法定外労災は、法律で加入が義務づけられた保険ではありません。それでも建設業では、元請の要求や経営事項審査、公共工事の入札要件などによって、実質的に加入が必要になる場面が多くあります。
この記事では、法定外労災保険とは何かという基本から、建設業でなぜ加入が必要になるのか、政府労災との違い、そして加入までの流れまでを、順を追って解説します。
- 法定外労災に入っていないと、現場に入れないことがある
- 元請が加入を求めるのは、現場の事故で会社が補償を負うため
- 加入前に『元請の求める補償の範囲』を確認することが重要
法定外労災保険とは
法定外労災保険とは、国の政府労災に上乗せして、労災事故の補償を手厚くする任意の保険です。
従業員が業務中にケガをしたり亡くなったりしたとき、国の労災保険(政府労災)から補償が支払われます。政府労災は、従業員を雇うすべての会社に加入が義務づけられた制度です。
ただ、政府労災の補償は定められた範囲にとどまります。
とくに死亡や重い後遺障害といった重大な事故では政府労災だけでは足りず、会社が不足分を負担する場面も出てきます。この不足を任意で補うのが「法定外労災保険」です。
「法定外」とは政府労災の「外」という意味
「法定外」とは、法律で義務づけられた政府労災の外側で、企業が任意に備えるという意味です。
建設業では、従業員を1人でも雇っていれば政府労災への加入が義務づけられます。一方、法定外労災に法律上の加入義務はありません。
労災の補償は二階建てで捉えると分かりやすくなります。
一階部分が、加入を義務づけられた政府労災。その上に企業が任意で積み増す二階部分が、法定外労災です。
では、政府労災という土台があるうえで、なぜわざわざ二階部分が必要になるのでしょうか。
とくに建設業では、元請からの要求や経営事項審査などをきっかけに加入を検討する会社もあります。その理由を次の章で見ていきます。
建設業で法定外労災の加入が必要な理由
建設業で法定外労災への加入が必要になるのは、元請の要求や経営事項審査、公共工事の入札要件など、事実上入らざるを得ない場面があるためです。
法定外労災は、法律で加入が義務づけられた保険ではありません。
それでも建設業では「入っていないと仕事にならない」場面があり、実質的に必要とされているのです。
しかも加入証明の発行には時間がかかるため、求められてからでは間に合わないこともあります。その理由と、備えておくべき場面を順に見ていきます。
元請が下請に加入を求めるから
建設現場では、下請に法定外労災への加入を求める元請があります。
建設現場では、元請を頂点に、下請・孫請が重なって作業を進めます。この重層構造のなかで、現場全体の安全管理の責任は元請に集まります。下請の作業員が事故に遭えば、元請までその影響が及びかねません。
そのため元請は、現場に入る下請に対し、法定外労災への加入を条件とすることがあります。
下請にとっては、加入していなければ現場に入れず、仕事を受けられないことにつながります。
現場入場時に加入を確認されるから
多くの現場では、入場にあたって保険の加入状況が確認されます。
下請が現場に入る際には、作業員名簿や保険の加入状況をまとめた安全書類(労務安全書類)の提出が求められます。
書類上で加入が確認できなければ、現場への入場を認められないことがあります。現場で働くための実務的な前提になっているといえるでしょう。
経営事項審査で加点されるから
公共工事を受注する建設業者にとって、法定外労災への加入は評価上のプラスになります。
公共工事の入札に参加する建設業者は、経営事項審査(経審)と呼ばれる審査を受けます。この審査では、法定外労災への加入が「労働福祉に関する取り組み」として加点の対象になります。
点数が上がれば受注機会の拡大につながるため、公共工事を狙う会社にとって、加入は経営上の判断としても意味を持ちます。
公共工事では入札の要件になっていることがあるから
国や自治体が発注する公共工事では、法定外労災への加入が入札の要件とされる場合があります。
近年、公共工事に関わる法律の改正を受けて、発注者が法定外労災の保険料を工事費に反映する動きが広がりました。これに伴い、一部の公共工事では、着手前に法定外労災の加入を証明する書類の提出が求められるようになっています。
法定外労災と政府労災の違い
政府労災は最低限を補償する国の強制保険、法定外労災はそこに上乗せする任意の備えです。
政府労災と法定外労災は、どちらも労災事故を補償しますが、役割が異なります。
| 政府労災 | 法定外労災 | |
|---|---|---|
加入 | 義務(強制) | 任意 |
運営 | 国 | 民間の保険会社・共済など |
役割 | 補償の土台 | 政府労災への上乗せ |
補償の範囲 | 定められた範囲 | 契約に応じて上乗せ |
政府労災は、従業員を雇う会社に加入が義務づけられた土台であり、治療費や休業分など、労災事故の基本的な補償を担います。
一方の法定外労災は、その上乗せです。政府労災だけでは足りない部分を、会社が任意で補います。とくに死亡や重い後遺障害では、政府労災だけでは補償が足りず、その不足を法定外労災で備えることになります。
なお、政府労災は原則として「労働者」が対象で、経営者や役員は含まれません。法定外労災では、契約によって役員や個人事業主を補償の対象に含められる場合があり、現場に立つ中小の経営者自身の備えにもなります。
