コラム台風で倒壊、市原のゴルフ練習場の補償はどうなる?

公開日:2019-10-17

保険を選ぶときに「知っ得」話~第26

 

 

大型で非常に強い勢力を保ったまま先週末から今週にかけて本州に上陸した台風19号は、日本各地に大きな被害をもたらしました。被害が広い地域に及んだこともあり19号の被害状況に関心が集まっていますが、忘れてならないのが、約1カ月前に関東地方、特に千葉県に甚大な被害を及ぼした台風15号です。

 

この台風で千葉県市原市にあるゴルフ練習場の鉄柱が倒れ、民家16戸が損壊する被害が発生しています。ひと月を過ぎても鉄柱は取り除かれず、その最中に今回の台風19号が襲ったのです。

 

実は過去にも、同様の事故が同じ千葉県で発生していました。2014年、台風18号が千葉県に上陸した際に、鎌ヶ谷市にあるゴルフ練習場で、ネットを支える20~30メートルの鉄柱13本が突風で倒壊したのです。

 

この鎌ヶ谷の事業者には、事故の5年前から千葉県が鉄柱などの劣化を改善するよう、建築基準法に基づく口頭指導が行われていたと報道されています。この時は鉄柱が練習場の内側に倒れたため、幸いにも周辺の民家や住民に被害は生じませんでしたが、風向きによっては市原市の練習場と同じ事も起き得たわけです。

 

今回の事故に関して、こんな疑問を多く耳にします。
 
「被害を受けた住宅等に火災保険ははたして使えるのか」
「ゴルフ場から賠償は受けられるのか」
 
――これらが今回の知っ得ポイントです。

 

風によって被った損害は火災保険の「風災」で補償できる

 

まず、今回損害を受けた住宅等は、火災保険で補償される可能性があります

 

風が原因で住宅や家財に損害が生じた場合、火災保険の「風災」として、保険金額を上限に保険金が支払われます。風災とは「台風」「旋風」「竜巻」「暴風」等により生じた損害を指し、台風で屋根瓦が飛ばされたり、モノが飛んできて自宅が壊れたりといった損害が該当します。今回の鉄柱倒壊も風による損害なので、保険金支払いの対象になります。

 

なお、風災の補償は、「ひょう災」「雪災」とセットです。風災があれば、これらの災害による損害も保険金支払いの対象になります。

 

必ずしも風災補償が付いているわけではない

 

ただ、火災保険に必ずしも風災補償が付いているとは限りません。契約している火災保険を確認しましょう。大手損保が扱う火災をはじめ風災や水災などの補償をセットにしたパッケージ型の火災保険では、風災補償をあらかじめセットされているケースが多いのですが、ネットや電話などで直接申し込むダイレクト型の火災保険では、補償を選択していないかもしれません。

 

生協等が扱う火災共済でも保障を受けられる可能性があります。ただし、風災に関しては保障上限額が低くなる場合があり、修理費全額がカバーできないことも。契約内容を事前に確認しておくことをお勧めします。

 

■火災保険・火災共済の最大保障(補償)額の例

商品名
(取扱先)
補償(保障)内容/最大保険(共済)金
・火災
・落雷
・破裂
・爆発
・風災
・ひょう災
・雪災
・水災
・地震
・噴火
・津波
・年間保険料
・掛金
じぶんでえらべる火災保険
(セゾン自動車火災)
保険期間1年
2000万円
2000万円
1000万円
6万0400円*
住まいる共済
(大型タイプ・こくみん共済co-op)
共済期間1年
同上
1550万円
600万円
4万7000円
住まいる共済
(標準タイプ・こくみん共済co-op)
共済期間1年
同上
1150万円
400万円
3万6000円
火災共済
(こくみん共済co-op)
共済期間1年
同上
150万円
なし
1万4000円
新型火災共済
(地震特約付 都民共済)
共済期間1年
同上
600万円
400万円
3万0400円

注:所在地:東京都 新築木造住宅(H構造・2000万円)2019年10月現在。 *うち3万5000円が地震保険料

 

火災保険には他に「物体の飛来・落下」という補償があります。ただ瓦などが飛んできて自宅が壊れるなどした場合でも、その原因が風である場合は「風災」として補償を受けることになり、「物体の飛来・落下」では保険金が支払われません。

 

このように、火災保険に「風災」の補償があれば、保険金額を上限に住宅再建費用や修理費をカバーできます。被災後に数千万円の保険金を受け取れるかどうかは、のちの生活を左右するほどの問題です。住宅取得時に長期契約をして、保険金額や補償内容がもはや適切かどうかわからない人は、この機会に改めて確認をしてみてください。

 

