コラム差額ベッド料は払わないとダメ?

公開日:2019-05-09

保険を選ぶときに「知っ得」話~第15回

 

 

「医療費そのものは、保険証を使う限り、さほどかからないことは分かった(詳細は第12回・第13回へ)。でも、差額ベッド料があるから、入院にはやっぱりお金が掛かると聞いたんだけど

 

確かに、入院時に掛かることのある差額ベッド料と呼ばれる特別の療養環境は、保険診療の対象ではなく、全額が自費負担となります。その料金は1日当たり平均6144円です。ですが最低は同50円から最高は同37万8000円と、かなり割安だったり高額だったりする部屋もあります。

 

病室により、また病院によっても大きくばらつくということです(厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」より2016年のデータ)。実際に入院する段階で分かることも多いので、不安は大きくなりますね。そのため、入院時の医療費ではなく、差額ベッド料をカバーするために、民間医療保険に加入するという人もいます。

 

ですが、病院が差額ベッド料を徴収するときには、かねてからルールが設けられていて、患者が負担しなくてもよいケースもあります。これが今回の知っ得ポイントです。

 

より良いものを患者が自由に選べる「選定療養」

 

保険診療を受ける限り、私たちの負担は医療費の一部にとどまり、医療費が高額になったときには高額療養費制度による負担軽減が受けられます。

 

一方で、保険の利かない診療(保険外診療・自由診療)は、安全性や有効性がいまだ確認されていないもの。日本では、必要とされる医療は、基本的に安全性と有効性が確かめられた保険診療で行われるべきとされていて、保険診療と保険外診療を併用して治療を受ける「混合診療」では、保険診療分も含め全額が自己負担になります。

 

ですが例外もあります。「保険外併用療養費制度」に該当する療養は、保険外でも保険診療との併用が認められていて、保険診療は3割(現役世代の場合)、保険外併用療養費の該当分は全額自己負担で診療を受けられます。

 

保険外併用療養費制度には「評価療養」と「選定療養」があります。最初の評価療養は保険診療にすべきかを評価する段階で、臨床試験が行われている療養です。「先進医療」や「患者申出制度」がこれで、これらも安全性や有効性が確認されれば保険診療になります。

 

一方の選定療養は、より良いものを患者自身が選択できるものですが、保険導入は前提にされていません。例えば歯科診療では、保険診療で治療を受けつつ、保険外診療でインプラントや差し歯を入れることは一般的。そして今回の差額ベッドも、この選定療養にあたるわけです。

 

■診療の全体像

種類

概要

患者の負担

保険診療

治療の有効性・安全性が
確認された医療

現役世代は原則3割
+高額療養費制度

保険外(自由)診療

先進医療・治験の対象にならず、安全性・有効性も確認されていない医療

全額自己負担

保険外併用療養制度
(混合診療の例外)
 
未だ保険診療として認められていない医療技術で一定の安全性、有効性等を個別に確認した医療
 
保険適用部分は保険
診療、保険適用外部分は
全額自己負担

■保険外併用療養制度の種類

種類

概要

保険導入の評価

選定療養

 
特別の療養環境(差額ベッド)/
歯科の金合金等/ 金属床総義歯/予約診療/時間外診療/大病院の初診/大病院の再診/
小児う蝕の指導管理/180日以上の入院/
制限回数を超える医療行為
 

なし

評価療養

先進医療等

あり

患者申出制度

未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したい困難な病気と闘う患者にむけ、患者からの申出を起点とする仕組み

 

あり

 

個室でなくても掛かることが

 

差額ベッドは、患者がより良い療養環境を選択する機会を広げられるよう、病床の5割(国立病院の場合は2割、地方公共団体の病院の場合は3割)を上限に、病院が設定してよいことになっています。部屋の広さや設備の要件を満たす限り、4人部屋でも掛かる場合があります。

 

差額ベッド料の徴収にあたり、病院には以下のことが求められています。

 

