コラム老後資金の「2000万円不足」騒動から考える老後の保険料

公開日:2019-06-27

保険を選ぶときに「知っ得」話~第18回

 

いわゆる「老後資金2000万円」問題は、ついに国会論戦に発展、なんとその後、麻生金融相が政府の政策と異なることを理由に報告書受理を拒否するという、異例の事態となっています。

 

6月3日に公表された金融庁の検討会「金融審議会市場ワーキンググループ」の報告書「高齢社会における資産形成・管理」は、「人生100年時代」と呼ばれる長寿社会に備え、国民には早期から資産形成や管理を行うことを促し、一方で金融業界はどのようなサービスを提供すべきかについて、提言したものです。

 

問題とされたのは「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純で1300万円から2000万円になる」の部分です。

 

報告書は「この金額はあくまで平均の不足額から導き出したものであり、不足額は個々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが」と続くのですが、「不足額2000万円」という金額だけが独り歩きし、「年金はもらえないのか」と、むしろ年金制度への不安ばかりに焦点が当たってしまったのです。

 

一連の報道に違和感を覚えた人は少なくないでしょうし、不安を感じて戸惑った人もいるでしょう。近年は税・社会保険料の増加により可処分所得が減少しており、雇用者の4割は非正規雇用者です。すぐに貯めることのできない「2000万円」だけが切り取られれば、貯蓄が難しい世帯にとって、これは脅しのメッセージになりかねません。

 

5割超の世帯が公的年金だけで生活している

 

この「2000万円」が導き出されたベースは、総務省が毎年公表している「家計調査」の2017年分の家計収支データです。しかしこれは平均であり、実態ではありません。

 

また高齢夫婦無職世帯の平均貯蓄額は約2500万円であり、貯蓄を取り崩せる世帯だからこそ支出が多く、結果として赤字収支となっているともいえるでしょう。そのような世帯の支出を基準として「不足が生じる」とすると、やや語弊が生じるかもしれません。

 

■高齢で無職の夫婦世帯の家計収支

 

そもそも、高齢者世帯がすべて貯蓄を取り崩して生活しているわけではなく、5割超の高齢者世帯は公的年金だけで暮らしているのが実態です。

 

■高齢者の生活費に占める公的年金・恩給の依存度

 

家計は世帯によって大きく異なるので、平均の数字はただの参考値にすぎません。「自分の場合はどうなのか」と考えるのが基本となりますが、「2000万円の貯蓄がないと暮らせない」というメッセージだけが平たく伝わる結果になってしまったのは残念です。

 

ファイナンシャルプランナー(FP)は現状を把握、分析し、先々を予測した上で、今できることをアドバイスするのが使命です。私自身、報告書の現状認識、提言の内容そのものについては、ほぼ同様の認識を持っています。では、老後に年金収入に100%依存する世帯が過半を占める状況を踏まえて、どのような手を打てると考えればよいのでしょうか。

 

提言を機会に自分はどうしたらいいのかを再確認する

 

我が国の長寿化そして少子高齢化が、世界に類のないスピードで進行しているのは事実です。そこで先々の年金制度の持続可能性を高めるために、現役世代の減少と平均寿命の延びに合わせて公的年金の給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」が2004年に導入され、長い目で見た年金の受給額は今後、抑えられることになります。

 

では、公的年金が頼りにならないのかというと、そうではありません。公的年金は、収入を得にくくなったときの国による「保険」です。高齢、そして遺族や障害になったときに、欠かすことのできない収入となるのです。ですから厳しい状況があるとしても、国民の誰もがより安心して暮らせる年金制度を維持していくことは、無論、政府の責務です。

 

年金制度をはじめとした社会保障制度が持続性を維持され、将来の私たちを支える生活資源であり続けられるように、私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち、その動向をしっかり監視していくことが、まずは大切だと思います。

 

一方で、私たちが皆、どの国も経験のない、お手本のない世界に漕ぎ出していることは間違いないことです。先々が見通しにくい中、それでも自分らしく暮らしていくために、国民も自ら、自分に合った何らかの取り組みをしていこう、というのが報告書の提言です。単に資産形成の取り組みを促しているのではなく、自分らしいライフプラン・マネープランを立てること、長く働くことなども、その要素として盛り込まれています。

 

これらの提言を、「自分はどうしたいのか」を軸に、これまでの考え方や行動を前向きに捉え直す契機とするべきではないでしょうか。その意味で、年金制度に関する議論が活発になり、個々の人が自らのライフプランの検討を深める好機になるなら、今回の騒動も無駄ではないでしょう。

 

まずは家計の現状把握に取り組む

 

最後に、今回の知っ得ポイントです。

 

暮らしに必要なお金について捉え直す手始めは、家計の現状把握が第一歩となります。家計の見直しで支出を抑えられれば貯蓄がしやすくなるのはいうまでもありません。なんとなく支払っている生命保険や医療保険にはとりわけ着目を。

 

以下は18年の家計調査の収支を年換算し、年齢群別に並べたものです。その下にあるのは、年齢群別にみた1世帯別の負担している年間保険料です。

 

■高齢者の平均世帯収支と支払っている保険料(年間)

 

50~59歳

60~64歳

65~69歳

70~74歳

75歳以上

年金

――

135万円

228万円

233万円

232万円

その他収入

722万円

99万円

58万円

35万円

30万円

総収入

772万円

234万円

286万円

268万円

262万円

税金等

158万円

45万円

41万円

37万円

32万円

手取り収入

614万円

189万円

245万円

231万円

230万円

消費支出

422万円

327万円

315万円

303万円

264万円

収支

193万円

▲ 138万円

▲ 70万円

▲ 72万円

▲ 34万円

生命保険料

46.8万円

43.9万円

33.8万円

29.9万円

35.3万円

出所:保険料は「生命保険に関する全国実態調査・2018年度(生命保険文化センター)」
     それ以外は「家計調査報告・2018年」(総務省)
注:▲はマイナス。保険料は年間の世帯払込み保険料。端数処理で合計額合わない箇所がある
 

表が示すように、60歳以上の高齢者世帯の「平均」収支は、軒並み赤字です。そうした家計の状況にかかわらず年間に30万~40万円強の生命保険料を負担しています。しかし、多くの高齢者は現役世代のような住宅ローンや教育費の負担が解消されているでしょうし、また現役並み所得がなければ70歳以降の医療費負担は軽くなります。高齢者は保険好きな方も多いですが、保険にこだわらない方が、家計健全化につながる可能性があります。

 

現役世帯は、より留意を。1世帯当たりの支払いは年間38万円ですが、20年払えば760万円、30年では1000万円を超えます。必要なものに絞り込めば、この部分がかなり抑えられ、貯蓄に回せる可能性もでてきます。若いうちから合理的な判断を基に家計の管理や資産形成を行う習慣を身につけることで、長い目で見れば「2000万円」を近づけることもできるのです。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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