則」によって、火災保険や生命保険などの商品は成立し得ているのです。

 

 しかしながら、それが当てはまらないのが「地震」によるリスクです。

 

 地震は、「いつ」「どこで」「どの規模」で発生するかが完全に解明されていません。過去のどの年にどのような被害が生じたかには、大きなばらつきがあります。同じ程度の揺れの地震であっても、いつ起きたか、またどこで起きたかでも、被害程度は大きく変わってくるものです。

 

 このように大数の法則が当てはまらず、巨大な損害が発生しうる可能性がある地震被害に対し、民間企業が単独で保険を運営し、対応することは困難とされ、つい50年ほど前まで地震保険は存在していませんでした。

 

田中角栄元首相が創設に尽力

 

 転機となったのは1964年の新潟地震でした。ちょうど保険業法の一部を改正する法律案を審議中だった衆議院大蔵委員会は、法案可決にあたり、以下の付帯決議を行いました。

 

 「わが国のような地震国において、地震に伴う火災損害について保険金支払ができないのは保険制度上の問題である。差し当たり、今回の地震災害に対しては損保各社よりなんらかの措置を講ぜしめるよう指導を行い、さらに既に実施している原子力保険の制度も勘案し、速やかに地震保険等の制度の確立を根本的に検討し、天災国というべきわが国の損害保険制度の一層の整備充実を図るべきである。」(出所:「地震保険50年の歩み」)

 

 当時、大蔵大臣だったのは、新潟を故郷とする田中角栄元総理でした。

 

 日本損害保険協会は、この付帯決議後に地震保険の創設を決議。その後、保険審議会で様々な検討を経て、1966年に「地震保険に関する法律」が成立しました。民間企業単独の保険商品ではなく、国が関与し、保険金支払責任も負う官民一体の「地震保険制度」が誕生したのです。

 

公的支援を受けられなくても地震保険金は受け取れる

 

 このような経緯で生まれた地震保険は、その災害特性を踏まえ、補償内容や保険金の支払基準、加入限度額などが他の保険とは異なっています。

 

 地震保険の特徴の1つは、個人が生活している住宅建物や生活用家財を対象とし、オフィスや工場物件は加入できず、貴金属や骨とう品などのぜいたく品は補償対象にならないことです。かつ、冒頭で紹介したように、火災保険とセットで加入し、その30~50%の範囲内で、住宅建物5000万円、生活用家財1000万円を保険金額の上限としています。

 

 こうした制限を設けているのは、地震保険が「地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的(地震保険法第1条)」としているからで、被災で発生した損害をすべて補償することを目的にしていないからです。大きな地震被害が発生すれば、巨額の保険金を支払う可能性があります。それでも確実に保険金が支払われるためには、損保会社や国の責任を一定の範囲内にとどめる措置も必要になります。

 

地震保険の契約ルール

注:筆者作成

 

 生活者の立場から見れば、火災保険金額が2000万円の場合、地震保険は1000万円が上限となります。この保険金では、失った住宅を再建することはほぼ不可能です。では地震保険は意味がないのでしょうか? 

 

 被災時には、住宅のほかにも多くのものを失います。一方で、大規模な災害が発生したときに受けられる公的支援は限られているのが現実なのです(第1回「人と物、二つのリスクに対応する公的制度が多いのはどっち?」参照)。 以下は、過去に大きな被害を及ぼした地震に関するデータです。被災者に支払われた「被災者生活再建支援金」の総額と「地震保険金」の総額を比べるとは、地震保険金の総額は東日本大震災では4倍、熊本地震では6倍ほどと驚くべき金額です。

 

 また今年6月に発生した大阪北部地震では、被災世帯の9割以上が一部損壊だったため、ほとんどの世帯は公的支援を得ることができませんでした。その一方で、支払われた地震保険金の総額は歴代3位となっています。公的支援を得られなかった多くの世帯が地震保険金を受け取ることができたのです。

