
話題のドラマ(時々ゴシップ)でつかむ~『保険』のカラクリ(第5回)
前回「認知症編(上)」の記事では、保険で支払われる入院や手術などの給付金を受け取るには、被保険者が請求することが大前提であることを説明しました。しかし、被保険者が何らかの事情で請求できない場合、指定代理請求人が代わって請求できることを紹介しました。
今回は指定代理請求人にはどんな人がなれるのか、そして注意点などについてみていきます。では再び妄想劇場にご注目ください。
指定請求代理人になれるのはどんな人?

真司
それで、指定代理請求人というのには、誰がなれるのでしょうか?

所長
おまたせしました。それではお答えします。
まず指定代理請求人として指定できる範囲は、死亡保険金受取人と同様決まっています。なおここからは代理請求人と呼びますね。
死亡保険金受取人の範囲は各保険会社共通なのに対し(第2回「事実婚・同性パートナー編」参照)、代理請求人の範囲は会社間に若干の違いがあります。といっても、ほとんど似ているんですけどね。ある保険会社を例に挙げると、
- (1) 被保険者の戸籍上の配偶者
- (2) 被保険者の直系血族または3親等内の血族
- (3) 被保険者と同居しまたは生計を一にしている被保険者の3親等内の親族
- (4) (3)以外で被保険者と同居しまたは生計を一にしている方で、当社が認めた方
- (5) 被保険者の財産管理を行っている方で、当社が認めた方
- (6) (4)または(5)と同等の特別な事情があると当社が認めた方
としています。直系血族と3親等内の血族とは、下の図の黄色とオレンジの部分にいる人です。ところで、指定代理請求人と死亡保険金受取人の範囲の違いは、なんだと思いますか?
保険に関する親等表

真司
?

所長
1つは親族の範囲が3親等まで広がっていることです。もう1つは(4)~(6)にあるように、赤の他人でもいいって認めちゃってるんですよ。

真司
たしかに! 2回目のコラムでは他人を受取人に指定するの、結構大変そうでしたよ。いいんですか?
(真司さんも読んでてくれてた!がんばってきてよかった~と喜ぶ所長。気をよくした所長は、これから大胆なこと言いますよ)

所長
もし勘違いされると困っちゃうんですが、代理請求人を指定するのは割と簡単なんです。

真司
え~、ほんとうに!?

所長
代理請求人の場合、申込時に調査が入ることはありません。問題は実際に請求する時で、その時点で代理請求人の範囲内であることが重要なんです。
例えば、代理請求人を妻にしていて、その後離婚し、代理請求人を変更せずに元妻のままだった場合、上の(1)の「戸籍上の配偶者」という要件は満たしてないですよね。だからこの元妻からの請求には応じることができません。
それに(5)の財産管理を行っている方、は他人でもいいのですが、実際は認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人を保護や支援する「成年後見制度」を利用して、その証明書の提出ができる方でないと厳しいですね。例えば近所なのでいろいろとお世話をしてますって方では、絶対お手続きできません。
代理人の指定は容易でも、請求時は慎重に見極め

真司
つまり指定するのは簡単だけど、実際の請求時にはちょっと手続きが面倒になるってこと?

所長
そうです。もちろん必要な書類が全て揃えば、保険会社はちゃんと保険金や給付金をお支払いしますよ。ただし、契約や請求の内容確認、治療の経過や内容、事故の状況を調べたり、場合によっては医療機関に治療などを確認したりすることもありますので、支払いまでに時間がかかることが多くあります。
最近の傾向として、保険金などの早期支払い(通常5営業日以内)を掲げる保険会社が増えていますが、それに比べると代理請求人からの請求は慎重になる分、時間がかかってしまうケースが多いようです。

真司
なんだか便利なのか、そうでないのかよく分からないですね。

所長
早く給付金が必要なときはもどかしいですよね。でもこれも被保険者の権利を守るためなんです。
保険契約は、被保険者のために掛けているものです。分かりやすく言うと、「給付金は被保険者のもの!」なので、被保険者以外の人が請求をするときには、やはり慎重になる必要があるんですよね。
一方で、「死亡保険金は指定された死亡保険金受取人のもの!」になります。第1回「離婚編」で紹介しました「受取人変更をしていなかったら元配偶者が死亡保険金を請求できる」というのは、実はこの死亡保険金は受取人の財産とみなされているからなのです。

真司
たしかにそうですね。じゃあ、請求時に先ほどの範囲外だったり、そもそも代理請求人を指定していなかったりした場合はどうなるんですか。 請求できないってことですか?

