コラム就業不能になったとき、保険でカバーできること・できにくいこと

公開日:2019-12-26

保険を選ぶときに「知っ得」話~第31回

 

 

病気やケガで働けなくなると考えると、誰でも心配なものです。そんなときに備えて、どんなことをしたら良いのでしょうか? それを考える上で、まず勤労世帯の家計の状況を見てみましょう。

 

勤労世帯のうち、住宅ローンを返済中の世帯は約4割、平均残高は1600万円となり、毎月の返済額は手取り収入の2割弱にあたる9万2000円になっています(総務省「家計調査」2018年)。ローンの返済期間は最長で35年間に及びます。月々の返済に加え、子どもがいれば、近年うなぎ登りの教育費が家計にのしかかります。

 

負債や支出を賄う資産や収入面をみると、厳しい現実があります。例えば資産面では、金融商品を保有せず、運用資産のない貯蓄ゼロの家族世帯は、24%にも上ります(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」2019年)。また収入面でも、税金や社会保険料のアップが続いてきたことから、年収600万円の標準世帯の手取り収入は、この17年間で50万円減り、厳しさが増しています。

 

こうした状況で生計維持者が死亡し、家計が立ち行かなくなる事態を回避するため、多くの世帯が生命保険に加入しています。団体信用生命保険で住宅ローンはなくなり、生命保険により子どもの教育費も滞らずに済むでしょう。

 

他方、病気やけがで働けなくなり、収入が途絶えることも考えられます。長期療養となれば、家計に深刻な影響がおよぶ可能性がある中で、このリスクに民間の保険で備える選択肢があります。

 

近年、生保会社により「就業不能保険」が提供され、CMなどで認知度も上昇中ですが、有効な対策になり得るのでしょうか?今回の知っ得ポイントは就業不能に備える保険の効用と限界について。ご一緒に考えていきましょう。

 

主な公的給付は「傷病手当金」と「障害年金」

 

まず、働けないときの公的給付を確認しましょう。

 

業務上・通勤上の災害が原因で働けないときは、労災保険で守られます。けがや病気の治療費は全額補償され、休業補償や障害補償、死亡時の遺族補償などが受けられます。

 

業務と無関係の傷病で4日以上連続の欠勤となったときは、健康保険から「傷病手当金」を受け取れます。欠勤1日につき日給相当額の(標準報酬日額*)の3分の2の額が、最長1年6カ月月にわたり給付されます。また加入している健康保険によって、独自の上乗せ給付や給付期間を延長するといった制度を設けているケースもあります。

*「標準報酬日額」~健康保険において、被保険者の保険料決定の基礎となる標準報酬月額の30分の1に相当する額。

 

それでも、給付額は欠勤前の収入より下がり、社会保険料や住民税の負担も必要なので、家計が厳しくなる世帯は少なくないでしょう。また、これらの給付は会社員や公務員に対してのもので、自営業者は対象外です。

 

 

傷病手当金の給付がストップする1年6カ月を超えてなお治癒せず、一定基準以上の障害が固定したら、今度は公的年金の出番です。障害に応じた1級・2級(厚生年金は3級もあり)の「障害年金」が最長生涯にわたり収入の柱となります。

 

肢体不自由のほか、内臓障害や精神障害でも認定されることがあります。自営業者は障害基礎年金を受給でき、子どもがいれば加算もあります。会社員や公務員にはさらに、障害厚生年金と配偶者加算もあります。

 

ただし、障害年金受給世帯の約半数は収入200万円未満(厚生労働省「年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)」2014年)という現実もあります。障害年金があってやっと暮らしができるという世帯も多いのです。

 

障害者が障害年金以外に公的な支援を受けられる制度として、「身体障害者手帳」があります。一定の障害者は障害区分に応じて医療費の助成や所得税・住民税の軽減など各種の福祉サービスを受けることができます。

 

さらに40歳以上の人が特定疾病で介護を要する場合には、公的介護保険が利用できます。

 

「所得補償保険」と「就業不能保険」の違い

 

こうした公的な給付を補完するものとして、病気などで就業が困難になり、収入減をカバーする民間の保険は、大きく2つあります。損保会社の「所得補償保険」と生保会社の「就業不能保険」です。補償もしくは保障の特徴を大づかみしてみましょう。

 

まず損保の所得補償保険は、1~2週間ほどの免責期間を超えて現在の業務につけない間、最長1~2年間程度にわたり補償を受けられます。補償は前年所得に応じた一定額。一口に言えば、職務復帰を前提に、一時的な就業不能による収入の減少を穴埋めするのがコンセプトの商品です。

 

