ある新聞の連載コラムで空き家のリスクについて取り上げたところ、読んでくださった方からこんなお電話がかかってきました。
「兄が施設に入って以来、兄の所有する古い一戸建てを私が管理することになったんです。でも遠方だから管理が行き届かないし、夏が近づくごとに、台風で屋根が飛ぶのではないかとハラハラしているんですよ」
そこで、「台風で住宅が損壊したら、火災保険で修繕できますよ。火災保険は掛けていますか?」と尋ねたところ、「エッ? 空き家に保険を掛けるなんて、考えてみたこともなかった」と答えられたのです。
こう思っている方は、案外多いのではないでしょうか。しかし、実際に住んでいない家でも、損害が生じれば費用負担が発生します。空き家は防災上・防犯上のリスクが高いので、居住中の住宅よりも火災保険等の必要性が高いともいえるのです。
日本で増え続け、問題となっている「空き家」。今から51年前の1968年には総世帯数を総住宅数が上回り、以降、空き家は増え続けています。総住宅数における空き家の割合は現在13.5%、空き家数は約820万戸にものぼっています(総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査」)。
住宅は老朽化するほど、不測の事態が起きるリスクが増していきます。冒頭で紹介した方が心配されているように、自然災害で被災しやすくなるほか、不審者が入り込む、放火されるなどのリスクも高まります。損害を受けた住宅を片付けるのに、数百万円の負担が必要になることもあります。保険に入っていなければ、それらはすべて自腹です。
もうひとつ無視できないのが、損害賠償のリスク。空き家が原因で第三者に損害を与え損害賠償を求められるケースです。台風などの影響で空き家の屋根が剥がれ落ちて隣家を破壊したり、そこの住人がケガを負ったりすることも考えられます。そうなった場合、空き家の所有者は管理の過失を問われ、民事上の損害賠償請求を求められることになりかねません。
その損害賠償額は予測できず、人を巻き込む損害が発生してしまった場合には億単位の賠償額になることも。第三者に限らず、空き家を引き継いだ子ども世代が、人生に大打撃を受けることすら、あり得るわけです。
時間の流れと共に、より速く老朽化が進むのが空き家です。根本的な問題解決を図るには、早いうちにリフォームして使ったり、貸し出したり、思い切って売却するしかありません。しかし空き家の所有者に今後5年程度の利用意向を問うと、2割強が「空き家にしておく」と答えています(国土交通省「平成26年空家実態調査」)。
空き家の利活用を進めることは労力的・経済的に負担が大きく、また自分の思った時にすぐに売れたり、借り手がついたりするわけでもありません。「当面は置いておくしかない」。これが多くの人の現実なのでしょう。その当面の間、空き家が原因で家計が深刻なダメージを受けないよう、適切に「保険」に加入しておく必要があります。
では、どのように? これが今回の知っ得ポイントです。
空き家は、原則として住宅用の火災保険に加入できないので、事務所や店舗等向け(「一般物件」といいます)の火災保険に加入します。損害保険には「通知義務」があり、住宅の用途や構造などが変わったとき、契約者は保険会社にそれを通知しなくてはなりません。これを怠ると、通知義務違反ということになり、保険金が支払われないこともあります。
もし、居住中の火災保険に空き家になってもそのままにしているなら、保険会社や代理店に申し出て、必要な変更手続きをしましょう。
現在の火災保険はおおむね、同程度の住宅を再築するのに必要な金額を保険金額にしており、それは古い空き家でも同じです。また風水害などの補償も受けられるので、空き家が大きな損害を受けたとき、まとまった資金を確保できます。
空き家管理の過失が元で第三者を死傷させたり、物に損害を与え賠償請求されたりするリスクには「施設賠償責任保険」に加入して備える必要があります。自宅外の空き家に関わる損害は「個人賠償責任保険」では補償されないので、火災保険と一緒に加入します。
居住用の火災保険と、空き家に掛ける火災保険及び賠償保険をほぼ同条件で比較してみると、保険料は空き家の方が年間1万円高くなりました。保険料の高さは、とりもなおさずその物件のリスクの高さを示すもの。空き家の方が、よりリスクが高いということを表しているのです。
ケース |
居住住宅に掛ける火災保険 |
空き家に掛ける火災保険 |
商品 |
個人用火災総合保険 +個人賠償責任特約 |
店舗総合保険 +施設賠償責任保険 |
保険 金額 |
個人用火災総合保険 2000万円 個人賠償責任特約 1億円 |
店舗総合保険 2000万円 施設賠償責任保険 1億円 |
補償 内容 |
火災/落雷/破裂・爆発/風災、雹災、雪災(*1)、水災(※2) 建物外部からの物体の落下・飛来・衝突など/漏水などによる水濡れ/ 騒擾・集団行動等に伴う暴力行為/盗難による盗取・損傷・汚損 |
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保険料 |
年3万7380円 (うち個人賠償責任特約1260円) |
年4万7380円 (うち施設賠償責任保険2180円) |
ただ、保険に加入していれば、空き家にまつわるすべてのトラブルを解決できるわけでもありません。個人の生活再建を支えるためにある地震保険は、空き家では加入できません。誰も住んでいないので、被災者生活再建支援法による給付金も支給されません。
また、先に触れた施設賠償責任保険は、地震が原因の場合は補償の対象外です。地震が原因で空き家が崩落し、隣家を倒壊させたり、火災が発生して延焼させたりした場合、保険金は支払われません。空き家に地震がらみでダメージを受けても、打つ手がないのです。
放置された空き家にはごみが不法投棄されたり、また樹木が繁茂し放題だったりとしています。事件や事故が起きていなくても、周辺環境や景観が悪化し、地域に悪影響を及ぼしかねません。ここまでいくと、行政上の処分を受ける可能性もあります。
2015年2月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、倒壊等の恐れや衛生上、景観上問題のある「特定空家等」の所有者に、市区町村長は必要な措置を助言・指導・勧告・命令できるようになっています。所有者が従わなければ強制執行も可能で、勧告等を受けた所有者は敷地の固定資産税等が最大6分の1となる減額も受けられなくなります。
高齢者、特にこれから後期高齢者となる団塊世代の持ち家率は86.2%と非常に高く(内閣府「団塊世代の意識に関する調査」平成24年)、彼らの住宅を相続するジュニア世代の多くが、近く空き家問題を抱えることになるのかもしれません。
親亡き後、親の実家をどうするのかは、そう簡単に決められるものではありません。維持にかかる労力と経済的負担の大きさ、管理が行き届かないときのデメリット、そして災害や賠償で大きなダメージを負う可能性を、まずは家族で共有するところから始めてみてはいかがでしょうか。
新たな住宅は今も建ちつづけています。減少傾向とはいえ、18年の新設住宅着工件数は約94万戸にも。一方、すでに日本の人口は減っており、間もなく世帯数も減り始めると推計されています。空き家問題は、そう簡単に解決しそうにありません。
記事内容は執筆時点(2019年02月)のものです。最新の内容をご確認ください。