コラムかんぽ問題から知っておきたい! 「保険は乗り換えなくてもリフォームできる」

公開日:2019-09-05

保険を選ぶときに「知っ得」話~第23回

 

 

今や、約9割の世帯が何らかの生命保険に加入する時代。保険の営業トークも、「保険に入りましょう!」というよりは「現在の保険を新しいものに切り替えましょう!」というのが、多くなるでしょう。かんぽ生命で問題になったのが、この「乗り換え営業」です。

 

勧められた商品に乗り換えて、保障が充実したり、保険料が下がったりするなどのメリットが生まれるのであれば、契約者にとってベターでしょう。今の保険を契約した当時と比べて、家族構成や収入、そして負債など、さまざまな状況が変化したにもかかわらず、保障内容が古いままだとデメリットが生じることもあり得ます。その点では、保険の見直しは時には必要です。

 

しかし、今回問題になったかんぽの「不適切」販売では、メリットどころか逆にデメリットを生じさせる乗り換えが横行しました。それはどのようなケースだったのか。そして不利益を被らないため、どのようなことを知っておくべきでしょうか。これが今回の知っ得ポイントです。

 

貯蓄性が劣る商品に乗り換えさせられた

 

かんぽ生命の公表した不適切販売の例を2つ、挙げてみましょう。

 

ケース①「貯蓄性のより劣る終身保険・養老保険への乗り換え」

~「保障の内容や保障期間の変動がないにもかかわらず、予定利率の低い商品に乗り換えさせた」

 

このような不利益を被っている可能性がある契約は、約2万件ありました。

 

これは、養老保険の契約者に、同じ養老保険への乗り換えを勧めるようなことです。下の表は前回のコラムでもお伝えした養老保険の契約した年別の保険料の違いです。あくまで例えですが、このケース①とは、下の表の1989年の有利な契約を途中でやめさせ、2019年の貯蓄性の劣る契約に乗り換えさせることと同義です。

 

■30年前と現在の養老保険の総支払保険料と満期保険金の差額

契約年

月払保険料

総支払保険料

満期保険金との差

1989年

7975円

287万1000円

212万9000円

2019年

1万6620円

598万3200円

▲98万3200円

注:▲はマイナス。30歳男性・保険期間30年 満期保険金500万円(無配当保険)の例。
 

1989年にした契約をそのまま続ければ、満期には支払った保険料の総額より約213万円多いお金を手にします。もしその保険を途中でやめて、同じ保険期間・同じ保険金額の養老保険に乗り換えると、この金額を手にすることはできません。

 

というのも、現在の養老保険では、同じ30歳で契約しても30年前に比べて、月額の保険料は約8000円から1万6600円と2倍以上に増えてしまい、満期保険金よりも保険料の総額が増えてしまう条件に変わっているからです。実際には、乗り換えた時点の年齢の保険料になって、その年齢から満期までの期間の支払額で計算するので、単純に30歳時点での比較のようになりませんが、確かなのは現在の保険料水準が30年前より高くなっていることです。

 

それは前回の記事でも触れましたが、「予定利率」が下がっているからです。予定利率は、一口に言えば保険料の割引率です。生命保険会社は、私たちが負担する保険料を算出する際に今後、どれくらいの運用収益などを見込めるか計算し、その分を割り引いて保険料を計算しています。

 

高い運用収益が見込める良好な運用環境下では予定利率が高く設定され、保険料が安くなります。1989年の予定利率は、まさにピークでした。そして通常の保険の予定利率は、契約期間中一定で変わりません。生命保険はいわば長期固定金利型商品であり、契約が続く限り有利な条件を享受できるからこそ、「お宝保険」として、続けることが推奨されるのです。

 

■生命保険の予定利率の推移(3利源配当タイプの例)

出所:生命保険協会。注:19761993年までは保険期間20年超のもの。
契約時期と保険期間により、また最近は保険会社によっても異なることがある。
3利源配当」とは死差損益・利差損益・費差損益の3つから生じた剰余金を配当の原資にすること

 

しかし、株価下落や市場金利の低下などの影響で、1992年をピークに予定利率は低下の一途をたどり、現在は史上最低まで落ち込んでいます。そのため2019年の養老保険の保険料は、他の条件が同じでも、とても高くなっているのです。

 

■かんぽ生命の2018年度の新契約の構成比(件数別)

出所:「かんぽ生命の現状2019」 注:養老保険と終身保険は個別商品をまとめた数値

 

上の円グラフは、かんぽ生命で2018年に新たに結ばれた契約件数のシェアで、「養老保険」を筆頭に「終身保険」「学資保険」と、ほぼ全てが貯蓄型保険で構成されています。この中には、既存の契約から乗り換えて新たに契約したものも含まれているのでしょう。

