法人保険で節税する方法と損金算入の仕組みをわかりやすく解説

著者:和 秀哉

監修:

松井 翔子

3級ファイナンシャル・プランニング技能士 / フィナンシャル・エージェンシー所属

節税保険をして多くの企業が取り入れていた法人保険、2019年の業法改正の公表により損金算入の仕組みが変わり、従来のような節税効果は見込めなくなりました

今回の記事では法改正がもたらす法人への影響と、法改正前に加入した保険の注意事項をご説明します。法人にとって利益と密接な関係のある法人保険、「知らなかった」で損をすることがないように確認をしましょう。

法人保険の節税効果は税制改正により小さくなった

かつては節税効果があり、法人から人気を集めていた法人保険ですが、現在は節税効果は小さくなっています。

節税効果が見込みづらくなった背景には2度の法改正が関係しています。

  • 2019年6月の改正通達で保険料の損金算入できる割合に制限がかけられた

  • 2021年3月の改正公表で個人名義への変更に制限がかけられた

まずは、なぜ今の法人保険は節税効果が小さいのか、従来はどのような節税効果があったのか説明します。

法人保険の損金算入について先読みする

法人保険の解約返戻金にかかる法人税の節税について先読みする

2019年2月の法改正で保険料の損金算入できる割合に制限がかけられた

2019年2月の法改正で保険料の損金算入できる割合に制限がかかりました。従来、法人保険は保険料の全額を損金算入(経費として計上)することが認められていました。

利益が出ている法人にとっては短期間で大きな損金(経費)を計上できて利益が減り、結果的に法人税が減少することから節税スキームとして、多くの企業が保険としての役割ではなく節税目的として法人保険に加入をしてきました。

図:バレンタインショック

しかし2019年2月14日に国税庁から最高解約返戻率が50%以上となる保険については課税方法を見直す発表がありました(通称:バレンタインショック)

2021年3月の法改正で個人名義への変更に制限がかけられた

さらに2021年3月の法改正で法人名義の保険を個人名義への変更(通称:名義変更プラン)する際の評価額計算方法が変わりました。

名義変更プランとは、解約返戻金が低く抑えられている間に個人名義に変更を行い、解約返戻金が跳ね上がった時点で解約すると節税につながる手法です。

図:名義変更プラン

解約返戻金を経営者の退職金目的で利用するスキームも、この改正によって事実上使えなくなりました。

2019年、2021年の相次ぐ法改正により、法人保険は節税目的の加入の一切を禁止されるのを受け、多くの法人で法改正前の駆け込み加入を行いました。そして今、駆け込み加入を行った節税保険について見直しのタイミングが来ています。

2019年に加入している場合、解約返戻金のピークが近いため迅速な見直しが必要です。

【2024年度】法人保険の損金算入の仕組みはどうなっている?

法人保険の損金算入の仕組みはどうなっている?

法人保険の損金算入の割合は、解約した時に支払った保険料の何%が戻ってくるのかを基準に定められています。

解約返戻率によっては今も全額損金算入が出来る保険もあります。一方、解約返戻金は簿外資産のため、解約返戻率が高い保険に加入することで簿外資産を確保することが出来ます

会社のステージや将来のビジョンに合わせた保険を検討することが重要です。

  • 解約返戻金と損金算入の関係性を正しく理解する

  • 解約した場合に戻ってくる金額は課税対象となるため注意が必要

まずは業法改正後の損金算入割合の規定をご説明します。

最高解約返戻率に応じて損金の計上要件が決められている

法人が節税保険に加入する際に大事にしていたのは、損金性・返戻率・名義変更ですが、前述した2度の法改正に伴い以下の通りとなりました。

最高解約返礼率

損金算入割合

50%以下

全額損金

50%超70%以下

6割損金

70%超85%以下

4割損金

85%超

契約当初から10年目まで最高解約返戻率1割損金

11年目以降 最高解約返戻率3割損金

依然として、一定の損金を計上しながら、簿外資産を作れる4割損金、6割損金のプランを検討する企業が多くあります。

しかし、業法改正前と比べると今まで全額が損金計上できたのに対して支払った保険料の4割、6割になることで節税効果は薄れ、解約時にも50-85%しか戻らなければ単純に資産は目減りしますから、以前のような節税効果は見込めません

また名義変更プランも低い解約返戻率の時期に個人が買い取ることによるメリットで節税効果を期待できていましたが、資産計上額による評価になることで名義変更も利用できなくなりました。

保険料の損金算入をしても課税タイミングの繰り延べにしかならない

保険種類によっては保険料の一部を損金算入が出来ますが、保険を解約した時に解約返戻金として受け取る金額が課税対象です。

保険料に対しては損金計上ができた分、解約返戻金として受け取る時に課税されるため、損金算入に節税効果はなく税金の繰り延べに過ぎません。

短期的なキャッシュフローの改善や利益圧縮とはなりますが、最終的な税負担は残っているので注意が必要です。

解約返戻金にかかる法人税の節税方法はない?

解約返戻金にかかる法人税の節税方法はない?

加入中に損金算入をしていた法人税の精算を行うため、契約中の保険に解約返戻金がある場合は解約した時に受け取った金額は益金となり法人税の課税対象となります。

解約返戻金を受け取る時に大きな益金が算入されると会社の損益に影響します。保険に加入する際には契約した際の出口対策まで検討をしておく必要があります。

  • 解約返戻金はどのように推移するのか?

  • 解約返戻金を受け取った時の益金の対処方法はどうしたら良いのか?

