2019年の税制改正(通称:バレンタインショック)で法人保険の会計処理のルールは大きく変わり、保険料を全額損金算入することが難しくなりました。
また、2021年の改正により名義変更プランと呼ばれる法人名義を個人名義に変えて節税する手法も使えなくなりました。
これらの法改正は、法人の節税対策そして法人保険の活用法にどのような影響を与えたのでしょうか。
法人保険の損金算入の仕組みは、会社の利益にも大きく影響を及ぼす可能性があります。税制改正内容を理解して保険をどう活用すべきか、どうすれば利益が生まれるのか、分かりやすく説明します。
この記事でわかること
税制改正前は法人保険に節税効果はあったが、今は小さくなった
法人保険は、保障内容だけでなく解約返戻金をどう扱うか計画を立てておくことが重要
法人保険は上手に活用できれば会社にとってもプラスになる保険
税制改正前は法人保険に大きな節税効果があった
ルール改正前、法人保険(長期平準定期保険)については以下のルールが適用されていまし た。
「保険期間満了時の被保険者の年齢が70歳超かつ加入時の被保険者の年齢+保険期間×2が105超」の場合、保険期間の開始時から当該保険期間の60%に相当する期間は支払保険料の2分の1を資産計上(2分の1が損金計上)をする
このルールを逆手に取れば、上記に該当しない場合は全額を損金計上ができますよね。これが、法人保険は節税効果があったと言われる理由のひとつです。
その他にも、改正前の法人保険では以下の節税効果がありました。
税制改正前は保険料が全額損金として算入できた
名義変更により法人税の負担を軽減できた
では、それぞれどのような方法で節税ができていたのか紹介します。
今から使える法人保険の活用方法を知りたい方は以下から先読みしてみましょう。
税制改正前は法人保険の保険料は全額損金として認められていた
2019年以前まで、保険会社がルールに適応した保険を開発することで、法人は支払保険料を全額損金算入できました。
解約返戻金を受け取る時にも、新たな全損保険に加入することで、解約返戻金から得る益金と、保険料支払いによる損金で利益が相殺されることにより結果的に課税金額が無くなります。
また、全損保険は保険の仕組み上、5年程度で解約返戻率のピークが到来します。
その期間で解約しないと解約返戻率が悪化しますから、多くの法人は、5年程度で解約と加入を繰り返していました。
https://ins.minkabu.jp/columns/life-corporate-insurance-241129
税制改正前は法人保険の名義変更も制限がなかった
法改正以前は、法人で契約していた保険を個人へ変更する場合、その保険の解約返戻金相当額で有償で譲渡することができました。
解約返戻金が低い「低解約期間」が設定されている場合、低解約期間中は支払い保険料の10%程度で、低解約期間を過ぎると解約返戻率が80%まで上昇します。
例えば年払いで500万円を支払っていた場合、低解約期間中の解約返戻金は50万(10%にあたる)です。4年間の低解約期間が設定されている保険に加入した場合、4年で支払い保険料が2000万、解約返戻金は200万です。
低解約期間後は解約返戻金が80%に上昇し、5年目は年払い保険料500万×5年×80%で解約返戻金は2000万になります。
【低解約期間が4年間の場合】
1年 |
4年 |
5年 |
|
保険料 |
500万円 |
2000万円 |
2500万円 |
解約返戻金 |
50万円(10%) |
200万円(10%) |
2000万円(80%) |
個人としては低解約期間の200万で保険を買い、翌年には2000万の解約返戻金となります。個人で受け取った解約返戻金は課税対象ですが、一時所得になるので税負担を抑えることが可能でした。
法人保険に大きな影響を及ぼした2度の税制改正により損金算入のルールが変わった
全損保険と名義変更プランに関する税制改正により、保険との関わり方は大きく変わることになります。
2019年の税制改正で損金算入できる割合が減少
解約返戻金は益金として課税対象になりますが、解約時に新たな全損保険に加入することで、解約返戻金から得る益金と、保険料支払いによる損金で利益が相殺されることにより結果的に課税金額が無くなります。
10の益金(解約返戻金)に対して10の損金(新契約保険料)を充当すれば法人としての利益は相殺されます。
全損保険は保険の仕組み上5年程度で解約と加入を循環させて節税を行っていました。
しかし、法改正により保険料の4割-6割が損金計上になったため、従来の循環を繰り返すと10の益金に対して4-6の損金を充当して残った金額は益金となり課税対象になってしまいます。
これにより法人保険の循環サイクル(節税スキーム)は崩壊しました。
2021年の税制改正で名義変更による節税が困難に
