コラムかんぽ・養老保険の不適切営業、契約者が考えるべきは

公開日:2019-08-22

保険を選ぶときに「知っ得」話~第22回

 

 

かんぽ生命の不適切な保険販売にまつわる問題で、日本郵政グループ3社のトップ3人は7月末に会見を開きました。謝罪とともに今後の対応について説明し、かんぽ生命保険の販売を当面自粛し、ノルマを見直すとしました。

 

そして過去5年の間に交わされた全てのかんぽ生命保険契約である約3000万件(消滅した契約含む)について、顧客の意向に沿わずに不利益を生じさせていないかを検証するとしています。このうち、顧客の意向に沿わず不利益が発生した可能性のある契約は、約18万3000件あり、これらについては電話や訪問により契約時の状況や意向確認が行われます。

 

確認の結果、顧客の意向に沿わないものだったと分かれば、乗り換え前の契約に戻したり、徴収した保険料を返金したりするなどの対応が行われることになっています。

 

■顧客に不利益が生じる契約パターン

調査対象事案
調査対象件数
契約乗り換えに際し、乗り換え前の契約は解約されたが、
乗り換え後の契約が引き受けを謝絶となる(断られる)
約1万9000件
契約乗り換え後、告知義務違反により乗り換え後の契約が解除、
保険金が支払い謝絶等となった
約3000件
特約切り替えや保険金額の減額でより合理的な提案が
可能だったにもかかわらずされなかった
約2万5000件
契約乗り換え前後で予定利率が低下し、保障の内容・保障期間
の変動がないにもかかわらず乗り換えさせた
約2万件
契約乗り換えの判定期間後(乗り換えた契約の契約日の7~9カ月後)の解約で、保障の重複が生じた
約7万件
契約乗り換え契約日の4~6カ月前までの間に、前の契約が解約され、かつ、引き受けや支払いの謝絶等に該当しない(現時点では不利益は確認されていないが、募集実態の確認を行う)契約
約4万6000件
約18万3000件
注:「日本郵政グループにおけるご契約調査及び改善に向けた取組について」(かんぽ生命)の資料を基に筆者作成
 

かんぽ生命から委託を受けて保険販売をしていたのは、全国の郵便局職員。彼らによって行われた不適切な保険販売は、ひとえに過酷な営業ノルマをこなすためのものでした。この問題が新聞等で大きく取り上げられたのは今年6月頃ですが、昨年4月にはすでにNHKで特集が組まれるなど、その問題の根深さは、実は早くから指摘されていたのです。

 

金融業界には現在、「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」に主体的に取り組むことが求められています。これは、顧客の利益を最大化することに努めるのが金融機関の責務であり、利益に反するような行動をとってはならないとする原則です。ところが保険販売の現場では、それと真逆の、いわば「ノルマ本位の業務運営」が横行していたわけです。

 

日本郵政グループに猛省を促すのは当然としても、一方で私たち生活者も、こうしたトラブルを回避するために知っておくべきことがあります。それは、保険の常識は時間の経過と共に変化していき、昔の常識は非常識になるということ。常識を塗り替えずにいると、とんでもない不利益を被ることになりかねません。これが今回の知っ得ポイントです。

 

「養老保険」はもはや貯蓄にならない

 

かんぽ生命の主力商品は養老保険です。この保険は、10年、20年などと保険期間が定められており、期間中に死亡や重度障害(高度障害の場合もある)の状態になると保険金が下り、満期まで生存すれば同額の満期保険金が受け取れるという貯蓄性を兼ね備えているのが特徴です。

 

ちなみにかんぽ生命には、より保障を厚くした「特別養老保険」もあります。こちらは死亡保険金額を満期保険金の2倍・5倍・10倍などと大きく設定できる一方で、支払った保険料の総額に対して受け取れる満期保険金の割合は養老保険に比べて減るため、貯蓄性は劣ります。

 

時代はまさにバブルの1985年~90年ごろに、養老保険の貯蓄性はピークでした。高い国債利回りや株高など運用環境が良好だったことから、保険商品の運用利率である予定利率が5~6%台などと高く、安い保険料で高額の満期保険金を受け取れました。

