コラムマンション住まいに地震保険は不要?

公開日:2019-01-10

保険を選ぶときに「知っ得」話~第7回

 

 「分譲マンション住まいに、地震保険はムダなのでは?」

 

 これは、地震保険を特集したある報道番組に出演したとき、視聴者から寄せられた質問です。「マンションは頑丈で自然災害の被害を受けないから」、あるいは「自分の部屋だけ保険に入っていても意味がないから」といった話を耳にすることもしばしばです。

 

 「それって違うの?」と思っている人も多いかもしれませんが、その認識で良いのでしょうか。

 

 

分譲マンションも震災で被害を受けている

 

 過去に起きた震災では、多くの分譲マンションが被災しているのが実態です。東日本大震災では仙台市だけで120棟以上、熊本地震でも19棟のマンションが自治体から全壊と認定されています。頑丈と思われているマンションでも、地震によって居住が困難になるほど深刻な被害を受けることがあるのです。

 

 分譲マンションは、複数の住民同士で一つの建物を共有し、維持管理しています。修繕に巨額の費用がかかるマンションでは、将来の大規模修繕に備え「修繕積立金」を蓄えています。とはいえ突然の災害で損害を受けたとき、資金が十分あるとは限りませんし、そうなれば住民全員で話し合い、修繕もしくは再建費用をどうにか工面しなくてはなりません。

 

 一戸建てにはない分譲マンション特有の課題になるのが、家計状況や価値観が異なる住民同士が居住している点です。居住者の中には、住宅ローンの返済額がまだ多く残っている世帯もあれば、終の棲家として引っ越してきた手元資金が僅かな年金生活者もいるでしょう。修繕に住民の追加負担が必要となれば、マンション再建に向けた住民の合意形成も難しくなるかもしれません。

 

地震保険金の支払いで話し合いがスムーズに

 

 こうした分譲マンション特有の問題を、緩和する手段になり得るのが地震保険です。修繕資金を事前に確保し財源問題が緩和されることで、再建や修繕に向けて住民同士が合意しやすくなります。例えば2011年に発生した東日本大震災で被災した仙台市のあるマンションでは、地震保険によって修繕がスムーズに進んだ実績があります。

 

 このマンションの被災の程度は、当時の「全損「半損」「一部損」の3区分のうち「半損」でした(17年1月からは「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4区分に変更)。当該マンションの管理組合は2億6000万円の地震保険金の契約をしていたため、半損認定で1億3000万円の保険金を受け取りました。修繕工事費の見積もりは約1億円だったため、保険金の範囲で工事ができることになりました。

 

 実は当初、損保会社による損害認定は一部損で、その場合の地震保険金は1300万円となります。そのため修繕に関して住民同士の合意形成は難航していましたが、その後、半損の認定に切り替わり保険金が増えたことで、話し合いはスムーズに進んだそうです。

 

 この事例は仙台市にある一般社団法人の宮城県マンション管理士会が発行する冊子『震災とマンション』(平成23年11月10日版)に紹介されています。同冊子では、「管理組合が地震保険に加入していたかどうかで、その後の復旧工事に対する合意形成の進み方が大きく異なる」と地震保険の重要性が指摘されています。

 

 国土交通省が東日本大震災の翌12年9月に公表した「マンションの災害対応に関する取組み」でも、「地震保険の加入によって、復旧の費用を地震保険から補填するメドがついたことで、合意形成や工事が円滑に進んだケースが多かった」という主旨で、分譲マンションの地震保険の加入を評価しています。

 

 これらの報告をみると、地震保険は“ムダ”どころか、むしろ安心して暮らしを続けるための「インフラ」になり得るということが分ります。

 

 

標準ファミリータイプの地震保険金額が意外と低い理由

 

 では、分譲マンションに住んでいる場合に地震保険はどのように加入すればよいのでしょうか。分譲マンションにおける地震保険は、一戸建てと異なり加入方法が独特です。これが今回の知っ得ポイントです。

 

 一戸建てと分譲マンションの地震保険の最も違う点を理解するために、ここでクイズを出します。標準的なファミリータイプのマンションでは、個人が契約する地震保険金額はどれくらいでしょうか?

