コラム台風19号で高層マンションも被害、もはや火災保険の加入は必須に

公開日:2019-11-14

保険を選ぶときに「知っ得」話~第28

 

 

甚大な被害を及ぼした台風19号の上陸から1カ月余り。総務省消防庁によれば10月下旬の大雨も合わせた住宅の被害は全壊が2175棟、半壊が1万1770棟、一部損壊が1万3739棟、床上浸水は2万7153棟にも上っています(11月13日時点)。

 

19号では都心の高層マンションでも床上浸水などの被害が生じ、東日本大震災の時と同様、最新の高層マンションだからといって万全ではないことを改めて認識させられました。この出来事を契機に、マンションに住んでいる方も、水の被害から自宅を守るために火災保険の見直しや加入を考えている人もいるのではないでしょうか。

 

マンションに住んでいる人が、火災保険に加入する際に、こんな疑問が持ちませんか。分譲価格は5000万円だったのに、保険会社の説明では火災保険で受け取れる保険金額は1000万円ほどと、分譲価格よりも大幅に低い。

 

「それじゃあ火災保険入ってても、マンションの買い直しはできないってこと?」

 

分譲価格よりも少ない保険金額しか設定できないから、何かあっても他のマンションに住み替えるための費用にならない。それだったら火災保険なんて入ってもムダなのでは、というわけです。

 

実はこれ、私も実際に耳にすることがありますが、ここにはいくつか誤解があります。そして分譲マンションは一戸建て同様、火災保険が欠かせない実情があります。

 

特に昨今の自然災害で、マンションにもさまざまな被害が生じています。誤解したままでいると、今後の生活設計に致命的な影響を受けかねません。今回の知っ得ポイントは、分譲マンションに火災保険がなぜ必要なのか、です。

 

専有部分の火災保険は、どうして分譲価格より低いのか

 

マンションの火災保険金額はなぜ、分譲価格より大幅に低くなるのでしょうか。

 

そもそも火災保険は、損害を受けた住宅等の原状回復を図るため、損害に応じた保険金を支払うというのがその役割です。住宅が被る最大の損害とは、住宅の大部分が損壊するなどして再建が必要になる状態(=全損)です。そこで火災保険では、住宅を再取得できる額を最大の補償額(=保険金額)とするのが基本としています。以上から一戸建ては、住宅の建築費がおおむね保険金額とイコールになります。

 

一方、マンションの場合は少し複雑です。まず分譲価格には、土地代や業者の利益が含まれています。この部分はいうまでもなく建築費とは無関係になります。さらに分譲マンションは、壁から外側の躯体部分やエントランス、エレベータ等の「共用部分」と、壁から内側の「専有部分」で構成されています。

 

共用部分については管理組合が一括して火災保険を掛けます。共用部分が損害を受けたら、この保険を利用して修理することになるので、管理組合が適切な補償を確保しているか、しっかり確認が必要です。

 

これに対して専有部分は、所有者が火災保険を掛けます。専有部分の建築費としてカウントされるのは、壁から内側の設備や造作、内装部分のみですから、1000万円程度は妥当額です。建物等の原状回復という火災保険の役割と、区分所有という分譲マンションの特性に照らせば、分譲価格と保険金額が乖離するのは当然だとわかるでしょう。

 

ともあれ、不測の事態で室内が損害を受ければ、室内の造作設備に最大1000万円程度、さらに失われた家財の原状回復だけでも数百万円を超えるまとまった資金が必要になるわけです。手元のお金でこれらのすべてを賄うのは、多くの世帯には困難でしょう。住宅ローン返済中の世帯や、年金暮らしの世帯であれば、家計はさらに厳しい状況に追い込まれるかもしれません。

 

最新で頑丈なマンションに住んでいても、こんな被害が起こり得ます。

 

【火災】が起きた時

 

マンションは火災に強い構造とはいえ、室内で火災が起きれば、造作設備、内装への損害は免れません。焼失しなくても、スプリンクラーが作動すれば室内は水浸しになりますし、自宅ではなく隣家が火災になり、消防活動による強烈な放水で被害を受けることも考えられます。

 

損害調査の担当者によれば、こうしたケースは手の付けようがないほどの被害を受け、全損と認定されることも多いのだとか。こんなときは家財も必ず損害を受けるので、建物とは別に家財にも火災保険を掛けていないと、使えなくなった電化製品や家具等の補償を受けられません。

 

そもそも火災の場合、民法の特別法である「失火責任法」により、もらい火であっても火元に原則、賠償の請求をできません。誰もが火災保険に加入しておく必要があるのです。

 

【風災】が起きた時

 

2018年、大阪を中心に強烈な暴風による被害を及ぼした台風21号。報道によれば、巨大なトタン屋根が飛来して近隣マンションの8階に突き刺さり、室内にいた女性が死亡するという痛ましい事故が起こっています。

