9月から10月にかけて暴風雨による深刻な風水害が発生したことから、本コラムでは自然の猛威から生活を守るためには、火災保険等の加入が必須であることを再三、指摘してきました。今回もその続編で、浸水などの水災をカバーする保険について紹介します。
床上浸水などで住宅や家財が受けた損害は、火災保険で「水災」もカバーしていれば補償されます。ただし、その内容は、商品や受けた損害で異なり、対象外となる場合もあるため事前確認は必須です。今回の知っ得ポイントは、水災補償で知っておきたい注意点についてです。
水災をカバーする火災保険から補償を受ける場合、まず被った損害が一定の基準を満たす必要があります。多くの損保会社が採用している基準は2つあります。
うち1つが、「床上浸水または地盤面から45cmを超える浸水を被った結果、保険の対象に損害が生じた場合」というものです。
要するに、居宅部分が浸水して、建物部分なら建具や家具、家財であれば家具や電化製品に損害が生じたら、対象になるというのです。損害額を問わず、保険金額を上限に、修理費などの補償を受けられます。床上浸水には洪水や高潮、融雪洪水など“水”によるものだけでなく、土砂災害などで土砂や泥水が居宅内に流入した場合も含まれています。
浸水の深さがわずかでも、床上浸水となれば大きな被害が及びます。しかし、被災者生活再建支援制度の支援金の対象となるのは、1m超の浸水となる大規模半壊以上で、それ未満の半壊に支援金はありません。よって水災補償の有無はその後の生活再建を左右する重要なものといえ、優先的な検討が必要です。
浸水というのは下から上がってくる水ですから、マンションでも低層階は言うまでもなくリスクがあります(もちろん場所によりますが)。しかし高層階であっても、今や浸水リスクは無視できなくなったようです。低地などで水がはけにくい場所などでは、集中豪雨で排水が困難になり、排水溝から室内にオーバーフローするリスクがあるからです。
居宅内や家財に損害が生じ、その原因が豪雨であれば、この場合も水災として補償を受けられます。 なお床下浸水であっても、地盤面から45cmを超える浸水を被った場合には、補償を受けられます。
台風19号では、都心部の高層マンションが停電、生活インフラがストップして生活できなくなるトラブルが生じました。「こんなとき火災保険から補償が受けられる?」と質問をいただくことがありますが、火災保険は災害や事故で住宅や家財が損害を受けた場合、その損害を元に戻すためのもの。停電によって生活不能となるリスクは、言うまでもなく対象外です。
そしてもう1つの基準が、
「建物や家財にそれぞれの保険価額の30%*の損害が生じた場合(*商品により異なる)」というものです。保険価額とは損害を金銭価値に換算した最高額のことで、多くのケースでは保険金額に該当します。豪雨によって発生したがけ崩れや地滑り、土石流や山崩れなどの土砂災害、落石などで用いられる基準です。
これらの損害と同時に床上浸水の損害が出ていれば、前述の床上浸水の基準で保険金が支払われるのですが、床上浸水を伴わない場合には、30%以上の損害が生じなければ補償が受けられないという決まりです。あるいは、損害の認定基準が床上浸水だけで、床上浸水が生じないと補償しない商品もあるので、事前の確認は欠かせません。
損害は、修理費等の見積もりベースで判断されます。例えば、2000万円の住宅の30%は600万円。床上浸水を伴わない土砂災害等では、この金額に満たないと補償を受けられません。さらに罹災証明書で半壊とされれば、被災者生活再建支援金も受け取れず、これはかなり厳しい事態です。
罹災証明書での被害
(損害割合) |
全壊
(50%以上) |
大規模半壊
(40%以上 50%未満) |
半壊
(20%以上 40%未満) |
一部損壊
(20%未満) |
住宅の応急修理
(災害救助法) |
×
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〇
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△ *
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△ ***
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被災者生活再建
支援制度 |
〇
|
〇
|
×
|
×
|
床上浸水を伴わない
水災(火災保険) |
〇
|
〇
|
△ **
|
×
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床上浸水を伴う
水災(火災保険) |
〇
|
〇
|
〇
|
〇
|
そもそも、地滑り等の土砂災害の原因は豪雨だけではありません。特定地質が原因の地滑りや山崩れなどは各地で起きています。こちらは水災ではないため、火災保険で補償されないことも知っておいてください。
土砂災害を受ける恐れが低い街なかに住んでいる場合は、リスクは浸水のみとなるので、住宅と家財のそれぞれの火災保険に適切な水災補償がついていれば心配はいりません。床上浸水となれば半壊や一部損壊など支援金を受け取れないレベルの損害から、最大で住宅と家財を再調達が必要になる損害まで、切れ目なく確保できるからです。
一方、山間部などに建ち、浸水以外の被害も考えられる住まいの場合、たとえ水災補償があったとしても、一定以上の損害でなければ補償を受けられない恐れがあるわけです。
