コラム世界に広がるインシュアテックの波

公開日:2019-02-12

インシュアテックが拓く~第1回

 

 金融とIT(情報技術)が融合したフィンテックは、銀行や証券、保険そして家計と、お金に関係する様々な分野で始まろうとしている。その中で、日本発のフィンテックとして有望視されているのが、保険とITが融合したインシュアテックの分野です。

 

 高齢化断トツ世界一、医療費の増大が国庫を圧迫し続ける日本において特にその成長余地と技術の発展の可能性は大きいといえるでしょう。潜在的な可能性もあり、保険会社も開発に力を入れているようです。

 

日本銀行が集計している「日銀短観」によれば、保険会社のソフトウエア投資額は、金融機関のみならず大企業全産業を上回るほどに投資意欲は旺盛です。保険会社が、新たなテクノロジーの開拓に特に力を入れている様子がうかがえます。

 

 

 経済産業省の分類によれば、インシュアテックが開拓する新たな事業領域は生命保険、損害保険ともに

 

(1)「保険購入アドバイス」、

(2)加入者同士で保険料を拠出し、その拠出金から保険金を支払うなどをする「ピアツーピア(P2P)保険」、

(3)「センサーを活用した保険」

 

 ――の3つのカテゴリーに大別されるとしています。いずれもが今までの常識からは想像もできないような、ワクワク感のある未来的な社会の到来を想起させてくれます。

 

 インシュアテックの分野は2010年前後から欧米を中心にスタートアップ企業が出始め、15年以降に一般向けのサービスが開始され、日本でも先進的なサービスを提供する企業が出始めています。ではここから、先に挙げた3つのカテゴリーについて欧米と国内のサービス例をみていきます。

 

【1】保険購入アドバイス

 

 契約希望者に最適な保険商品を助言するサービスで、従来からある保険の比較サイトはこのカテゴリーに入ります。インシュアテックを活用したものは、ビッグデータとAIを駆使して最適な商品を提案する、というサービスが開始されています。

 

 

A欧米の事例

 

 有名どころとして米国発ベンチャー企業のgabiが挙がります。AIが現在加入している保険プランをより使い勝手がよく、保険料もお手頃な商品を見つけた場合に、通知するサービスを展開しています。

 

現在は主に損害保険に対応し、スマホ上のアプリで全ての操作が完結します。従来の保険比較サイトとの違いは、利用者が自らの手間を掛けて探す必要がなく、AIが提案した商品に対して良し悪しを判断すればよい点です。gabiによれば、平均で460ドルもの大きな節約になるようです。

 

B日本の事例

 

 日本でも、同様にAIを使った保険提案を行うベンチャーとして、Sasuke Financial Labがあります。「ドーナツ」と呼ぶ保険ロボアドバイザーサービスを展開し、簡単な質問に答えるだけで、AIが最適な保険を提案してくれます。

 

また、NTTドコモと東京海上日動火災保険も、スマホでAIが最適な保険を提案するサービスを19年上旬に提供を検討との報道もあります。スタートアップだけではなく、大手生損保を含めたAI保険サービス合戦は今年から激化しそうです。

 

【2】P2P保険(ソーシャル・インシュアランス)

 P2P保険というとイメージが湧きにくいですが、SNS(交流サイト)などで小さな保険グループを作り、そこに蓄えられた保険料から保険金が支払われる、というのが基本的なサービスです。

 

A欧米の事例

 ドイツのフレンジュランス(Friendsurance) がP2P保険の草分け的な存在です。保険加入者は知人間でグループを作って保険料をプールし、そこから保険金を支払う仕組みです。

 

 保険会社は、プールした資金を超えて保険金が発生した場合に不足分を補填します。前年の保険金支払い実績で保険料の割引率が決まる制度のため、メンバーの保険料を安くなるように加入者が事故に遭わないにより注意を払う効果もあるようです。

 

B日本の事例

 日本では、保険限定ではありませんが、互助組織サービスを提供するBrainCatが類似のサービスを展開しています。加入者が各々の目的に応じて互助組織を作り、そこへメンバーが定期的にお金をプールし、お金が必要になった際に給付される仕組みです。保険に近い働きをするクラウドファンディング・ビジネスといったところでしょうか。

