保険料が損金算入の対象となる法人保険は多くの中小企業の経営者に活用されてきました。中には利益と同額の保険料で保険に加入して節税効果を得ようとする法人もありました。
しかし、そのような本来の主旨と異なる保険の活用が問題視され、2019年に大規模な税制改正が行われ、経営者・保険業界・税理士の方々に大きなショックを与えました。
2019年:法人保険の損金算入割合の見直し
2021年:法人名義から個人名義に変更する際の評価額計算方法の変更
その結果、現在の法人保険の節税効果はほとんど期待できない状況になっています。では、節税効果が少なくなった今でも法人保険へ加入するメリットはあるのでしょうか。
今回の記事では経営者の方にも分かりやすく法人保険に加入することのメリット・デメリットや新しくなったルールを解説します。
法人保険とは?
保険は将来起こりうるリスクに対して備える金融商品です。
法人にはどのようなリスクがあるでしょうか。具体的なリスクとしては、社長や役員が病気で倒れたり、亡くなってしまったり、地震などの天災で被災するなどが考えられます。
会社にとっての顔であり脳である社長が倒れてしまい、会社を長期間不在にしたり、亡くなってしまった場合、法人としても従業員の給料が払えなくなったり、倒産してしまうケースもあります。
そういった法人としてのリスクに備えるのが法人保険です。
法人保険に加入するメリットは何がある?
法人保険に加入する主なメリットは以下の通りです。
メリット |
具体例 |
経営者が傷病にかかった際に保障を受けられる |
ガンと診断された場合3000万円受け取れる |
事業承継・相続対策になる |
亡くなってしまった場合1億円を準備できる |
退職金の準備ができる |
自身の退職金として1億円が準備できる |
従業員の福利厚生の一環になる |
保険料を損金計上しながら従業員の退職金準備ができる |
それぞれのメリットについて詳しくみていきましょう。
経営者が保障を受けられる
経営者がガンを患って闘病生活を余儀なくされた場合、健康な時と同様の営業活動を行うことは不可能と言って良いでしょう。
経営者が会社にもたらした売上が無くなっても、従業員の給与や銀行融資の返済は待ってはくれません。
こうしたケースに備えられるのが法人保険です。法人保険に加入していれば、万が一経営者が重病を患ってしまった場合に保障が受けられます。
まとまったお金を得ることで法人としても個人としてもお金の心配を減らすことができます。
事業承継・相続対策になる
経営者が突然亡くなってしまった場合に会社はどうなるでしょうか。
ご子息が会社を継ぐ時、中小企業の借入金は社長が個人として連帯保証人となっているケースもあります。会社に借金があれば、ご子息はその借金も含めて相続をすることになります。
経営者が突然の事故で亡くなることで法人としても個人としても残された方が責任をとらなければなりません。
自分にもしものことがあり、残されたご子息や関係者が経済負担を強いられるのはぜひとも避けたいですよね。こうした「事業継承・相続」に関するリスクも法人保険でカバーができます。
退職金の準備ができる
退職金制度がない場合や、不足している場合に、退職金の積立として活用できます。
人生100年時代と言われる現代、経営者が会社を勇退した後のセカンドライフも今まで以上に長期間におよびます。
勇退後の個人としての人生をより豊かなものにするためにも法人保険が活用できます。
例えば40歳男性であれば、1億円の死亡保険金と退職金1億円(70歳で受取)が月13~15万程度の保険料で準備できます。
従業員福利厚生の一環になる
法人保険(生命保険)に加入することで、従業員の福利厚生を充実させることができます。
人材不足と言われる昨今、中小企業は今まで以上に人材確保が経営課題となっています。
会社の福利厚生を充実させることで法人としての魅力を高め、優秀な人材を確保し、継続して勤務できる職場環境の構築に活用できます。
福利厚生として保険を活用する場合、保険料の50%は損金として計上できるため、法人としても損金参入を行いながら効果的に従業員満足度を向上させることができます。
法人保険に加入する前に知っておくべきデメリット
メリットも多くある法人保険ですが、知っておくべきデメリットも存在します。主なデメリットは以下の2点。
保険料の負担を考える必要がある
解約時の損失リスク
保険料の負担を考える必要がある
