コラムあまり入院しなくなる時代、医療保険は役に立つ?

公開日:2019-04-18

保険を選ぶときに「知っ得」話~第14回

 

 

前々回前回の記事で、我が国の公的医療保険の給付について確認してきました。日本には国民皆保険制度があり、誰もが健康保険証を持っています。保険診療である限り、月ごとに医療費の自己負担に上限が設けられる「高額療養費制度」が享受できるので、医療費は実はそれほどかかりません。

 

上限額は、年収500万円の人なら、ひと月8万円と少し(前々回記事参照)。なので、入院時の医療費を賄うために毎月保険料を支払い、医療保険に加入すべきかは考えどころ。手元の貯蓄でも賄える金額だからです。

 

そしてもうひとつ、医療保険の加入を検討する際に知っておきたいことがあります。

 

それは、世界に類を見ないスピードで我が国の高齢化が進展する中、社会保障制度の枠組みが、今と大きく変化する可能性もあるということです。医療保険はあくまでも現在の公的医療保険の給付を補完するもの。医療を取り巻く環境が大きく変わっても、有用であり続けるのでしょうか? これが今回の知っ得ポイントです。

 

急速に進む高齢化の問題

 

現在の社会保障制度の枠組みが整えられたのは、今から50年あまり前。1961年に国民皆保険・皆年金が実現し、68年に国民健康保険の自己負担割合が3割となり、その後73年には高額療養費が制度化されています。

 

70年当時を振り返ってみましょう。この時の日本人の平均寿命は男性69歳、女性は74歳でした。総人口に占める65歳以上の人の割合である「高齢化率」は7%を超え、高齢化社会に突入した時期でした。とはいえ、高齢者は今よりずっと少数でした。当時の医療に求められることは、主に青壮年期(16~50歳くらい)の人に対し、病院が救急・延命・治療、そして社会復帰を促すことが中心だったのです。

 

今はどうでしょう。2018年の平均寿命は男性81歳、女性は87歳まで伸びており、日本は、今や世界有数の長寿大国です。平均寿命というのは0歳の人の平均余命、すなわち、一定年齢の人が後にどれだけ生きるかを示すもので、現在の高齢者はさらに長生きとなります。現在65歳の人の平均余命を踏まえると、平均すると男性85歳、女性は89歳まで生きることになります。

 

長寿は喜ばしいことですが、高齢者が増え、17年の高齢化率は27.7%と1970年から20ポイントも上昇しています。そのため、病院にも高齢の入院患者が多くなり、病院で看取られる人は7割にも上ります。

 

2025年には団塊世代が後期高齢者になり、さらに高齢化が進行する中、これまでの体制を維持して病院が患者を受け入れれば、入院病床が不足したり、急患を受け入れられなくなったりして、病院の機能に重大な問題が起きかねない状況にもあるといわれています。

 

■過去と現在の医療の役割の変化

いま

時代

1970年代頃

80歳超

平均寿命

60歳代


 入院患者は高齢者が多く、看取りの約7割が病院で行われる。一方で、5割超の高齢者が自宅看取りを希望している。


 複数の慢性疾患を抱える高齢者には、地域で介護・生活支援とも連携した、QOLの維持・向上を目指す医療が必要とされるようになっている

医療の体制


 病院の役割は急性期の若い患者の治療、完治、社会復帰させることだった。これらを前提とする医療が必要とされた

地域完結型

医療の役割

病院完結型

出所:「社会保障制度改革国民会議」報告書   注:1970年代は現在の社会保障が整えられた頃

 

入院しにくくなる時代に

 

そこで国は、医療分野の制度の枠組みを大きく変えて、これまでの医療の機能分化を進めるなど、制度を持続可能にするための様々な方針を打ち出しています。

 

これまでと異なり、入院しにくくなることもそのひとつです。入院を急性期の患者に絞って、回復期にある患者をリハビリ病棟に移したり、治療後速やかに患者を地域に戻したりするために、生活支援も含めた在宅医療の仕組みを整えようとしています。近年の診療報酬改定でも、在宅医療の報酬を高く設定するなどして、在宅医療を推進しています。

 

そもそも、年を取ると心身機能が低下して、病気やケガでダメージを負いやすくなります。治療では完治に至らず、複数の慢性疾患を患いつつ、長年にわたり病気と付き合う高齢者も多いもの。普段の暮らしでも、高齢者は家事や移動に際して支障が出たり、認知機能が衰えて生活支援が必要になったり、さらに程度が重ければ介護が必要になる場合もあるでしょう。加齢により生じる課題は、医療からのアプローチだけでは必ずしも解決できず、暮らしを丸ごと支えるような多面的な支援が必要になってくるのです。

 

そこで政府は25年をめどに「地域包括ケアシステム」の構築を目指しています。考え方は、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供され、たとえ重度の要介護状態であっても、最期まで自分らしく暮らせることを目指すもの。自宅で過ごしたい高齢者が、生活の質を落とさずに、様々な支えを得て自宅暮らしを続けられるよう、地域が一体になって支援体制を作ろうというコンセプトです。

 

■「地域包括ケアシステム」の概要

注:社会保障制度改革国民会議第15回資料(平成25年6月13日)より筆者作成。サ高住はサービス付き高齢者向け住宅

 

「入院お助け保険」の存在意義は?

 

このように、時代の変化と共に、社会の枠組みや環境は変化してゆくものです。医療保険に入って入院に備えていれば老後も安心と思いきや、高齢になったときのニーズは、入院費の調達だけにとどまりません。将来、在宅医療が拡大し、自宅で生活支援を受けながら過ごすことになったら、入院しなくても医療費や介護費、生活支援に費用がかかることになるかもしれません。入院一辺倒の備えは、将来、裏目に出てしまう可能性もあるのです。

 

あるいは、医療技術の進歩によって、治療実態が変わることもあります。例えば、最近のがんの治療は、入院せず通院のみで行われる場合もあり、入院して手術するのが当たり前だった以前とは様変わりしています。以前加入した入院中心のがん保険では、給付を受けられないケースも出てきているのです。

 

最近の医療保険及び特約の加入率は約9割(生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2018年)、29歳以下に限ると9割超とさらに高くなります。現在の医療保険は、入院1日につき5000円などの定額給付を、終身にわたり受けられるものが主流です。

 

しかし、彼らが老後を迎えるのは、早くても30~40年後。人口動態、社会保障の枠組み、さらに医療技術の進歩による治療実態も、今とは大きく様変わりしているでしょう。その時、若いころに加入した医療保険の保障内容が、今のままの価値を維持し続けている保証はありません。

 

今の医療保険は“入院お助けグッズ”の様相が強く、これはこれから起こり得る医療の実態とずれてくる可能性が出ています。そうした保険は期間が長くなるほど、保険料の負担に対して適用される保障が見合わなくってくることも起こり得ます。こうした点も踏まえ、加入を検討する必要があるのです。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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