建設業の下請が加入するには
下請は元請の求めに応じて加入するのが一般的で、元請は現場全体の備えとして加入します。
法定外労災は、元請と下請のどちらの立場かによって、加入の考え方が変わります。
下請として現場に入るための加入条件
下請は、元請から求められた加入条件を満たすことで、現場に入れるようになります。
下請が現場に入るには、元請が定める加入条件を満たす必要があります。求められる補償の内容は元請や現場によって異なるため、まずは元請に「どの範囲の加入が必要か」を確認するのが確実です。
元請が条件として示すのは、次のような項目です。
死亡・後遺障害の補償額
重大事故に備える金額
死亡で数千万円〜1億円程度(求められる額は現場によって異なる)
補償の対象範囲
・自社の従業員だけか
・下請・孫請の労働者まで含むか
補償のタイミング
・就業中のみか
・通勤中も含むか(24時間補償か)
元請として備えるには
元請は、下請を含む現場全体の労働者を対象に加入するのが一般的です。
元請が加入する法定外労災は、自社の従業員だけでなく、現場に入る下請や孫請の労働者まで対象に含める形が一般的です。現場全体の安全管理の責任が元請にある以上、誰が被災しても補償できる備えが求められます。
下請自身の加入と、元請による現場全体の備えは、重なって機能することもあります。
どちらが優先して支払われるかは契約内容によるため、自社の立場でどう備えるべきかは個別の確認が必要です。
法定外労災保険の加入の流れと相談
加入を検討し始めたら、まず元請から求められた条件を自社の加入内容で満たせているかを確認します。
ただ、補償額や対象範囲が条件に合っているかは、証券を見ても判断が難しいことがあります。こうした元請の要求内容の読み解きから、自社の証券で足りているかの確認までを、保険の専門家と一緒に進めることもできます。
以下では、おおまかな流れと最初に確認すべき点を整理します。
加入までのおおまかな流れ
法定外労災の加入は、必要な補償の確認→見積もり→契約手続き、という流れで進みます。
元請の求める条件や、自社に必要な補償の範囲を確認する
保険会社や代理店に相談し、補償内容の見積もりを取る
内容に納得したうえで契約し、加入証明を受け取る
加入証明は、現場入場や経審の場面で提出を求められる書類です。手続きから証明の発行までに一定の時間がかかることもあるため、元請から求められている場合は早めに動くのが安全です。
まず何を確認すればいいか
まずは「元請からどの範囲の加入を求められているか」を確認するのが出発点です。
法定外労災は、補償額や対象範囲を契約ごとに設定します。
必要な水準は、取引先の元請や入る現場によって異なります。過不足のない備えにするために、最初に確認したいのは次の点です。
元請から求められている補償の範囲・金額
自社がすでに加入している保険で条件を満たせるか
対象に含めるべき労働者の範囲(下請・孫請を含むか)
これらは自社だけで判断しにくい部分もあります。元請が求める補償の水準は取引先や現場ごとに異なり、1社の商品だけで条件に合うとは限りません。
複数の保険会社の内容を横断して比較したうえで選ぶと、過不足のない備えにしやすくなります。
法定外労災保険についてよくある質問

法定外労災保険の保険料はいくらですか?
保険料は、補償内容や現場の規模、工事高などによって変わるため一律ではありません。
法定外労災の保険料は、設定する補償額や対象とする労働者の範囲、年間の完成工事高などをもとに決まります。目安として、下記の条件で試算した場合の平均保険料は、年間およそ252万円です。
完成工事高:3億円(売上高方式)
使用者賠償責任:3億円/死亡・後遺障害:1億円/入院日額:1万円
※下請けを使わない場合や、少人数で売上が大きい企業では、人数方式で計算すると保険料が抑えられるケースもあります。条件により変動するため、金額は断定できません。
同じ「法定外労災」でも、必要な補償の水準によって金額は変わります。自社に必要な補償で見積もるには、保険会社や代理店への相談が近道です。
一人親方も法定外労災保険に入れますか?
一人親方の労災の備えは、法定外労災とは別の「政府労災の特別加入」という制度が基本になります。
法定外労災は、従業員を雇う会社が、政府労災に上乗せして加入する保険です。
一方、従業員を雇わない一人親方はそもそも政府労災の対象外となるため、まず「特別加入」という制度で政府労災に任意加入するのが基本です。
呼び方は似ていますが、両者は別の制度です。
また、一人親方の休業や賠償への備えとしては、傷害保険に所得補償や弁護士費用などの特約を付ける方法もあります。
どの備えが適しているかは属性によって異なるため、専門家に相談しながら選ぶのが確実です。
まとめ:元請の求める補償は、現場ごとに違う
法定外労災は法律上の義務ではありません。それでも建設業では、元請の要求・現場入場の確認・経営事項審査・入札要件によって、加入が実質的な前提になる場面が多くあります。
注意したいのは、求められる補償の水準が元請や現場ごとに異なることです。すでに何らかの労災上乗せ保険に加入していても、補償額や対象範囲が足りず、入り直しや追加が必要になることもあります。
加入証明は現場入場や経審の場面で提出を求められる書類で、手続きから発行までに一定の時間がかかります。元請から求められている場合は、今の補償で条件を満たせているかを早めに確認しておくのが安全です。