 

当時の環境では、保険料一括払いの「一時払養老保険」はとりわけ有利で、10年後には払込保険料の2倍超の満期保険金を受け取れることもザラ。その上、保険期間5年超の保険商品は税務上「一時所得」の扱いとなるため、50万円以上利益が出なければ税金も掛かりません。

 

こうして、この時期に貯蓄型保険で得した人の脳裏には、「生命保険は安全で確実にお金が増える有効な手段」と、深く刻み込まれたのです。

 

しかし、その後のバブルの崩壊とゼロ金利政策で、生命保険の予定利率は2000年代には1%台、そして足元では1%以下に落ち込みました。これによって同じ満期保険金を受け取るために支払う保険料はなんと当時の2倍以上。500万円の満期保険金を受け取るために支払う保険料の総額は600万円ですから、貯蓄としてのメリットはありません。同じ養老保険でも、契約時期が異なると貯蓄性はこれほど変わるのです。

 

■30年前と現在の養老保険の総支払い保険料と満期保険金の差額

契約年
月払保険料
総支払保険料
総保険料との比較
1989
7975
287万1000円
212万9000円
2019
1万6620円
598万3200円
▲98万3200円
注:▲はマイナス。30歳男性 保険期間30年 満期保険金500万円(無配当保険)の例

 

トラブルに巻き込まれないために「マネー常識」を塗り替える

 

貯蓄性の低下で、現在はあまり売られていない養老保険ですが、実は今でもかんぽ生命の主流商品で、同社の新契約の5割近くを占めています。また養老保険の市場シェア(新契約件数ベース)では、かんぽ生命が8割を占めるのです。これはいったい、どういうことでしょうか。

 

いくつか理由が考えられます。

 

まず、かんぽ生命の契約者の約5割が60歳以上、ということです。この年代は、バブル期など保険が有利な貯蓄足り得た時期に、貯蓄型保険の「成功体験」を持っています。脳裏に刻み込まれた体験は時代が変わっても塗り替えられず、養老保険が満期になると、再び契約してしまう方が少なからずいます。このことは、予定利率が史上最低まで低下している今日でも、養老保険がかんぽの主力商品であることと無関係ではないでしょう。

 

利殖を追求するならば、今やマイナス利回りの養老保険を選択することは合理的ではありません。にもかかわらず加入してしまうのは、「保険ぐらいは入っておくもの」と加入自体が目的になってしまい、本来の目的である保障や貯蓄として本当に必要なのかが頭から離れてしまっているのでしょう。

 

実際、先日講師を務めたセミナーで、「保険は必要に応じて検討すべきもので、必ずしも入らなくてもよいもの」と述べたところ、「入らなくてもいいという話を聞いて衝撃を受けた」という感想をもらいました。60以上の年代の方には、同様の感想を持つ人が少なくないかもしれません。

 

しかし、「保険は入っておくもの」と負担する生命保険料は、65歳以上の高齢者の場合、年間で約30万円以上にも上っているのです(『老後資金の「2000万円不足」騒動から考える老後の保険料』参考)。老後生活を圧迫させかねない保険料を支払う状況は、いうまでもなく見直しが必要でしょう。

 

昔の常識は今の常識に塗り替えることが欠かせない

 

高齢者の方の中には、「かんぽ生命のルーツは国営の簡易保険だから、かんぽの商品は安心だ」という“神話”が浸透していることもあるでしょう。しかし、今やかんぽ生命は株式を上場した民間の生命保険会社。ライバルと熾烈な収益競争を繰り広げる中で、現場に過酷なノルマを課して不適切販売に至ったことからも、もはや同社は昔の簡易保険でないことが明らかです。

 

保険販売トラブルに巻き込まれないためには、やはり原点に戻ることが大切です。保険に加入する目的をはっきりさせ、不必要なものは買わない、ということです。昔の常識を今の常識に塗り替え、ひとつの商品に過ぎない保険への期待はほどほどにしましょう。

 

とはいえ高齢になると、長年の慣習をなかなか変えられないもの。親の生命保険の状況について、折を見て確認し、ぜひ必要なアドバイスをしてあげてください。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


ページTOPへ