 

 答えは「約500万円」です。標準ファミリータイプの火災保険金額は約1000万円なので、地震保険は最大でその50%が限度となることによるものです。この話をすると「分譲価格が7000万円もするような高額なマンションなのに、なぜそんなに低いの」という疑問を耳にします。

 

マンションには専有と共用の2つの部分がある

 

 分譲マンションの地震保険金額が低額になる理由の1つは、分譲価格には、土地代や業者の利益等が含まれていて、分譲価格=建物の価格でないことがあります。もう1つの理由は、自分が住む「専有部分」以外の価格が含まれているからです。「共用部分」と呼ぶ場所です。

 

 一般に、専有部分は自分の住んでいる部屋の天井や床、壁の内側にある居住空間部分で、共用部分はそれ以外の場所になります。建物の躯体やエントランス、エレベーターなどが該当します。

 

 誤解されやすいのが居住している部屋にある窓枠や窓ガラス、そしてベランダについては、専有ではなく共用部分になります。これらは国土交通省の「マンション標準管理規約」( *記事下参照)に基づいています。ただし、マンションによっては同管理規約と異なる場合があるので注意が必要です。

 

 マンションにはこの2つの部分があり、これこそが一戸建てと、分譲マンションの地震保険の最大の違いになります。

 

「専有部分」と「共用部分」それぞれで保険に加入する

 

 では分譲マンションの地震保険で、留意しておくことはどんなことでしょうか? まず1つは、分譲マンションの地震保険は専有部分と共用部分に分かれ、区分所有者が掛けられる地震保険は専有部分となることです。専有部分に地震保険を掛けていれば、部屋の中は修繕できます。

 

 一方、共用部分が損害を受けたとき、専有部分の地震保険では対応できません。別途、マンション共用部分を対象にした地震保険に加入しておく必要があるのです。ただし、共用部分の地震保険は、区分所有者が個々にではなく、マンション管理組合が一括して契約します。

 

 先に触れた「マンション標準管理規約」には、火災および地震保険等について次のように定めています。それは、区分所有者は管理組合が契約締結を承認、管理組合の理事長が区分所有者に代理して保険金額の請求や受領をするというものです( **記事下参照)。

 

 

 このように分譲マンションでは、専有部分は区分所有者が、共用部分はマンション管理組合がそれぞれ火災保険や地震保険の契約をすることになります。

 

 では共用部分の地震保険金額は、どのように決まるのでしょうか。ポイントは2つあり、1つ目が火災保険金額の50%で、2つ目が専有部分・共用部分合計の保険金額で1戸当たり5000万円までが上限――です。

 

 先ほど専有部分の地震保険金の平均額を紹介しましたが、仮に500万円なら、共用部分は1戸あたり4500万円までで、仮にそのマンションが100戸あれば45億円まで契約可能ということになります。ただ実質的には共用部分の火災保険金額の50%となり、例えば、共用部分の火災保険金額が50億円なら、地震保険金額の上限は25億円まで設定できます。

 

 

共用部分の地震保険の加入率は「4割足らず」

 

 マンションの構造にもよりますが、一般に共用部分の再建ないし修繕費用は、専有部分に比べて大きくなります。ということは共用部分に地震保険が掛けられていないと、被災した際に再建や修繕がスムーズに進まない可能性が高くなります。

 

 にもかかわらず分譲マンションの地震保険の加入状況をみると、専有部分の地震保険加入率は7割超に対して、共用部分は4割程度にとどまっています。これは、管理組合が地震保険に加入することを知っている人が、案外少ないことが原因なのかもしれません。住んでいるマンションで共用部分の地震保険が未加入なら、速やかに対応するための話し合いを勧めたいところです。

 

 マンションの管理組合が新たに地震保険に加入する場合は、住民の合意が必要です。理事会・総会で過半数の支持があれば契約できるとされますが、月に数千円程度とはいえ個々の住民の負担が増える話は、スムーズに受け入れられないこともあるでしょう。

 

 しかし、前述のように、マンションの修繕費用は莫大なものになる可能性があり、住民全員のその後の生活設計、ひいては人生に関わる問題なので、住民がその危機意識を全員で共有して、準備を進めていくことが大切ではないでしょうか。

 

 

*国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」が定める「専有部分」の範囲
 
第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
     2 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
       一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
       二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
       三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
     3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分
       以外のものは、専有部分とする。
 

**国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」の「損害保険」に関する既定
 
第24条 区分所有者は、共用部分等に関し、管理組合が火災保険、地震保険その他の損害
        保険の契約を締結することを承認する。
     2 理事長は、前項の契約に基づく保険金額の請求及び受領について、区分所有者を
       代理する。

 

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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