 

【3】センサーを活用した保険

 センサーを通じて、人やクルマなどの物に関係するデータを収集し、保険に応用するもので、生命保険と損害保険の分野で、保険商品が登場しています。生命保険では「健康増進型」と呼ぶ保険、損害保険ではテレマティクスと呼ぶテレコミュニケーション(電気通信)とインフォマティクス(情報処理)を合わせた造語の保険が登場しています。

 

ⅰ健康増進型保険

 加入者の歩数や心拍数といった健康データをウェアラブル端末やスマホアプリで収集し、健康状態を定量的に把握します。その数値に応じて、保険料が変動、割引になる仕組みで、健康になるほど得をする新型の生命保険として注目を集めています。

 

 

A欧米の事例

 米国のOscarがこの分野の主役です。公的保険制度が脆弱な米国で、民間企業の同社は、加入者の健康管理に積極的に関与することで医療費や保険金の請求件数を抑えています。スマホで保険加入、健康情報を一括管理できるだけではなく、医師や看護士への無料相談および診察予約、日々の歩数に応じたギフト券還付などの様々なサービスが受けられます。

 

B日本の事例

 東京海上日動あんしん生命保険の「あるく保険」や、最近では住友生命がソフトバンクなどと提携・開発した「Vitality」が有名です。2つの保険とも、ウェアラブル端末とスマホアプリで日々の歩数、健康診断の受診状況などを収集し、既定の基準を満たすごとで割安な保険料や還付金を得られるといった商品です。

 

 また、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険では、新たに女性の健康管理という視点からサービスの検討・開発に取り組んでいるようです。

 

ⅱテレマティクス保険

 テレマティクスとは、テレコミュニケーション(電気通信)とインフォマティクス(情報処理)を合わせた造語で、保険分野では特に自動車保険に用いられます。人間に対する健康増進型保険を、そのまま車に当てはめた形式の保険商品の位置づけです。

 

A欧米の事例

 米国のプログレッシブが提供する「PHYD(Pay How You Drive)」の自動車保険がこの分野のパイオニアです。走行距離や速度、急ブレーキなどの危険行為のデータを蓄積し、保険料を決めています。

 

 特に、日本と比較して保険料の高い欧米では急速に普及し始めています。海外での需要の高さから、18年に日本のあいおいニッセイ同和損害保険が欧州市場に参戦するほどです。

 

B日本の事例

 日本での草分けは、ソニー損害保険です。契約者にセンサーを無料で貸与し、急ブレーキなどの危険行為をセンサーが検知すると減点され、その点数に応じて保険料がキャッシュバックされます。

 

 また、損保ジャパン日本興亜は運転診断アプリを市販のカーナビにインストールすることで走行データを収集し、保険料を最大20%割り引くという商品です。大手他社も、ドライブレコーダーやスマホなどを用いて同様のサービスを幅広く実施しています。

 

 ここまで、インシュアテックの概略をみてきましたが、どれも先進的で、独自性と利便性に優れるものばかりです。金融機関のテクノロジー、AIというと、どうしても金融機関の業務効率化や投資技術に傾倒しがちなイメージがありますが、我々に身近な保険という商品にもこれだけの技術が応用され、実用化されているのには驚きを隠せません。

 

 ここで取り上げた以外にも、最近流行りのスマートホーム(家電をIoTで一括管理する機能)と連携した火災保険など、あらゆる事象がインシュアテックの対象としてサービスが進んでいます。今後の技術のさらなる進化にも目が離せません。

 

 もし気になるサービスがあれば一度お手元のスマホにアプリをインストールしてみてはいかがでしょうか。最先端のインシュアテックに気軽に触れるのも、また一興です。

 

構成/真弓重孝=みんかぶ編集部

執筆者情報
大川智宏(Tomohiro Okawa)

大川智宏(Tomohiro Okawa)
  智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト

2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。当社の株式情報サイト『株探』のプレミアム会員専用コラム「日本株・数字で徹底診断!」を連載中。


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