 

また、長さ3メートルの巨大なコンクリート片が飛来、近隣マンションのガラス窓を突き破って室内に侵入し、居宅内と家財に大きな被害が生じたケースもありました。マンションの高層階でも、猛烈な風による飛来物で、室内にまで大きな被害が起こり得るのです。

 

暴風や竜巻など風が原因で生じた被害は、「風災」で補償されます。これとは別に「物体の飛来・衝突」という補償もありますが、風が原因で生じた損害は「風災」から補償されることになります。

 

■火災保険の一般的な補償

災害の種類
補償の「知っ得」ポイント
★火災・落雷・破裂・爆発
消防活動による破壊等
も補償を受けられる
★風災・ひょう災・雪災
 
★水災
 
★給排水設備の事故
 による水濡れ
台風等が原因の水濡れ等は対象外。
「風災」「水災」で補償を受けられる
★物体の飛来・落下・衝突
台風等が原因の物体飛来等は対象外。
「風災」「水災」で補償を受けられる
★盗難
 

 

【水災】が起きた時

 

冒頭でも触れましたが先月、本州に上陸した台風19号では、都市部に降った大雨により、排水路や下水管の排水が追い付かなくなり、住宅やマンションで床上浸水が生じました。また床上浸水には至らなかったものの、排水が詰まってトイレや浴室の水が流れなくなり、生活そのものに支障が出たマンションもあります。排水が詰まりオーバーフローすれば、高層階であっても、室内や家財に水による損害が出る可能性があります。

 

このように、豪雨などが原因で室内や家財に生じた損害は、火災保険に「水災」の補償があればカバーできます。最近の水災補償は、床上浸水の被害が出たことを条件として、実際の損害額をカバーできるものが一般的です。

 

火災保険では「給排水設備の事故による水濡れ」という補償もあります。しかし、これはあくまでも給排水設備の事故が原因の補償であって、豪雨が原因で生じた損害は対象になりません。台風などによる水の損害をカバーするには、「水災」の補償が必要です

 

火災保険ではこのように、「損害の原因は何か」によって、適用される補償が異なるのです。これまで都市部の高層階では、水災補償の必要性は低いというのが一般的な認識でしたが、今回の豪雨による被害をみると、高層階なら被害が生じないとは言い切れなくなってきたのかもしれません

 

【地震】が起きた時

 

もうひとつ、マンション建物が地震被害に遭うことも考えておかなくてはなりません。実際、過去の地震では、マンションにも多くの被害が生じています。ただし火災保険は地震による被害は対象外です。地震による被害をカバーするには、火災保険に「地震保険」をセットする必要があります。分譲マンションの場合、共用部分、専有部分の火災保険にそれぞれ地震保険をセットします。

 

分譲マンションは居住する住民同士で建物を維持しています。被災した建物の修繕についても住民同士の話し合いで決めなくてはなりません。さまざまな立場の住民同士で修繕の話し合いをスムーズに進めていくには、財源の確保が非常に重要になります。地震保険はその唯一の手立てに等しい手段なのです。

 

→詳しくは第7回「マンション住まいに地震保険は不要?」参照

 

火災保険料は「節約してはいけないコスト」

 

そこで気になるのが保険料ですが、専有部分の建物および家財の両方について、風水災まで補償を受けられる契約だと年間約5500円、地震まで補償される契約でも年間約2万3000円に過ぎません(東京都の場合)。東京都は地震保険料のウエイトがとりわけ大きいのですが、保険料が高いとはすなわち、地震で被災する可能性の高さを示すシグナルと捉えるべきです。

 

共用部分は、火災保険金額の50%を上限として地震保険金額を設定できます。保険料の水準は専有部分と変わりません。

 

誰でも被災者になり得ます。失うものは大きく、貯蓄ではどうにもならず、公的支援が限られるのが被災後の現実です。こんなときの生活再建資金を確保できる火災保険は、現在を生きる私たちに不可欠な「非常用グッズ」であり、私たちが暮らす上で「節約してはいけないコスト」なのです。

 

■マンションの補償範囲別火災保険料比較

補償の範囲
火災・破裂・爆発・
落雷・水濡れ
さらに
風水災あり
さらに
地震あり
さらに地震
上乗せ特約あり
建物保険金額
火災1000万円
火災1000万円
火災1000万円
地震500万円
火災1000万円
地震1000万円
年間保険料
2472
3840
1万5090円
2万6551円
家財保険金額
火災500万円
火災500万円
火災500万円
地震250万円
火災500万円
地震500万円
年間保険料
968
1709
7339
1万2845円
年間保険料計
3440
5549
2万2429円
3万9396円
注:東京都新築マンション(70㎡ M構造)ソニー損保「ネット火災保険」で試算
執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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