保険料の支払いは、会社の資金繰りを圧迫する可能性があります。
保険は継続して支払いが続きます。税制改正が行われる以前には、会社に利益が出た途端にその利益を相殺する保険を検討する法人が多くありました。
しかし翌年には想定していた利益が出ずに保険料の支払いが続くことでキャッシュフローが悪化するケースもあります。
損金計上ができる目先の税効果のみしか考えずに保険に加入することは絶対にやめましょう。
利益が増え続けるのであれば途中で追加購入も可能ですから、無理のない範囲で継続できる保険料を設定することが重要です。
解約時の損失リスク
保険は5年10年20年と保険ごとに定められている期間、支払いを続けることを前提に商品開発が行われています。
そのため短期で解約をすると解約した時に受け取れる金額(解約返戻金)が、全く無いか、あってもごくわずかという保険があります。
解約返戻金を確認せずに加入すると、支払った保険料の半分以下しか戻ってこないケースもあります。
また解約返戻金を受け取った金額に応じて、その金額は課税対象となります。一度に大きな解約返戻金を受け取ると、その年の法人税支払いも大きくなります。
解約返戻金を分割して取り崩しながら受け取る方法などもあり、発生する益金をどのようにソフトランディングさせるかが重要です。
税制改正のリスク
税制改正により、損金算入の範囲が縮小される可能性があります。
法人保険は2019年に損金算入割合のルール変更、2021年に名義変更時の評価額変更と、大きなルール改正が行われました。これらのルール変更は保険の主旨を逸脱した保険契約を禁止するルール改定でした。
今は節税が出来ている保険も将来にわたって同様のことが出来るかは分かりません。
また2021年のルール改定では過去に加入した契約にまでルールを適用するという踏み込んだ改定が行われました。もう入っているから大丈夫という考えも禁物でしょう。
法人保険は加入したらOKではなく、加入後も適宜見直しをすることが重要です。
法人保険の損金算入のルールとは
2019年の税制改正(バレンタインショック)で損金算入のルールは以下のようになりました。
最高解約返戻率 |
損金算入割合 |
50%以下 |
全額損金 |
50%超70%以下 |
6割損金 |
70%超85%以下 |
4割損金 |
85%超 |
契約当初から10年目まで最高解約返戻率1割損金 11年目以降 最高解約返戻率3割損金 |
支払った保険料に対して、解約した時にいくら戻ってくるのかを表したのが、最高解約返戻率です。
例えば支払った保険料の80%が戻ってくる保険の場合は4割損金です。
法人保険の保険料の経理処理はどうするのが正解?
年払い保険料100万円で4割が損金計上、6割が資産計上という保険の場合、借方に支払い保険料40万円、前払い保険料60万円と記載をして、貸方に現・預金100万円と記載をします。
項目や記入箇所については税理士の方に相談して正しく記載をしましょう。また、保険の種類によって損金計上の割合が異なりますから注意しましょう。
法人保険は節税になる?ならない?
業法が変わった現在も損金計上が出来ることには変わりありませんが、その割合が大きく変更され節税効果は薄くなりました。
税制改正以前と同様の考え方で保険に加入すると、解約した時の受取額が少なくなるなど法人が大きく損をしてしまう可能性があります。
一方で保険選びを工夫することで、解約時の受取額が増える保険なども登場しています。
これからの保険は入口の節税効果ばかりではなく、支払った保険料に対してどれくらい戻ってくるのか受け取る時の金額が非常に重要なポイントになります。
法人保険は保障内容だけでなく解約返戻金の受け取りタイミングについても考える必要がある
法人保険とひとえに言っても、その種類や保険料は様々です。
経営者の方が病気を患った時や万が一亡くなった場合の保障を備える場合、保険会社によって保険料が2割~3割程度変わることもあります。
また、解約返戻金の観点でも、なかには解約した場合に受け取る金額の増加が期待できる保険もあります。
法人の資産をリスクから守る保険。法人の資産を増やす保険。次の世代に繋げる保険。法人保険を活用することで実現できる未来があります。
しかし普段から忙しくしている経営者の方が状況把握から保険の仕組みの理解までを行うのは困難です。
経営者の方が手を煩わせずに法人の将来を考えるためにも、プロのコンサルティングに今の加入状況を確認してもらうことから始めることがお勧めです。