法人保険は、会社が契約者となって、事業に関わるリスクに備える保険です。生命保険と損害保険がありますが、この記事では生命保険を取り上げます。
法人で契約する生命保険には、経営者に万一のことがあったときに、事業を続けるための資金を準備しておく役割があります。
会社の規模が小さいほど、経営者ひとりが担う役割は大きくなります。経営者が不在になっても、従業員の給与や借入金の返済は続きます。
この記事では、法人保険の基本と、メリット・デメリット、保障額の考え方を解説します。
- 経営者や従業員の万一に備え、会社に必要な資金を準備できる
- 早い時期に解約すると、払い込んだ保険料を下回る場合がある
- 保障額は、必要な金額から準備済みの資金を引いて考える
法人保険とは?何に備える保険?
法人保険とは、法人(会社)が契約者となって加入する保険の総称です。
特定の商品の名称ではなく、会社が事業上のリスクに備えるために契約する保険をまとめてこう呼びます。
法人保険には、経営者や従業員に万一のことがあったときに備える生命保険と、事業用の建物や設備の損害、従業員の業務中のケガなどに備える損害保険があります。経営者を被保険者とする生命保険は「経営者保険」と呼ばれることもあります。
https://ins.minkabu.jp/columns/rousai-uwanose-basics-260929
生命保険の契約には、契約者・被保険者・受取人の3つの立場があります。法人で契約する生命保険では、次のような形が考えられます。
| 立場 | 役割 | 法人で契約する生命保険の例 |
|---|---|---|
契約者 | 保険会社と契約を結び、保険料を支払う | 法人(会社) |
被保険者 | その人の生死・病気・ケガが保障の対象となる | 経営者・役員、従業員 |
受取人 | 保険金・給付金を受け取る | 法人(会社) |
契約者と被保険者が異なる契約では、被保険者の同意が必要です。
会社が契約者となり、経営者や従業員を被保険者とする場合も、被保険者本人の同意のもとで申し込みます。
公益財団法人生命保険文化センター「生命保険の契約にあたっての手引」
個人で入っている生命保険とは役割が違う
経営者が個人で入っている生命保険とは、保障の目的が違います。個人の保険は家族の生活を守るために、法人で契約する生命保険は会社の事業を続けるために備えます。
| 個人で入る生命保険 | 法人で契約する生命保険 | |
|---|---|---|
契約者 | 個人 | 法人(会社) |
保障の目的 | 遺された家族の生活を守る | 会社の事業を続ける |
保険金の使い道の例 | 生活費、教育費 | 運転資金、借入金の返済、遺族への死亡退職金・弔慰金 |
個人で生命保険に入っていても、会社の資金への備えは別に考えます。
法人保険のメリットは?経営者や従業員の万一に備えられる資金
法人で契約する生命保険のメリットは、経営者や従業員に万一のことがあったときに、事業を続けるための資金や、遺族・従業員への支払いに充てる資金を準備しておけることです。
備えておきたい資金は、主に次のとおりです。
| 備える場面 | 資金の使いみち |
|---|---|
経営者が亡くなった直後 | 従業員の給与や取引先への支払いなど、当面の運転資金 |
借入金が残っている | 金融機関への返済資金 |
経営者が病気やケガで働けない | 治療や療養で不在となる期間の運転資金 |
経営者が亡くなった、または勇退する | 遺族への死亡退職金・弔慰金、勇退時の退職金 |
従業員に万一のことがあった | 遺族への弔慰金、従業員への見舞金 |
1.当面の運転資金に備える
経営者が亡くなった直後の運転資金に備えておくと安心です。売上が落ち込んでも、従業員の給与や取引先への支払い、事務所の家賃は止まりません。
経営者自身が営業や取引先との関係づくりを担っている会社では、不在の影響が売上に表れることが考えられます。新しい体制が整うまでの期間を支える資金があれば、落ち着いて事業の立て直しや事業承継に取り組めます。
2.借入金の返済資金に備える
金融機関からの借入金がある会社は、返済に充てる資金を準備しておくと安心です。
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となることがあります。これを「経営者保証」といいます。
政府広報オンライン「中小企業や小規模事業者のかたへ ご存じですか?『経営者保証』なしで融資を受けられる可能性があります」
経営者が亡くなったあとも、会社の借入金は残ります。返済に充てられる資金があれば、後を継ぐ人の負担を抑えることにつながります。
3.経営者が病気やケガで働けない期間に備える
亡くなった場合だけでなく、病気やケガで働けなくなった場合への備えも準備しておくと安心です。
生命保険には、がん・急性心筋梗塞・脳卒中で所定の状態になった場合に備えるタイプや、病気やケガで働けなくなった場合に備えるタイプがあります。経営者が治療に専念する間の運転資金として役立てられます。
4.経営者の死亡退職金・弔慰金、勇退時の退職金に備える
経営者が亡くなったときに遺族へ支払う死亡退職金や弔慰金の財源も、準備しておくと安心です。
会社を受取人とした契約では、保険金は会社に支払われます。会社はその保険金を、自社の規程にもとづいて、遺族への死亡退職金や弔慰金の支払いに充てます。運転資金や借入金の返済とは別に見込んでおくと、万一のときに必要な金額を整理しやすくなります。
経営者が勇退するときの退職金の支払いに、満期保険金のあるタイプの保険で備える方法もあります。
