コラム知らないと損する高額療養費の特例

公開日:2019-04-04

保険を選ぶときに「知っ得」話~第13回

 

 

前回紹介したように「高額療養費制度」は、個人が負担する医療費が過剰になるのを防ぐため、負担を軽減してくれる仕組みです。高額療養費には、医療費がさらに軽減される特例があります。これが今回の知っ得ポイントです。

 

まずは高額療養費制度のおさらいです。我が国では健康保険制度によって総医療費の一定割合を自己負担します。医療費の自己負担割合は年齢や所得に応じて変わり、原則、現役世代(70歳未満)は3割、70歳以上は2割、75歳以上は1割になります。総医療費の一定割合の負担に抑えられるとはいえ、その負担額が高額になったときに軽減してくれるのが、高額療養費制度です。

 

1カ月の総医療費が100万円の場合、負担割合が3割の人の医療費は30万円になります。100万円が30万円になったとはいえ、それでも個人にとっては小さい金額ではありません。この場合、高額療養費制度によって、負担額は10万円に満たない額に抑えられます(所得に応じます)。

 

ただし、高額療養費は「診療報酬明細書(レセプト)」ごとに計算されます。レセプトとは、病院が保険請求の際に医療費を記した書類で、診療月別、患者別、入通院別、医療機関及び診療科・調剤ごとに発行されます。

 

そのため、それぞれの負担が高額療養費に届く負担にならなければ、原則として制度の対象に該当しません。さらに同じ病院で月をまたいで治療した場合は、レセプトは2枚になります。ということは、10日の入院期間で10万円を自己負担した場合でも、入院時期によって高額療養費の対象にならないケースもでてきます。

 

上のケースで、4月1~10日に入院した場合、自己負担の10万円は高額療養費の対象になります。しかし、4月22~5月1日に入院した場合、レセプトは2枚になります。それぞれの月で高額療養費に届く負担にならなければ、対象にはなりません。

 

特例は「世帯合算」と「多数回該当」の2つ

 

そこで、そんな場合でも医療費の軽減を受けられる高額療養費の特例があります。「世帯合算」と「多数回該当」と呼ぶ2つの仕組です。

 

最初に世帯合算について見ていきます。この特例は、患者別、入通院別、医療機関別などで計算していた高額療養費制度を、一定の条件を満たした場合には、世帯単位で適用するというものです。

 

一定の条件とは、同じ月内・同じ世帯内に医療費の自己負担が2万1000円以上となる人がのべ2人以上になること。1人でも決して軽くはない医療費を、同じ世帯に2人以上いたら家計は苦しくなりますね。世帯合算は、家計の医療費負担が過剰にならないための仕組みなのです。

 

例えば、通院検査後に入院したとか、親と子が別の診療所に通っていた場合も、「通院」「入院」、そして「親」「子ども」、それぞれの負担が2万1000円以上なら合算できます。100床以上で主要な診療科を含む総合病院では原則として、診療科に関わらず病院単位で合算できます。

 

なお、ここでいう「同世帯」とは、公的医療保険上の世帯が同じという意味です。自営業の世帯で家族全員が国民健康保険なら、同世帯。夫婦共働きで、それぞれの勤務先で異なる健康保険組合に加入しているなら別世帯になります。あるいは、夫の扶養に入っている妻や子どもは同世帯になります。

 

「世帯合算」、70歳未満は2万1000円以上が条件

 

下の表に示したように、70歳未満の人が同じ月内に3つの医療機関にかかった際に、合算できる・できない医療費について見ていきましょう。4月に負担した医療費は3つの医療機関の合計で10万5000円になります。この中で、歯科は金額が1万円で合算はできません。しかし、2万1000円以上の負担となったA病院の入院、及び眼科での2日間の医療費は合算対象になります。

 

これらの高額療養費を計算すると、自己負担の上限は8万596円になります。よって、超過した1万4404円は、手続きをすれば戻ってきます。この月の全体の医療費は高額医療費を適用された分と、合算対象にならなかった歯科の1万円を足した9万596円になります。

 

■「世帯合算」の計算例(年収約370万~約770万円の世帯・70歳未満の場合)

医療機関
(治療)

受診・入院
期間

医療費
自己負担額

合算の可否

 

A病院
(入院)

4月20
~30日

7万円

2万1000円以上で合算可能

 
 

B病院
(眼科)

4月1日

1万5000円

同一医療機関・同一診療科の外来支払額の合計が2万1000円以上で合算可能

 

4月5日

1万円

 

C病院
(歯科)

4月10日

1万円

2万1000円未満で合算不可

 
 
→1カ月の負担合計       10万5000円(うち世帯合算可能額9万5000円)
→世帯合算適用分の自己負担 8万596円 = 8万100+{(7万+1万5000+1万)÷3割-26万7000)}×1%
→自己負担の合計           9万596円 ← 10万5000円

 