もう1つの生保の就業不能保険は、60~180日ほどと損保商品よりは長めの免責期間を超えて、医師の指示により働けないとき、あるいは障害年金1級または2級と認定されたときなどに、最長60~65歳までなど超長期にわたり給付を受けられます。給付は契約時の収入に応じた一定額です。長期にわたり療養が続くより深刻な状態を対象に、最長定年までの就業不能期間をカバーできるため、障害年金の上乗せをコンセプトとする商品と言えるでしょう。

 

■所得補償保険と就業不能保険の内容

 
所得補償保険
(損害保険)
就業不能保険
(生命保険)
「就業不能」
の定義
身体障害を被り、入院や入院以外で医師の治療を受け、保険証券記載の職業・職務に全く従事できない状態など
入院または医師が治療による在宅療養で一定の状態
/障害年金1級・2級など
給付を受け
られる期間
最長1~2年など、
比較的短期が中心
最長60・65歳までなど比較的長期が多い。5年などの確定年金型もある
免責期間
7日・14日など比較的短い
60日・90日・180日
など比較的長い
月額給付金
の設定
前年給与所得の12分の1かつ加入する公的医療保険により加入範囲が定められている
勤労所得の6~7割程度、額面年収の5~7%の割合と併せて上限額が設定
メンタル
疾患
免責
免責とするもの、給付期間を限定して保障するものがある
注:条件などの詳細は商品により異なる
 
下の図は、公的給付と生損保商品の手続き・給付の流れです。傷病手当金は欠勤4日目から対象になりますが、民間保険には、保険金支払いの対象外となる「免責期間」があり、その間の給付はありません。

 

生損保の商品で備えるにしても、その間を乗り切れる程度の手元資金があることが前提です。また傷病手当金の給付は1年6カ月が限度になります。それ以降の公的給付は障害年金となります。ただし、同年金の給付を受けるには、申請から認定まで3カ月掛かります。

 

さらに認定されても給付が開始されるまでに時間が掛かるため、傷病手当金の給付が受けられなくなってから、障害年金の給付を受けられるまで5カ月ほどの期間を待たなくてはなりません。

 

公的給付は重要ですが、手続きと時間を要し、その間の生活費は手元からの捻出が必要になります。また公的給付だけで家計を維持するのは困難となる世帯も多いのが現状です。療養が長引く深刻な事態ほど、特に長期給付を行う生保の就業不能保険は、家計の心強い支えとなり得ると言えそうです。

 

 

増え続ける「メンタル疾患は対象外」が多数派

 

療養が長引く代表格はメンタル疾患です。傷病手当金の支給期間は、「精神および行動の障害」によるものが約209日とトップ。給付件数は近年増加傾向にあり、全給付件数に占めるメンタル疾患の割合は現在3割。23年間で7倍以上と大幅に増加しています。

 

障害年金でも、精神障害による受給者は全体の3割を占め、他の疾病と比べ最多です(厚生労働省「年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)」2014年)。

 

 

 

ところが、紹介してきた生損保の商品はメンタル疾患では必ずしも有効な備えになりません。所得補償保険では対象外、就業不能保険でも対象外が多数です。

 

対象になる場合でも、

 
チューリッヒ生命の「くらすプラス」では
「60日超の入院をした場合、確定年金を給付」となっています。
 
またアクサダイレクト生命の「働けないときの安心」では、
「支払い対象外期間である60日経過後、治療を目的とした入院が1年6カ月続いた場合、あるいは国民年金施行令等で障害等級2級以上となった場合、月額就業不能給付金を通算18回まで給付」となっています。
 

ずれも長期入院となる重い状態が対象で、自宅療養は対象外。最大給付額も予め決まっていて、療養期間のすべてが対象にはなりません。 

 

まずは家計リスクを減らす対策を

 

就業不能保険の月額保険料の水準は、月額給付金10万円、免責期間60日、60歳までの保障の場合、おおむね3000円前後といったところです(40歳男性)。より深刻な収入減少リスクを長期にわたりカバーできる点では、保険料が同水準の医療保険より存在意義は大きいといえますが、見てきたように限界もあります。

 

そもそも、就業不能以外にも不測の事態は種々起こり得ます。どのような事態が起きても持続可能な家計を構築するには、家計リスクを抑えこむ工夫が欠かせません。たとえば、ローンは極力少額で短く、貯蓄はできるだけ手厚く、モノを持たず身軽にすることが挙げられます。

 

共働きを続けることも、リスクを分散できる有効な対策です。家計リスクが低ければ、不測の事態での家計の影響が抑えられ、さらに、リスク対策に要するコストも最小限で済むのです。

執筆者情報
清水香(Kaori Shimizu)

清水香(Kaori Shimizu)
生活設計塾クルー  生活設計塾クルー・取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)/社会福祉士/自由が丘産能短期大学講師

1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。財務省“地震保険制度に関するプロジェクトチーム”委員


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