5.従業員の万一に備える
従業員に万一のことがあったときの弔慰金や見舞金の財源も、準備しておくと安心です。
従業員を被保険者とし、会社を受取人とした契約では、保険金は会社に支払われます。会社はその保険金を、遺族への弔慰金や従業員への見舞金の支払いに充てます。従業員とその家族を支える仕組みを整えることは、福利厚生の充実にもつながります。
なお、従業員を被保険者とする場合は、従業員本人の同意が必要です。
公益財団法人生命保険文化センター「生命保険の契約にあたっての手引」
法人保険のデメリットは?加入前に知っておきたい注意点
法人で契約する生命保険のデメリットは、保険料の支払いが長く続くことと、早い時期に解約すると払い込んだ保険料を下回る場合があることです。
加入前に次の3点を確認しておきましょう。
1.保険料の支払いが続き、資金繰りの負担になる
保険料は、払込期間が終わるまで払い続ける必要があります。
そのため、今の業績だけを前提に保険料を決めると、売上が落ちた年に資金繰りを圧迫する可能性があります。
保険料の払込みができないまま猶予期間を過ぎると、契約は失効し、保険金を受け取れなくなります。
将来の業績の変化も考えたうえで、無理なく払い続けられる金額に設定することが大切です。
2.早い時期に解約すると、払い込んだ保険料を下回る場合がある
契約してから短い期間で解約すると、解約返戻金がまったくないか、あってもごくわずかになる場合があります。
業績が悪化して保険料を払い続けられなくなったときなど、契約の途中で解約しなければならなくなる可能性もあります。
解約すると、その時点で保障もなくなります。途中で解約することにならないよう、保障の内容と保険料が会社に合っているかを契約前に確認しましょう。
3.事業の変化で、保障が合わなくなることがある
加入したときに合っていた保障も、事業の変化によって過不足が生じることがあります。
例えば、「借入金の返済が進んだ」「従業員が増えた」といった変化で、万一のときに必要な金額は変わるためです。
加入して終わりにせず、保障内容を定期的に確認しましょう。
公益財団法人生命保険文化センター「生命保険の契約にあたっての手引」
法人保険の保障額はどう決める?会社に必要な資金から考える
法人で契約する生命保険の保障額は、万一のとき会社に必要な金額から、すでに準備できている資金を差し引いて考えます。
保険料から決めるのではなく、必要な金額を先に整理するのがポイントです。
個人の生命保険でも、必要となる金額から見込まれる収入を差し引き、その不足分を保障額の目安とする考え方が示されています。法人で契約する生命保険も同じ手順で整理できます。
1. 万一のとき会社に必要な金額を書き出す
経営者が亡くなった場合と、病気やケガで働けなくなった場合では、必要な資金が異なります。
場面ごとに分けて、次の表を参考に書き出しましょう。
| 必要な資金 | 主に必要になる場面 | 金額を確認するもの |
|---|---|---|
当面の運転資金 | 経営者が亡くなった場合 働けない場合 | 毎月の給与・家賃などの支払い額 |
借入金の返済 | 経営者が亡くなった場合 | 金融機関の返済予定表 |
死亡退職金・弔慰金 | 経営者が亡くなった場合 | 会社の退職金・弔慰金に関する規程 |
弔慰金・見舞金 | 従業員に万一のことがあった場合 | 会社の慶弔に関する規程 |
運転資金は、毎月かかる固定費に、事業を立て直すまでの見込み期間をかけて考えます。
2. すでに準備できている資金を確認する
会社の預金
すでに加入している保険の保障額
3. 差額を保険で備える金額の目安にする
1から2を差し引いた不足分が、保障額を考える出発点になります。
公益財団法人生命保険文化センター「生命保険の契約にあたっての手引」
まとめ|法人保険は事業を続けるための備え
法人で契約する生命保険は、経営者や従業員に万一のことがあったときに、事業を続けるための資金や、遺族・従業員への支払いに充てる資金を準備しておく保険です。
法人保険は会社が契約者となり、事業のリスクに備える保険である
運転資金や借入金の返済、遺族・従業員への支払いに充てる資金を準備しておける
保険料の支払いが続くこと、早い時期の解約では払い込んだ保険料を下回る場合があることに注意する
保障額は、万一のとき会社に必要な金額から考える
まずは、借入金の残高や毎月の固定費を書き出してみましょう。必要な金額が整理できていると、相談や見積もりの際に、自社に合った保障を検討しやすくなります。
法人保険についてよくある質問
従業員が数人の小さな会社でも法人保険は必要?
会社の規模にかかわらず、経営者が不在になったあとも支払いが残る場合は、備えを準備しておくと安心です。
従業員が数人の会社でも、借入金の返済や給与の支払いは続きます。経営者ひとりが担う役割が大きい会社ほど、不在の影響が大きくなることが考えられます。
法人保険に加入するとき、健康状態の告知は必要?
必要です。会社が契約者となる場合も、被保険者となる経営者や従業員の健康状態などを、事実のとおりに告知します。
事実を告げなかったり、偽りの告知をしたりすると、告知義務違反として契約が解除され、保険金や給付金を受け取れなくなることがあります。
法人保険の保険金は誰が受け取る?
会社を受取人とした契約では、保険金は会社が受け取ります。
受け取った保険金は、運転資金や借入金の返済、遺族への死亡退職金・弔慰金の支払いなどに充てられます。経営者の家族の生活への備えは、個人で入る生命保険で別に準備します。