コラム先進医療ってスゴイ治療?

公開日:2019-05-30

保険を選ぶときに「知っ得」話~第16回

 

 

「先進医療」――。この言葉の響きから、多くの人は「高いけど、すごく効く治療」を連想するようです。確かに、先進医療は保険外診療で治療費は100%自己負担。しかも、高額療養費制度(第12回第13回記事を参照)も利用できないので負担は重くなります。

 

では高い治療費を払っただけの効果があるかというと、「すごく」どころか「効く」という保証すらないのが、「先進医療」なのです。これが今回の知っ得ポイントです。

 

基本は安全で負担も少ない「保険診療」を受けること

 

私たちが普段医療機関で受けている診療は、国によって安全性や有効性が確認された「保険診療」です。新しい医療技術や新薬でも、安全性や有効性があると国から承認されたものは、原則としてほぼ自動的に保険の対象になります。

 

保険診療は安全かつ有効なだけでなく、負担面でも優れています。負担する医療費は原則、全体の3割もしくは1割ないし2割で済み、医療費が高額になれば、高額療養費制度による負担軽減も受けられます。また我が国の保険診療は、必要なとき、全国どこでも同じ値段で、公平に医療を受けられる国民皆保険制度と呼ぶ仕組で成り立っています。

 

一方で、安全性や有効性がいまだ確認されていないのが「保険外診療」です。日本では、必要とされる医療は、基本的に安全性と有効性が確かめられた保険診療で行われるべきとされていて、もし患者が保険診療と保険外診療を併用した混合診療を受けた場合、保険診療分も含め全額が自己負担になります。混合治療を原則禁止とすることで、医療の質や公平性を保とうとしているわけです。

 

ただし、混合治療が例外的に認められる場合があります。「保険外併用療養制度」と呼ぶ制度です(下の表)。

 

■診療別の概要と患者の負担

種類

概要

患者の負担

保険診療

治療の有効性・安全性が確認
された医療

現役世代は原則3割
+高額療養費制度

保険外診療

先進医療・治験の対象にならず、安全性や有効性を確認されていない医療

全額自己負担

保険外併用療養制度

保険診療を認めていない
医療技術で、一定の安全性や
有効性等を個別に確認した医療

保険適用部分は保険診療、
保険適用外部分は全額自己負担

注:保険外併用療養費制度は混合治療の例外

この保険外併用療養制度には、「選定療養」「評価療養」「患者申出療養」の3種類があります(下の表)。前回取り上げたように差額ベッド料(記事)や歯科治療におけるインプラントなどのように、より良い材料や療養環境を患者自身が選択するのが、最初に挙げた選定療養です。

 

そして今回のテーマである先進医療は評価療養にあたり、保険診療にすべきかを評価する段階にあって、臨床試験が行われている療養のことです。その結果、安全性や有効性が確認されれば、保険診療になります。また評価療養と同様、未承認の薬などを使うものに患者申出療養があります。

 

■保険外併用療養費制度の概要と制度下での先進医療の扱い

制度名

治療内容

 保険導入
 のための評価

評価療養

先進医療等

 行われる

患者申出療養

未承認薬等を迅速に
保険外併用療養として使用したい
困難な病気と闘う患者に向け、
患者からの申出を起点とする仕組み

 行われる

選定療養

特別の療養環境(差額ベッド)/
歯科の金合金等/金属床総義歯/
予約診療/時間外診療/
大病院の初診/大病院の再診/
小児う蝕の指導管理/
180日以上の入院/
制限回数を超える医療行為

 行われない


治療費の負担は、保険診療では自己負担分、先進医療については全額を自己負担します。仮に保険診療の治療費が5万円で、先進医療の治療費が15万円の場合、保険負担割合が3割の人なら、5万3割+15万円で16万5000円になります。

 

■先進医療の仕組み

 

先進医療であることが効果を保証するのではない

 

ある医療技術が先進医療として認められるためには、先進医療会議で安全性、有効性等の審査を受ける必要があり、また実施する医療機関は、厚生労働大臣に届け出または承認を受ける必要があります。こうして、一定の手続きを経たものが先進医療となります。

 

厚生労働省の資料によると、2018年6月末までの1年間で、先進医療の技術数は102種類でした。そのうち有効性や安全性が確かめられ、保険収載となったものは9種類ありました(「平成30年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」)。

 

先進医療の中でも陽子線や重粒子線といった粒子線治療は、高額の技術料がしばしば話題になりますが、小児がんや前立腺がんなど一部の疾病は、既存のX線治療と比べて効果があることが評価され、保険診療を受けられるようになっています。これにより先進医療では1件あたり平均300万円を超えていた重粒子線治療も、保険診療にだと10万円程度に抑えられることになるわけです(年収330~770万円未満の場合)。

 

一方、削除となった技術も5種類あり、また病院が実施を取り下げた技術が9種類ありました。これらは保険診療の候補として、もはや安全性と有効性を確かめるに足るものでなかった、ということなのでしょう。

 

このように先進医療には、安全性や有効性が確かめられて保険診療となるものもあれば、翌年にはなくなっているものもあり、単純に「先進医療=効果が保証」とはならないのです。医療においては、安全で有効な治療であれば、医療費負担は軽く済みます。

 

一方で効果が必ずしも明らかでないものについては、医療費負担は重くなり、治療結果も自己責任となっているのです。「高いものほどよいもの」というセオリーは、医療においては必ずしも通用しないということなのです。

 

先進医療を受けるにあたり、病院は患者に対し、あらかじめその内容や費用に対する説明し、患者の自由な選択に基づいて、文書による同意を得る必要があります。患者自身も、効果への期待だけでなく、先進医療のリスク面について十分認識し、自ら選択する必要があるわけです。

 

先進医療特約は「試したい」を後押しするもの

 

それでも、先進医療を「試したい」という人もいるでしょう。そんなとき、先進医療の技術料を、「先進医療特約」でカバーすることは可能です。

 

最近はがん保険だけでなく、医療保険にセットできることも多いです。保険金額は、最近は2000万円を上限にするものが多く、これを限度に技術料の実費についての給付が受けられます。遠方から受療に訪れる患者もいるため来院時の交通費等をカバーしたり、給付金の10%といった一時金をプラスして支払ったりする商品もあります。特約保険料は月額100~200円程度ですが、特約ではいうまでもなく単体での契約はできません。

 

小さなコストで大きな給付を得られますが、保険料が安いということは、いうまでもなく給付される確率も少ないということを意味します。実際、増えているとはいえ2018年度に先進医療を受けた人は約2万8000人で、このうち民間保険から給付を受けた人はさらに少数でしょう。

 

この保障は、あくまでも患者の「試したい」を後押しするもの。「効く」が範疇外であることはいうまでもありません。こうしたことを踏まえた上で、保障の上手な利用を考えたいですね。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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