こうした世帯のもう1つの選択肢に建物更生共済「むてきプラス」があります。JA共済の取り扱う共済で、風水害では住宅等におおむね3%以上の損害が出れば、共済金額を上限に修理費などの補償を受けられます(詳細は下の表参照)。2000万円の住宅なら、60万円までの損害が保障されない点に注意が必要ですが、それ以上の損害なら2000万円を上限に全額が保障されます。
ただ最長30年間の積立タイプであることから、掛金はかなり高め。例えば2000万円の木造住宅で30年後に満期金100万円を受け取れる契約だと、当初10年間の年間掛金は約11万円になります。家財も加入すれば、さらに負担は重くなるでしょう。なおJA共済は農家のための共済なので、それ以外の世帯が加入する「員外加入」は、JAごとに組合員利用高の2割までという制限があります。
こくみん共済co-opや都道府県民共済の扱う掛金の割安な「火災共済」でも、水害の保障はあります。こちらもJA共済同様、風害と水害を分けずに「風水害保障」としていて、いずれも10万円超の損害、あるいは床上浸水を被った場合が対象です。
支払われるのは、受けた損害に応じて定められた金額×加入口数で、掛かる修理費の額がそのままカバーされる仕組みではありません。例えば2000万円の住宅に「住まいる共済(標準タイプ)」に加入しているとしましょう。
そこで全床面の50%未満、かつ1m未満の床上浸水の被害を受けたとすれば、建具や家具には大きな損害が出るでしょう。しかしこの場合、支払われるのは36万円。1m未満の浸水は罹災証明書では半壊ですから、この場合は支援金も受け取れません。
住宅が流失する最大級の被害でも、保障額は1173万円と小さめ。10万円超と少額の損害から保障は受けられるものの、保障自体は薄めということです。
商品名(共済団体)
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共済金の支払要件、支払い方
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住まいる共済*1
標準タイプ (こくみん共済co-op) |
【火災】
・住宅の損害額が10万円超 ・または住宅が床上浸水を被った場合 【自然災害】 ・住宅の損害額が10万円超、 ・または家財の損害額が10万円超、 住宅が床上浸水を被った場合 |
新型火災共済
(都道府県民共済) |
住宅・家財が風水害で10万円超の損害
または床上浸水を被った場合 |
建物更生共済
むてきプラス
(JA共済) |
風災、ひょう災、雪災または水災によって生じた損害について
①割合が5%以上の場合 ②割合が3%以上5%未満の場合(床下浸水を除く) ③金額が5万円以上の場合 |
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床上浸水等の場合
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床上浸水以外の場合
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備考
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一般的な火災保険
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~最大2000万円
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600万円
~最大2000万円 |
床上浸水を伴わない
600万円未満の土砂災害等は補償なし
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住まいる共済 *
(こくみん共済co-op) |
36万円
~最大586万円 |
23万円
~最大1173万円 |
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新型火災共済
(都道府県民共済) |
20万円
~最大600万円 |
5万円
~最大600万円 |
罹災証明書で判定
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建物更生共済
むてきプラス
(JA共済) |
60万円
~最大2000万円 |
同左
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5%未満の損害では
床下浸水は損害に
カウントされない
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これまで見てきたように、一口に水災補償といっても商品により補償のされ方は大きく異なります。そもそも損害額をすべてカバーできない仕組みだったり、損害によっては支払われなかったりすることもあります。
商品によってそれぞれ限界もありますが、それでも水災で及ぼされるダメージは甚大であり、リスクがあるなら水災補償はもはや欠かすことはできません。住まいのリスクと家計の状況を踏まえた上で、ベターな補償を選ぶというのが、現実的な備え方だと思います。
なかなかわかりにくいのも事実ですが、被災後の大変な時に保険金が出る、出ないでトラブルになることなど、誰もが回避したい事態のはず。事前に保険のこうしたポイントを知っておければ、保険金請求もスムーズに進められ、将来への不安も抑えられるはずです。