このように、70歳未満の場合は自己負担額が2万1000円以上でないと合算対象になりませんが、70歳以上の場合は全ての医療費が合算できます。

 

1年に4回該当すると上限額が下がる「多数回該当」

 

もう1つの特例である「多数回該当」は、過去1年間に高額療養費に該当する月が3回以上になると、4回目からひと月当たりの自己負担限度額が下がります。例えば、年収500万円の人の高額療養費は「8万100円+α」ですが、最初に該当した月から1年以内に3回以上高額療養費に該当すると、4回目から上限額が4万4400円に下がります。

 

■「多数回該当」の高額療養費(70才未満)

所得区分

ひと月(暦月)当たり
医療費自己負担の上限

多数回該当

住民税非課税世帯

3万5400円

2万4600円

   ~約370万円

5万7600円

4万4400円

約370万
 ~約770万円

8万100円+(医療費の総額
 -26万7000円)×1%

4万4400円

約770万
 ~約1160万円

16万7400円+(医療費の総額
 -55万8000円)×1%

9万3000円

約1160万円以上

25万2600円+(医療費の総額
 -84万2000円)×1%

14万100円

 

治療が長引いたときに、助かる制度です。さらに本人だけでなく、同じ保険証を持つ家族が該当した場合も多数回該当として通算でき、4回目から世帯の自己負担上限額が下がります。70歳以上の高額療養費にも多数回該当はありますが、下の表のように低所得者ⅠとⅡ及び一般所得者の外来にはありません。

 

■「多数回該当」の高額療養費(70才以上)

所得区分

ひと月(暦月)当たり
医療費自己負担の上限

多数回該当

低所得者Ⅰ *

外来 8000円
世帯 1万5000円

左と同じ

低所得者Ⅱ **

外来 8000円
世帯 2万4600円

左と同じ

一般所得者 ***

外来 1万8000円
世帯 5万7600円

外来 左と同じ
    年上限14.4万円
世帯 4万4400円

年収370万
 ~約770万円

8万100円+(医療費の総額
 -26万7000円)×1%

4万4400円

年収770万
 ~1160万円

16万7400円+(医療費の総額
 -55万8000円)×1%

9万3000円

年収1160万円~

25万2600円+(医療費の総額
 -84万2000円)×1%

14万100円

注:*本人とその全ての扶養家族に所得がない場合。**本人が住民税非課税の場合。***他の所得区分に該当しない場合

 

「自ら手続き」が基本、手続きしないと損する!

 

高額療養費制度をはじめ、今回紹介したいずれの特例についても、自動的に負担軽減が行われるわけではなく、自分で手続きをするのが原則です。窓口は、加入する公的医療保険。国民健康保険に加入している人は市区町村役場、会社員は勤務先等の健保組合あるいは協会けんぽ、公務員は共済組合で手続きをします。

 

高額療養費及びその特例は、診療を受けてから2年経過すると時効にかかり、払い戻しを受けられなくなります。払い過ぎた医療費があるときは、自ら窓口に連絡をして、速やかに手続きを進めることが大切です。

 

なお、後期高齢者医療制度に加入している75歳以上の人の場合、払い過ぎた医療費は自動的に口座に振り込まれるので、払い戻し手続きは不要です。

 

必要な手続きを確実に行うと共に、制度の限界も知っておきましょう。前述のように、70歳未満の世帯合算は、2万1000円未満は切り捨てで合算できず、月をまたぐと合算できません。ちょこちょこ掛かった医療費で負担が増しても高額療養費には該当しないため、負担は軽減できないのです。

 

がんなど長期治療の場合は、恩恵を受けられない場合も

 

一方、長患いの場合にも、落とし穴があります。治療が長引きがちな病気の代表格といえば、がんでしょう。もちろんがんも、健康保険証を用いて治療を受けられます。ただ治療が年単位で続くケースもあり、高額療養費、及び多数回該当で自己負担額が抑えられても、長年にわたれば負担は重くなってしまうでしょう。

 

さらに大変なのが、高額療養費にぎりぎり該当しない高い医療費負担のまま、3割の医療費負担が長く続いてしまうケースです。高額療養費に該当しないため多数回該当も利用できず、長期にわたり重い医療費負担を余儀なくされることになりかねません。

 

単発的あるいは一般的な入院は、手元のお金で対応するのが基本です。ですが、がんなど治療が長引きがちな病気だと、医療費負担が大きくなっても軽減を受けられない、いわば「制度の狭間」に落ち込んでしまう可能性もあるわけです。

 

比較的安い保険料で保障を得られるがん保険には、こうしたときの家計負担を緩和する効果を期待できるでしょう。最近販売されているがん保険は、通院のみの治療でも保障を受けられるなど、現在の治療実態にフィットしたものもあります。公的給付の内容をよく知ったうえで、それでは十分カバーできない部分を見極め、その部分だけを穴埋めする――。これが民間保険の上手な利用法といえます。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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