 

 地震保険金はたとえ建物の完全な再建は難しくても、公的支援の実態を考えると生活再建のために必要な資金を得る有力な手段になり得るのです。

 

主な震災・地震で支払われた被災者生活再建支援金と地震保険金の総額

注:地震保険金の大きい順。 
*1 大阪北部地震は18年10月19日、その他は18年3月末時点。*2 2018年10月末時点。
*3 対象世帯は全壊11棟など。*4被災状況は全半壊住宅数が24.9万棟など

 

生活再建をはやくスタートしてもらうために

 

 地震保険のもう1つの特徴が、損害状況が4つに区分され、その区分に応じて保険金が支払われる水準が変わることです。

 

 火災保険では通常、修理額が損害額とイコールですが、地震保険はそうではありません。損害調査は住宅の主要構造部(柱・梁・壁・屋根・基礎など)に着目、その壊れ具合をカウントし、その程度を「全損」「大半損」「小半損」「一部損」と認定し、該当する保険金が支払われます。

 

損害の区分と地震保険金の支払い水準

注:2017年1月以降の契約 倒壊・火災の場合。16年12月末までの契約は3区分。筆者作成

 

 契約した地震保険金額が1000万円の場合(火災保険金は2000万円)、建物の主要構造部の損害が5割以上なら「全損」となり、支払われる保険金は契約金額の100%、つまり1000万円が支払われます。被害査定が「大半損」ならその60%の600万円、「小半損」では30%の300万円、「一部損」なら50万円です。このように支払額は修理に必要な額とイコールではないのです。

 

 一方、家財の被害状況は補償対象となる家財全体のなかで、何がどの程度被害を受けたかによって損害が区分されます。査定は家財を大きく5つに分類し、それぞれの分類別に被害の割合を出し、5つを積算して認定します。

 

 査定の仕方が大雑把なように見えますが、これには理由があります。地震は多数の世帯が被災する広域災害ですから、通常の火災保険と同様に損害調査を1軒1軒念入りに行っていると、保険金の支払いまでに相当な時間を要することになります。

 

 繰り返しになりますが、地震保険制度の目的は「被災者の生活の安定に寄与すること」です。大切なのは、被災者が速やかに保険金を受け取ることで、資金面から今後の見通しを立てやすくすること。生活再建に向かって歩み始めることを後押しするのが、地震保険の重要な役割なのです。

 

保険会社に利益なし

 

 最後に、しばしば「高い」と言われる地震保険料について。地震保険料のうち、保険金の支払いに充てられる「純保険料」は、文部科学省の「確率論的全国地震動予測地図」を用い、これらの地震が発生した場合に、どれだけの保険金を支払うことになるかをシミュレーションして計算されます。

 

 下図の赤いところほど地震発生確率が高くなります。加えてシミュレーションによって支払保険金が高いという結果になれば、純保険料も高くなります。地震保険料は都道府県、および建物構造により異なります。保険料の多寡は被災するリスクの高低を反映します。

 

 つまり、地震保険料は自分の住所地の被災リスクを図るモノサシであり、そのリスクが高いということは、地震保険の必要性も高いということを示しています。

 

確率論的地震動予測地図

出所:「全国地震動予測地図2018年版」(文部科学省 地震調査研究推進本部)

 

 また、地震保険料のうち、保険会社の経費にあたる付加保険料には、営利目的の保険に含まれる「利潤」がありません。地震保険は「被災者の生活の安定に寄与する」という目的のために設けられた国の制度であり、保険会社の営利のために存在してはいないのです。

 

 こうした理由を鑑みると、地震保険料は、実は構造的には安いものと言えます。貯蓄でカバーできないほどの深刻な経済的損失を受けたときに、まとまった一時金を確保するための唯一の手段といって過言のないものです。リスクの深刻さを鑑みたうえで、保険料の多寡を判断することが大切ではないでしょうか。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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