まずは解約返戻金がどのように増えていくのかを説明します。

2019年以前に法人保険に加入した場合は返戻金のピークが近いので注意

全損保険の全盛時代には「傷害保障重点期間設定型長期定期保険」という保険を各社が販売していました。保険の解約返戻率のピークのイメージは下記の通りです。

イメージ:保険の解約返戻率のピーク

加入後すぐに解約返戻率が高くなることで目先の損金算入と、保険に使った経費の回収が早期にできることで節税スキームを成り立たせていたため、2019年以前に加入した保険は2024年前後から解約返戻率のピークが到来します。

節税スキームの保険は解約返戻率が山なりに推移するため、契約返戻率がピークを迎えたタイミングで解約をしないと返戻金が減少するため、見直しや切り替えなどの対策が必要になります。

今までは解約返戻金を新たな保険の原資として回すことで解約返戻金の出口対策を行っていましたが、法改正で従来の節税保険は販売禁止になったため、出口対策をどのようにするかが大きな問題です。

節税保険には図のように4〜5年でピークを迎える保険もあり、ピーク時に保険を見直さないと契約返戻率が悪化する可能性がありますから、今ご加入中の保険を必ず確認しましょう

損金が発生するイベントで相殺することは可能

解約返戻金は雑収入として経理処理をしますが、受け取った解約返戻金に対して固有の税金がかかる形ではありません。

あくまで法人としての益金の一部という考え方ですから、解約返戻金を含めた益金(売上・収入)から、売上原価や販売費、役員報酬や退職金支払い、災害などによる損失などの損金を差し引いて所得金額を算出します。

所得金額=(解約返戻金を含めた益金)-(売上原価や役員報酬等の損金)
解約返戻金を受け取っていても、その事業年度が赤字であれば税金は発生しません

解約返戻金を徐々に取り崩せば1回に支払う法人税は抑えられる

解約返戻金は雑収入として経理処理をするため、解約返戻金を一度に受け取ると多額の益金が発生する可能性があります。

多額の益金が生じると法人税がかさんで事業への影響を及ぼしかねません。そこで知っておいていただきたい方法があります。

それは、保障の一部を解約する方法(一部解約)です。

解約返戻金は会社のキャッシュフローに影響を及ぼすため、数年間にわたって一部解約を繰り返すことで、一度に大きな益金を得ることを防ぐことができます

節税効果がないなら法人保険は必要ない?

節税効果がないなら法人保険は必要ない?

業法改正によって従来の節税目的の加入は難しくなりました。

今、法人として保険に加入する必要はあるのでしょうか。ここでは保険本来の目的や会社経営における将来リスクを少し振り返り、保障が必要かどうかを今一度ご説明します。

もともと法人保険は節税目的ではなく会社のリスクに備えるためのもの

法人保険に限らず保険は将来の起こりうるリスクに対して備える金融商品です。

法人保険で損金算入が認められているのも、会社が将来抱える可能性があるリスクを回避するためには必要な経費だと認めているためであり、今も一定金額が損金算入できることに変わりはありません。

保険であればわずかな金額で大きな保障を準備できます。例えば40歳男性の方で1億円の死亡保険金を準備しようとした場合、月々の保険料は3-4万程度で加入ができます。

仮に3万円を積み立てた場合、年間36万、10年でも360万にしかなりません。リスクファイナンスの資金源としては保障を備えることが大事になるでしょう。

会社の不測の事態に備えるためにも法人保険は必要

中小企業の法人にとって社長や経営者は、その会社のトップセールスマンであるケースも少なくないため、社長に万が一のことがあると、売上が大幅に減少してしまう可能性があります。

金融機関は、会社の代表者の信用力や経営能力を評価して融資を行うことが多くあります。

代表者の死亡により、経営の安定性や事業継続の見通しに不透明さが生じ、金融機関から見た信用リスクが増大します。

そのため、融資の新規実行や借り換えが難しくなったり、既存の融資契約の見直しを求められる可能性があります。

また次世代に会社を引継ぎをする際にも、先代の残した借金の返済や自社株買いなど、事業承継にあたっても資金調達が必要になるケースもあります。法人の連帯保証人が経営者個人になっていることも少なくなく、経営者に万が一があった際の対策は必要不可欠です。

変額保険に乗り換えて万が一の資金に備えるという選択肢もある

変額保険なら、新制度下でも節税効果と資産形成を両立させる可能性を持っています。

例えば、3%の予定利率で設定された保険が、加入後に10%で運用されたとしても、3%を用いて損金算入ができます。全額損金計上はできませんが、運用成果によっては、解約返戻率が100%を上回るケースもあり得ます

設定している予定利率は会社によって異なりますが、概ね3%前後です。運用成果によって返戻金が増える可能性を含めたまま、損金算入をすることができます。

まとめ

法人保険の税制改正は今後多くの法人で頭を悩ませる問題となります。

全額が損金計上は出来なくなりましたが、一定割合での損金算入は認められてますし、経営者の万が一のための備えは法人として必要です。時代に合わせた保険の見直しや選択を行うことで、まだまだ金融商品として会社の資金繰りを支えることは可能です。

プロに相談をすることで、簡単に現在加入している保険のメンテナンスも可能です。自分の会社や家族を守るために、「知らないこと」を無くすためにも、一度無料相談を受けることをお勧めします。

和 秀哉

3級ファイナンシャル・プランニング技能士
保険業界で8年以上の経験を持ち、深い専門知識と豊富な実務経験を活かして、お客様のニーズに合わせたライフプランの策定と提案を行っています。さらに、管理職としての経験もあり、チームの人材育成に注力。お客様一人ひとりに最適な解決策を提供できるよう、プロフェッショナルなライフプランナーを育成してきました。

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