「老後資金2000万円」問題で、やり玉に挙げられた年金制度ですが、「年金は老後のもの」と思っていませんか? 年金は、高齢になる前の現役世代が障害を負ったり、生計の担い手を失ったりしたときにも受け取れます。年金制度はそもそも、一定の事態で所得を得られなくなる事態をカバーする、国による「保険」だからです。
「老後資金2000万円」の問題が起きて以降、年金制度について様々な意見が飛び交っています。「もらえないのだから、若い人は年金保険料を払わない方がいい」といった意見も見かけますが、鵜呑みにするのは危険。年金保険料を納めないと、現役世代こそ欠かせないこれらの給付を受けられなくなることがあるからです。今回の知っ得ポイントは、現役世代を支える年金です。
最初に、公的年金制度の概要を確認しておきましょう。
我が国では、20~60歳の現役世代の全員が国民年金(基礎年金)に加入します(「国民皆年金制度」)。年金制度は社会保険のひとつですから、保険料を納めることで老齢・障害・遺族による所得喪失・減少に備えることができます。
自営業者や学生(「第1号被保険者」)は国民年金に加入して、月額保険料1万6410円(2019年度)を納付します。民間保険では、保険料を支払わなければ効力を失いますが、公的年金には納付が難しいときの救済策として「免除制度」「納付猶予制度」があります。手続きをすれば年金受給権は確保され、免除制度では年金の一部も保障されます。
民間サラリーマンや公務員(「第2号被保険者」)は、国民年金に加え厚生年金にも加入して、報酬に比例する年金が上乗せされた2階建ての年金を受給できます。保険料は労使折半、本人負担分は年収の9.15%です(19年度)。例えば年収500万円の場合、本人負担分は月額換算で約3.8万円。これを給与天引で納付します。
会社員等に扶養されている配偶者(「第3号被保険者」)は国民年金のみに加入しますが、保険料は配偶者の加入する制度が負担するので、自ら保険料を納付する必要はありません。
以下は、現役世代が不測の事態で受け取れる「障害」「遺族」の基礎年金の概要です。
「障害基礎年金」は、病気やけがで一定の障害が残ったとき、最長で一生涯にわたり受け取れる年金です。障害の重さにより1級と2級があり、手足や指を失うといった身体の欠損だけでなく、糖尿病やがんなどの内臓疾患、うつなど精神疾患が原因の障害も対象になることがあります(詳細は日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」)。
年金額は1級が97万5125円、2級が78万100万円で、高校卒業前の子どもがいるときは、子どもの数に応じ加算もあります(19年の金額)。年金を受け取るには、医師が障害程度を判断する「障害認定」を受けます。
障害とは、一定の症状や状態が固定していることなので、固定しているかを判断するには時間が必要です。そのため障害の原因となった病気やけがで初めて診療を受けた日(初診日)から、1年6カ月経過後に障害認定を受けるのが原則です。
ただし例外もあり、心臓ペースメーカーや人工肛門の埋設した日、人工透析の開始から3カ月経過するなど、症状や状態が固定したときはその時点が障害認定日となり、1年6カ月を待たずに年金を受給できます。
一方、高校卒業までの子どものいる遺族が、子どもの数に応じて受け取れるのが「遺族基礎年金」です。配偶者と子ども2人の3人家族が残されたときの年金額は78万100円+(22万4500円×2)で122万9100円、配偶者と子ども1人の2人家族では78万100円+(22万4500円)で100万4600円です。子のない自営業者等の死亡で残された配偶者に給付はありません。
いずれの年金を受け取るにも、保険料納付要件を満たすことが必要です。保険料を納付した期間と保険料を免除された期間を合わせた期間が、加入すべき被保険者期間の3分の2以上あることが要件ですが、26年4月1日前までは、過去1年間に保険料滞納がないなどの一定要件を満たせばセーフ。納付対象月の翌月から2年間までは納め損ねた保険料を納めることができるので、手続きさえすれば、年金をもらい損ねることはありません。
会社員・公務員の年金は2階建て
会社員や公務員は、前述の基礎年金と併せて、「障害厚生年金」「遺族厚生年金」を受給できます。「障害厚生年金」には、1級・2級に加え、それより軽度の3級もあります。3級には最低保障があり、その金額は年58万5100円。「子の加算」に加え、65歳未満の配偶者が受け取れる「配偶者加算」もあります。
■職業により異なるそれぞれの年金給付(2019年度の場合)
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老齢 |
障害 |
死亡 |
上乗せ年金 |
老齢厚生年金 |
障害厚生年金 |
遺族厚生年金 |
基礎年金 |
老齢基礎年金 |
障害基礎年金 |
遺族基礎年金 |
:* 65歳まで。** 2級の場合で、1級はこの1.25倍、***1人につき2人目まで。****同3人目以上
一方の「遺族厚生年金」は、本人死亡時に一定の遺族に給付される年金です。例えば会社員の夫が死亡して妻と子どもが残された場合、前述の遺族基礎年金と報酬に応じた遺族厚生年金の両方が給付されます。夫死亡時の妻の年収が850万円未満なら、収入があっても受給できます(遺族基礎年金も同様)。
加えて、40歳以上で18歳未満の子どもがいなければ、年金を受け取り始める65歳まで、妻は中高齢寡婦加算58万5100円も受け取れます。妻の年金受給が始まる65歳以降は、自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金のどちらか高い方を選択できます。
同じ家族構成であっても、死亡した夫が自営業者あるいは会社員かで、妻が受け取れる給付はこのように大きく異なるわけです。
ただし、夫でなく会社員の妻が先に死亡した場合、話は違ってきます。55歳未満の夫には受給権がないため、遺族厚生年金は子どもが受け取ることになるものの、受給は18歳まで。いうまでもなく寡婦加算もありません。家計を支えていても、妻の死亡で残される遺族年金は限定的なのです。
このように、年金制度には現役世代が年金を得られる仕組みもあるのです。10年、20年と受給すればトータルで数千万円になることもあり、現役世代に不測の事態が起きたとき、収入ベースとして欠かせないものと言えるでしょう。
受給の可否や金額は世帯により異なりますが、生命保険の加入や見直しのときにこれらをベースに検討すれば、過不足のない保障設計ができるはずです。
記事内容は執筆時点(2019年07月)のものです。最新の内容をご確認ください。