 

しかし保険に保障ではなく貯蓄性を期待するのであれば、既存の契約と保障内容や保障期間が変わらない、予定利率の下がった保険に乗り換えることは、契約者に何のメリットもありません。

 

現在の保険の見直しで対応できたのに、乗り換えさせられた

 

不適切販売の、もうひとつのケースを見てみましょう。

 

ケース②「特約切り替えや減額で対応可能にもかかわらず乗り換え」

~「現在の特約切り替えや保険金額の減額でより合理的な提案が可能だったにもかかわらず、それがなされなかった」

 

かんぽ生命のディスクロージャーによると、個人保険には「医療特約を付加して販売するのが基本スタイル」と書かれています。同社が社運をかけて新たな医療特約を発売したのは17年10月。しかし、乗り換えが急増したのもその頃からで、調査の結果、旧契約の特約追加で対応できたものでも、新契約に乗り換えさせたケースがあったといいます。

 

かんぽ生命の契約者の約半数が60歳以上。死亡保障はともかく、年を重ねたからこそ医療保障を、という向きもあるでしょう。しかし特約を付加する以前に知っておきたいことがあります。医療費そのものは、実は心配するほどかからないということです。

 

70歳から負担はさらに下がるため、保険による備えは必須ではありません(第12回参照)。医療保障はそもそも「入院お助けグッズ」ですから、入院しなければ医療費の備えにはなりません。しかし最近は、あまり入院しない時代にもなってきています(第14回参照

 

また、「保険金額の減額」というのは、既存契約の見直しでニーズに応えられるのに、あえて新たな保険に乗り換えさせるような提案をしていたということでしょう。

 

上記のような不適切な販売が行われた可能性のある契約は、全部で約2万5000件にも上っています。

 

乗り換え以外にも保険の見直しはできる!

 

既存の保険をリフォームすれば、乗り換えなくてもニーズを満たすことはできます。保険料の支払いが負担になったときは、解約しなくても「払済保険」や「延長保険」で一定の保障を維持しつつ保険料の支払いをストップできます。また「保険金額の減額」をすれば、保障は少なくなりますが、保険料の負担を減らすことができます。

 

一方、既存の契約に特約を付加すれば、新契約をしなくても保障を手厚くすることができるでしょう。もちろん、保険が不要になれば解約すればよいのです。それも全て契約者の自由です。

 

■保険の見直し方法

保険料を
支払わず
に保障
を続ける

「払済保険」

保険期間を変えずに現在より少額の保険にする。特約は全てなくなる

「延長保険」

保険期間を短くして保障額を
維持する。特約は全てなくなる

保険料を
減らす

「解約」

契約をやめる

「減額」

保障額を減らす

「保険種類の変更」

終身保険等から
割安な定期保険に変更する

保障を
増やす

「中途増額・付加」

現在の契約に
保障額や保障を追加する

「新規加入」

新たに契約する

注:作成筆者

 

「安心」とはなにか

 

興味深いデータがあります。民間生命保険会社とかんぽ生命に対するイメージに関する問いで、民間生保は「商品やサービスがよさそう」でかんぽ生命より圧倒的に優位、「営業職員・窓口の応対がよさそう」「価格が手ごろそう」などで優位に(下のグラフ参照)。

 

一方、かんぽ生命は「いざというときに政府の関与が期待できそう」「政府の間接的な株式保有が継続されるので、安心できそう」で民間生保より圧倒的に優位、「信頼できそう」「健全な経営をしそう」などで優位でした。「商品内容や対応はともかく、悪いようにはしないだろう」といったところかもしれません。

 

しかし、悪いようにしないどころか、顧客にデメリットを及ぼす不適切販売が行われたことで、こうした期待は裏切られてしまいました。

 

■民間生命保険会社とかんぽ生命に対するイメージの比較

出所:生命保険文化センター「生活保障に関する調査(2016年12月)」。注:母数は4056

 

保険における「安心」とはいったい何でしょうか。「安心」のために入った保険で不利益を被ったり、不安を抱えたりするなど、本当におかしなことです。なぜわが家には保険が必要なのか、本当に必要なのか。何のために?

 

今回の騒動を機に、「ソン・トク」ではなく「必要か」を軸に、保険の棚卸をしてみてはいかがでしょうか。


お知らせ

本コラム筆者の清水香さんが
 
被災直後そして生活再建に向けて動く時、
さらに災害への備えについて知っておくべきポイントを、
分かりやすく簡潔に解説しています。
筆者が被災者や被災支援の専門家、行政や保険会社の担当者などから
10年近くにわたって取材した内容が凝縮されています。
 

 
執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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