① 受付窓口や待合室などに差額ベッドの数や料金を分かりやすく掲示すること

② 差額ベッド料の掛かる部屋に入院したい患者には、部屋の設備構造、料金等について明確かつ懇切丁寧に説明し、患者側の同意を確認の上に入院させること

③ 同意確認は料金等を明示した文書への患者等の署名で行う。この文書は病院が保存、

必要に応じて維持できるようにする

 

一方で、徴収してはいけないケースも以下のように定めています(下の図)。

 

■病院が差額ベッド代を請求してはいけないケース

Ⅰ 同意書による同意の確認を行っていない場合

 ・同意書に室料の記載がない、 
  ・患者側の署名がない等の内容が不十分な場合含む

Ⅱ 患者本人の「治療の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合

•救急患者、術後患者等であって、症状が重篤なため安静を要する者、または常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とするもの

•免疫力が低下し、感染症に罹患する恐れのある患者

•集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者

•後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者・クロイツフェルト・ヤコブ病の患者患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く)

Ⅲ 病棟管理の必要性から特別療養環境室に入院させた場合で、
   実質的に患者の選択によらない場合


•MRSA等に感染している患者であって、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、実質的に患者の選択によらず入院させたと認められる者の場合

•特別療養環境室院内外の病室の病床が満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者の場合

出所:厚労省「医療通知」(2018年3月5日 保医発0305第6号)

 

あくまでも、患者の希望に基づき負担する「差額ベッド料」

 

つまり、差額ベッド料に関しては、病院からその内容について、明確かつ懇切丁寧な説明を十分に受けた上で、患者側の希望と納得に基づいて同意書にサインをした場合に、支払うことになるわけです。治療の必要があって差額ベッド料の掛かる部屋に入院する場合には、病院は差額ベッド料を徴収できません。

 

「空きベッドがないと言われて断れなかった」というのはよく聞く話ですが、差額ベッド料の掛かる部屋に入院するかどうかは、あくまでも患者側の自由な選択と同意に基づいて行われることであり、病院の都合によるものは患者に負担させてはならない、ということなのです。

 

ですが、病院の都合であっても患者側が断り切れずに、あるいはよく確認しないままに同意書にサインしてしまえば、支払いに明確に同意したことになってしまいます。入院時にはよく注意したいところです。

 

また厚労省は、病院側の不適切な対応として、以下の事例を挙げています。

 

「特別療養環境室の設備構造、料金等についての明確な説明がないまま、同意書に署名させられていた」
「入院の必要があるにもかかわらず、特別の料金の支払いに同意しないのであれば、他院を受診するよう言われた」

 

これは同省保険局医療課が2018年7月20日付けで公表した「事務連絡」の「疑義解釈資料の送付について(その6)」に記載されています。

 

差額ベッド料について十分な説明を受けていないときは、まずは病院側に説明を求めましょう。その上で検討が必要なときは、同意書へのサインをその場でせずにいったん持ち帰り、第三者のアドバイスを受けるのもひとつ。病院を監督する地方厚生局、あるいは1994年から差額ベッド料の問題に取り組み、数多くの患者相談にもあたっている「支えあい医療人権センターCOML」でも相談を受け付けています。

 

また、差額ベッド料徴収のルールを記した厚労省から病院への通知は、ウエブサイトでダウンロードできます。ルールに基づかない不当な請求を受けた場合には、通知の内容を病院に示して、説明を求めるとよいでしょう。

 

いざというとき慌てずに済むように、平時に知識を蓄えておくのも大切な備えです。前述のCOMLが著した『入院する前に知っておきたい 新・差額ベッド料Q&A」(岩波ブックレット)は、いざというときにも大いに支えになってくれると思います。

 

差額ベッド料は入院時に掛かるかもしれない費用ですから、それを医療保険でカバーするのはひとつの方法ではあります。ただ、その判断をする以前に、そもそも差額ベッド料徴収のルールを知らなければ、望まぬ重い負担を余儀なくされることにもなりかねないのです。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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