押さえておきたいポイントは、被災した時に住宅を再建できる補償内容なのか、そして再建できる保険金額になっているかどうかです。不安な方は、契約している保険会社に連絡して、

 

・「再築できる保険金額で契約しているか(=住宅の現在の再築価額を教えてもらう)」
・「風災の補償が付いているか」
・「風災では、いくらの損害から補償を受けられ、支払われる最大の保険金はいくらか」

 

の3点を確認してみるとよいでしょう。確認してみた結果、充分な補償でなければ、十分な補償を得られる商品への乗り換えも検討しましょう。

 

ゴルフ場から賠償は受けられるか

 

一方で気になるのは「ゴルフ場から賠償を受けられるのか」。結論から言うと、これはケース・バイ・ケースです。

 

民法717条には「工作物責任」が定められています。これは、土地に人工的に設置したもの(工作物=瓦や石垣・ブロック塀、壁など)の設置や保存に瑕疵(=欠陥)があって他人に損害を与えたら、所有者等が法律上の損害賠償責任を負わなくてはならない、という規定です。

 

所有者等は、損害防止に必要な注意をしたことを立証しない限り、賠償責任を免れることはできません。ただし巨大災害などで被害が生じ、社会通念上要求される注意や予防手段をもってしても損害が防げなかった(=「不可抗力」)ということになれば、所有者等の責任は発生しません。

 

以上から、今回の台風による損害は、「不可抗力」に該当する・しないのいずれかで、ゴルフ場の責任の有無が決定されることになります。

 

では、自分の火災保険で修繕をしたのち、加害者に法律上の責任があるとして損害賠償を受けられることになったら、どうなるでしょうか。

 

この場合、本来お金を支払うべきなのは、損害を与えた加害者ということになります。そこで被害者に火災保険金を支払った損保会社は、支払った保険金の範囲内で、被害者の持っていた損害賠償請求権を取得し、加害者からその分を回収するという流れになります。このことから自分の火災保険から補償を受け、かつ加害者に損害賠償責任がある場合でも、二重に補償を受けられることはありません

 

自然災害によって、各地で思わぬ被害が生じています。被災後に今後の家計の見通しをつけ、被災後に可能な限り生活再建を進めるためには、まずは自らの火災保険で適切な補償を確保しておくことがより重要になっているといえそうです。

 

自分が加害者になったら、「個人賠償責任保険」で対応

 

自分が第三者から被害を受けるだけでなく、自らが加害者になることも考えられます。自然災害で自らも被害を受けているのに、さらに近隣から損害賠償まで求められるような事態になったら本当に大変です。ところがこうした事態、実はそれほど珍しくないようです。

 

千葉県弁護士会が台風15号の被害に関して行っている臨時無料電話相談には、
 
「隣家の木が倒れてきて自宅が被害にあった」
「自宅の屋根が飛んでしまい、隣家のクルマを損傷させてしまった」
 
――などの近隣住民間のトラブルに関する相談が多く寄せられているそうです。
 

日本弁護士連合会が2013年にまとめた「東日本大震災無料法律相談事例集」(記事最後参照)にも、こうした事例に関する相談が「工作物責任・相隣関係」というカテゴリで数多く掲載されています。茨城県ではこの種のトラブルが相談件数の4割超と、とりわけ多くみられました。

 

西日本豪雨で行われた無料相談でも、広島県では他人の所有地から自分の土地に土砂が流入したことによる損害など、相談の5割弱がこの種のトラブルだったそうです。

 

ここで「個人賠償責任保険」が利用できる場合があります。この保険は、日常生活上で他人を死傷させたり、モノに損害を与えて法律上の損害賠償責任を負ったりしたときに、被害者に対する賠償金などをカバーするものです。

 

台風で自宅のモノが飛んで隣家を損壊した場合でも、加害者に法律上の責任が生じれば保険を使えます。ただし巨大災害による「不可抗力」ということになると、加害者に法律上の損害賠償責任は生じません。保険も対象外となります。

 

注意点として個人賠償責任保険には「地震免責条項」が定められており、地震で生じた損害賠償責任は、そもそも対象外になっています。加害者に損害賠償責任がある場合でも保険金が支払われないので注意が必要です。

 

大きな自然災害が頻発するようになった昨今、自然災害にまつわるトラブルを防止するために、日本ではもはや適切な火災保険、さらに個人賠償責任保険の加入は必須といっていいでしょう。

 

ただし、保険に加入したから、それで万全とはなりません。普段から自宅が被害を受けないように、そして他の世帯に危害を加えないために、住宅メンテナンス等の対策を優先して行うことが重要でしょう。

 

*日本弁護士連合会 「東日本大震災無料法律相談事例集」はこちら

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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