従業員を雇う会社は、国の労災保険(政府労災)に加入しています。そのうえで案内されることがあるのが「業務災害補償保険」です。
名前が似ているため混同されやすいのですが、この2つは別のものです。
政府労災は国の強制制度、業務災害補償保険は会社が任意で加入する民間の保険で、2つの補償が重なる部分と、それぞれ補償されない部分があります。
この記事では、2つの違いを整理したうえで、実際に事故が起きたとき休業補償がどこまで出るのか、自社に必要かの判断ポイントまでを解説します。
- 業務災害補償保険は法定外労災や労災上乗せ保険と同じものを指す
- 政府労災の休業補償は給付基礎日額の8割程度にとどまる
- 上乗せで何をどこまで備えるかは契約ごとに決める
業務災害補償保険とは?
業務災害補償保険とは、政府労災に上乗せして、労災事故の補償を手厚くする民間の保険です。
従業員が業務中にケガをしたり亡くなったりしたときに備えるもので、加入するかどうかは会社の任意です。
この保険は、呼び名がいくつもあります。
| 呼び名 | 主に使われる場面 |
|---|---|
業務災害補償保険 | 保険会社が販売する商品としての名称 |
法定外労災/上乗せ労災 | 建設業を中心に使われてきた通称 |
労災上乗せ保険 | 政府労災との関係を表した言い方 |
いずれも同じものを指しています。
建設業では「法定外労災」、保険会社の案内では「業務災害補償保険」と表記されることが多く、別の商品のことだと誤解されやすい点に注意が必要です。
業務災害補償保険と労災(政府労災)の違いは?
政府労災は国が運営する強制加入の制度で、業務災害補償保険は会社が任意で加入する民間の保険です。
主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 政府労災(労災保険) | 業務災害補償保険 |
|---|---|---|
| 加入 | 従業員を雇えば義務 | 任意 |
運営 | 国 | 民間の保険会社 |
補償の範囲 | 法律で定められた給付 | 契約で設定する |
慰謝料・会社が負う賠償 | 対象外 | 特約で備えられる |
経営者・役員 | 原則として対象外 (※特別加入制度を除く) | 契約により対象にできる |
政府労災は補償の土台です。ただし給付される項目はあらかじめ決まっており、そこに含まれないものは会社の負担として残ります。
政府労災=最低限の公的な補償
業務災害補償保険=会社が任意で追加する補償
という関係で考えると分かりやすいでしょう。
従業員を1人でも雇う会社には政府労災への加入義務があり、民間の保険に加入していてもこの義務は変わりません。
業務災害の休業補償はどこまで出る?
政府労災の休業補償は給付基礎日額の8割程度で、休業4日目からの支給です。給料の全額が補償されるわけではありません。
従業員が働けない期間の収入は、事故のあとに最も問題になりやすい部分です。
政府労災から出る休業補償
基準となる「給付基礎日額」は、おおよそ事故前の賃金をもとに算定されます。そこから8割程度が、休業4日目以降について支払われます。
足りないのは、残りの2割です。休業が長引くほど、実際の給料との差は積み上がっていきます。
上乗せで埋められる部分
業務災害補償保険では、この差額を補う補償を契約に含められます。
休業中の所得を補う補償
死亡・後遺障害に対する補償
入通院に対する補償
会社が法律上の損害賠償責任を負った場合への備え
補償の内容や金額は契約ごとに設定するため、どこまで備えるかは会社が決めることになります。
業務災害補償保険はどんな会社に必要?
判断の軸は業種ではなく、事故が起きたときに会社へ残る負担を自社で払えるかどうかです。
とくに次のような会社は、検討する意味が大きくなります。
役員や社長自身が現場に立っている
従業員が現場作業や運転をしている
下請や外注に作業を任せている
従業員数が少なくても、一度の事故が資金繰りを直撃する可能性はあります。判断軸の詳しい内容は、下記の記事で解説しています。
https://ins.minkabu.jp/columns/rousai-uwanose-basics-260929
業務災害補償保険についてよくある質問
業務災害補償保険と法定外労災は別の保険?
同じものを指しています。
「法定外労災」は建設業を中心に使われてきた通称で、「業務災害補償保険」は保険会社が販売する商品としての名称です。案内された書類で表記が違っていても、別の保険に切り替わるわけではありません。
業務災害補償保険に入れば政府労災は不要?
業務災害補償保険に加入していても、政府労災への加入は必要です。
従業員を1人でも雇う会社には、政府労災に加入する義務があります。業務災害補償保険は、その上に任意で積み増すものです。
パート・アルバイトも業務災害補償保険の対象になる?
契約の内容によりますが、対象に含められます。
政府労災は雇用形態を問わず適用されるため、上乗せ側も範囲を揃えておくと、補償に抜けが生じにくくなります。対象とする従業員の範囲は、加入前に重要事項説明書で確認しましょう。
まとめ|業務災害補償保険は呼び名ではなく契約内容で判断する
業務災害補償保険と政府労災は、役割が異なります。政府労災は法律で定められた補償の土台、業務災害補償保険はその上に任意で積み増す民間の保険です。
政府労災だけでは、休業中の収入は給料の全額に届かず、慰謝料や会社が負う賠償も対象になりません。この差をどこまで埋めるかが、業務災害補償保険で決めることになります。
また、法定外労災・上乗せ労災・業務災害補償保険は、いずれも同じものを指す呼び名です。名前の違いで判断せず、補償の範囲と対象者が自社に合っているかを見てください。
すでに加入している場合も、契約内容は会社ごとに異なります。現状を伝えたうえで、過不足がないか確認してみてください。