所長
大丈夫ですよ。代理請求人として保険会社が認めた方が請求できます。その条件は保険会社によって違いますが、
被保険者と同居または生計を一にしている戸籍上の配偶者
3親等内の親族、
成年後見人などは
認められるとしている保険会社は多いですよ。

代理請求人は保険ごとに指定が必要
――確認の結果、尚さんの保険には真司さんが代理請求人として指定されていたので、真司さんは給付金の請求手続きを進めることにしました――

真司
ちなみに僕が手続きをしたことは、本来の請求人である尚ちゃんに知らされるのでしょうか。尚ちゃんは自分の病気のことを分かっているんですが、仮に内緒にしておきたい病気を尚ちゃんが患っていた場合は、どうなるんだろうと気になったので。
(真司さんって、どこまで人想いなんだぁ~涙涙涙)

所長
そうですよね。給付金が代理請求されたことを知って、ご本人が本当の病気を知ってしまうこともあり得ますよね。
ご質問に答えますと、まず保険会社が被保険者の尚さん宛てに手続き用の書類などを送付することはありません。また代理請求人からの請求で保険金を支払ったことも、被保険者に連絡することはありませんよ。

真司
でも給付金が尚ちゃんの口座に振り込まれたら、支払い事実を本人が知ることになりませんか。

所長
たしかに給付金は、被保険者の口座に振り込むのが原則です。しかし、事情があって別の口座にしたい場合は、保険会社に相談できます。それで「問題なし」と判断されたら、代理請求人が給付金の振込先を指定できます。これは保険金を請求する場合でも同様です。もし、変更する方がいいようなら、保険会社に相談してください。

真司
よかった~。指定代理請求制度ってすごく助かるし、いい制度なんですね。
他の保険にも付けときたいな♪ あ、この保険は僕が指定代理請求人になっていたから、他の保険も大丈夫か。

所長
そうとは言えません。保険契約が何本もある場合、保険ごとに指定が必要になります。保険証券を見れば、「付いている・いない」かが分かりますので、この給付金の請求手続きが終わったら、他の保険も一緒に確認してみましょう。
――真司さんは指定代理請求人として、尚さんに代わって給付金の請求をして帰宅されました。自分を忘れてゆく最愛の人との暮らしを真司や他の家族の人たちはどんな想いで過ごしていくのだろうかと、胸が苦しくなる所長です。今回の給付金がせめてものお役に立てますようにと、切に願ったのでした――

被保険者が真実を知ってしまうことは避けられない
いかがでしたでしょうか。被保険者が保険金や給付金を請求する保険は2001年以降、増えています。医療保険やがん保険、介護保険など第3分野と呼ばれる保険が、国内の全ての生保・損保会社で自由に販売できるようになったからです。
これらの保険はニーズの広がりもあって、今や大人気の商品です。このような被保険者が請求するケースが多い保険では、「指定代理請求」の制度は役に立つことが多く、その中身について是非、理解していただきたい仕組みです。
一方で注意してほしいこともあります。妄想劇場の中で、代理請求人が給付金を請求しても、保険会社は被保険者に連絡することはないと紹介しましたが、逆に被保険者が保険会社に何らかの問い合わせをした場合は、保険会社は事実に基づいて回答します。それは、繰り返しになりますが、給付金は被保険者のものだからです。
例えば、被保険者本人に本当の病名を告知しない状態で指定代理請求制度を利用したのち、それを知らない被保険者が自身の保険の保障内容を確認したくて保険会社に問い合わせしたとします。その保険会社からの回答によって被保険者が真実を知ってしまうことは十分に考えられます。
また、被保険者が知らない間に給付金が支払われてから、被保険者が再度請求した場合も保険会社が重複してお支払いすることはありません。給付金が支払われた時点で、加入した保険契約自体が終了したり、特約がなくなったりすることもあります。
代理請求によってトラブルが生じるのを避けるために、契約者は被保険者そして指定代理請求人との間で保障の内容や、どんな時に保険金や給付金が支払われるのかを確認しておくことをお勧めします。また代理請求特約も変化しており、保険会社によっては代理請求できる人の範囲が広がっていることもあります。それは勝手に変更されるわけではないので、契約者自身が新タイプへの変更手続きをする必要があります。
指定代理請求人の範囲や、代理請求できる保険金・給付金などの詳細については、ファイナンシャルプランナー(FP)などに相談してみるのもいいですね。
次回は「相続」編になります。
構成/真弓重孝、イラスト/井川純一=みんかぶ編集部
記事内容は執筆時点(2019年02月)のものです。最新の内容をご確認ください。