法改正により、法人から個人へ譲渡する際の評価について「解約返戻金の額が7割未満の場合は資産計上額で評価する」と変更されました。
保険契約の解約返戻率の最高が80%だった場合、40%は損金、60%が資産計上となります。法改正前後での違いは以下の通りです。
保険内容例:保険期間10年/年間保険料500万/低解約期間4年 低解約返戻率10%/最高解約返戻率80%
4年経過後に法人から個人に名義変更した場合の評価額
法改正前 |
法改正後 |
|
解約返戻金 |
2,000,000 |
ー |
資産計上額 |
ー |
12,000,000 |
通常、役員報酬は給与所得として所得税や住民税、社会保険料などがかかります。
一方で、法人保険を法人から個人に名義変更し、その後解約して解約返戻金を受け取る場合、この解約返戻金は「一時所得」として課税されます。
一時所得は給与所得よりも税負担が軽減されやすいため節税効果がありましたが、資産計上額として評価されることになり、法人から安く買えなくなったことで節税効果が薄れました。
法人保険料の損金算入の変更点まとめ
2度の法改正により、全額損金は廃止され、名義変更の際の評価基準も変更されました。いずれの改定も保険本来の機能や主旨を逸脱した契約を問題視したことによる改定です。
一時的に保険料の損金参入して税を繰り延べても、解約返戻金額が課税対象になるため、節税にはつながりません。
保険は全損保険という節税商品としての機能は無くなりましたが、法人税対策は企業にとっては死活問題です。
また法改正によって、節税効果が小さくなりましたが、新しい形の保険も登場しており、節税ではなく資産を増やすような保険を有効活用することで会社の利益向上に役立てることができます。変更後のルールに合わせた活用方法をご説明します。
法人保険に加入する目的と出口戦略はどうすればよい?
保険が法人にもたらすメリットは、損金算入だけではありません。
節税目的の加入が過熱したため、保険本来に何が出来るのかを確認できている法人は少ない可能性もあるのではないでしょうか。
節税ができなければ保険には何もできないのか。どのような保険に加入すれば、将来のリスクファイナンスに備えて企業利益の拡大化につながるのかを説明します。
https://ins.minkabu.jp/columns/life-corporate-insurance-241129
法人保険に加入する目的とは
法人保険は本来、節税のためでなく、以下のような多種多様なリスクや出来事に対する備えをするためのものです。
経営者が亡くなった時や病気などにかかった時の会社経営を継続するための事業保障資金
次世代に会社を引き継ぐときの自社株対策資金
役員や従業員の退職金積立てのための積立準備金
また法人にとって、これらの資金は長期的な視野で考えるべきものです。
その意味で、保険商品は長期間に渡って保障を継続できる点、簿外で資産を増やせる点など、法人にとってファイナンスの手助けになることは間違いありません。
現在も、退職金準備を損金算入しながら加入できます。
すべてができなくなったのではなく、あくまで保険本来の趣旨を逸脱した加入に制限がかけられたにすぎません。
今でもかしこく積み立てをすることで会社の資産を増やす方法はいくつもあります。
法人保険の出口戦略はどうするのが正解?
従来の短期的で目先の損金を解消する目的では無く、会社の中長期的な成長戦略の1つとして保険を活用することがお勧めです。
退職金積立てに活用する場合、退職のタイミングは実際にその時にならないと分からないケースも少なくありません。
特に人生100年時代と言われている世の中で、経営者の退職時期も年々高齢化しています。
先々何があるか分からないからこそ、解約返戻金のピーク期間が長く取れて資産増を期待できる保険を活用することで、出口の対応方法が増えます。
保険の中には保険料を運用して資産増を期待できる保険など、新たな商品も登場しており、法改正が行われた今、保険をどう活用するのがベストなのかを確認することが会社の長期的な成長のために非常に大切になります。
まとめ
多くの法人が保険の活用方法の過渡期を迎える中、今までと同じことを続けるだけでは会社の資産は目減りしていきます。
会社の利益を高めるためにはコストを減らすか、売上を上げるかのどちらかです。
保険本来の機能を有効活用することで、会社の利益を高めることは税制改正後も可能です。
様々な種類の保険を見比べて検討するべきですが、忙しい経営者の中には税理士の方に任せきりになっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
保険のプロに相談することで、簡単に税制改正に合わせた新しい保険のカタチを知ることができます。ご自身の会社や家族を守るためにも「知らない」ということは無くして、一度無料相談を受けることをお勧めします。