火災の原因と言えば、タバコの不始末や、ストーブやコンロによる引火などを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
これらはある程度、自分で気をつけることができますが、自分ではどうしようもない火災被害として「放火」による被害があります。
「放火」及び「放火の疑い」による被害は年々減少傾向にあるものの、令和元年では全火災の約12%を占めています。
では、実際に放火による被害に遭ってしまった場合は火災保険で補償されるのでしょうか。
この記事では、放火による被害で火災保険の補償対象になる場合とならない場合、保険金はいくら貰えるかを解説します。
万が一被害に遭ってしまった場合に焦らなくて済むよう「保険金の請求手順」も紹介しているので参考にしていただければ幸いです。
放火による被害は火災保険で補償される
放火による被害は、基本的に火災保険で補償されます。
「契約者または被保険者の故意、重大な過失または法令違反」の場合には補償対象外となってしまう点には注意が必要ですが、「第三者からの放火被害=補償対象」という理解で問題ありません。
補償対象ということは、基本的に「保険金」を受け取ることができるのでご安心ください。
ただし、火災保険の契約内容によって「補償対象になるもの」と「補償範囲」が異なります。
補償範囲は建物と家財が基本
では、放火の被害に遭った場合の補償範囲はどうなるのでしょうか。
「建物」と「家財」は基本的に火災保険で補償されます。しかし、家財に関しては「家財保険」が付帯されていない場合は「補償対象外」となってしまいます。
もし、高価な家電やこだわりの家具をお持ちの方は、万が一に備えて「家財保険」がセットになっている火災保険を選びましょうね。
また、家財には特約事項として盛り込まないと、補償の対象にならないものもあるので注意が必要です。
火災保険の対象にならない家財の代表例としては、以下のような物が挙げられます。
30万円を超える高額な宝石や美術品
自動車や自動二輪
通貨、有価証券、預貯金証書、印紙、切手、クレジットカード、プリペイドカードなど
30万円を超える高額な宝石や美術品はほとんどの保険会社では補償の対象外ですが、「明記物件」として事前に保険会社に申請しておけば、補償を受けられる場合もあります。
隣の家などからのもらい火の場合も補償されるの?
放火とは少し違いますが、近隣の家屋が火事になり「もらい火」による被害を受けてしまった場合はどうなるのでしょうか。
火災保険では、もらい火による被害も補償対象になるため安心してください。
もらい火による被害
加害者がわかっている→加害者への損害賠償請求
加害者不明→火災保険の保険金で対応
放火による被害の保険金はいくらもらえる?
では、放火による被害で保険金はいくらもらえるのでしょうか。
まず、保険金がいくら貰えるのか知るためには以下の2点を抑える必要があります。
火災保険の保険金は2種類ある
- 損害額が基本的に保険金として支払われる
この2点について理解しながら、放火による被害で「保険金はいくらもらえるのか」イメージを掴んでいきましょう。
火災保険の保険金は2種類ある
火災保険には「損害保険金」と「費用保険金」の2種類の保険金があります。
損害保険金 | 保険の対象である「建物」または「家財」が損害を受けた場合に、その損害に対して支払われる保険金。 |
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具体例 | 冷蔵庫や洗濯機などの家電が壊れてしまった場合の損害など |
費用保険金 | 「建物」や「家財」の損害のほかに、様々な費用が必要となった場合、その費用に対して支払われる保険金。 |
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具体例 | 建物や家財の焼け残りや瓦礫などの残存物を片付けるための費用など |
損害額が基本的に保険金として支払われる
放火による被害に遭ってしまった場合、支払われる損害保険金は「放火による火災で被害を受けた損害を補填できる金額」が支払われます。
仮に放火によって家が全焼した場合は、同等の建物を再築するのに必要な金額が支払われます。
また、家財も補償の対象に含めていれば、火事によって焼失した家財を再購入するのに必要な金額の保険金も補償されます。
以下は、放火による損害保険金の支払い例です。(※当社調べ)
被害 | 放火による外壁、窓、倉庫の被害 |
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内訳 |
外壁材の張替え1面(30平米):42万円 窓枠サッシ、ガラス交換:3万5,000円 屋外倉庫交換:8万4,000円 残存物片付け費用(倉庫、サッシ):2万円 |
放火による損害保険金例 | 559,000円 |
※当社調べ
このように、火災保険に入っておくことで、放火被害の損害を補填できる金額が支払われ、「自己負担分」をかなり減らすことができます。ただし、目安の金額は「被害内容と被害金額」に依存してしまうので一概に「いくら程度」ということはできません。
放火であっても補償されないケース【実例付き】
放火は基本的には火災保険の補償対象になりますが、放火であっても補償の対象にならないケースがあります。
第三者(家族を含む)と口裏合わせをして放火を頼んだ場合
空き家を放置していた場合
この章では、放火であっても補償されないケースを実例つきで解説していきます。
第三者(家族を含む)と口裏合わせをして放火を頼んだ場合
契約者が直接放火を起こした訳ではないが、家族を含む第三者に口裏合わせをして放火を頼んだ場合は、補償金を受け取ることはできません。
具体例
保険金目当てで、友人に放火を依頼
→ 友人により放火され家が全焼
→ 警察の捜査により共謀であること認定され、保険料が支払われない
「放火被害で保険金が支払われなかった判例」では実際に合った類似事例として、工場経営者と向上職員による共謀で起きた放火事例を解説しています。
空き家を放置していた場合
一般的に、放火による火災を予測できる状態なのにも関わらず、その状態を明らかに放置した場合は火災保険で補償されない可能性が高いです。
そのため、多くの損保会社の火災保険では、空き家は火災保険に加入できません。
しかし、火災保険会社は住民票などをチェックしているわけではないため、保険会社に空き家になっていることを知らせずに継続して保険料の支払いができてしまいます。
空き家であることを保険会社に通知せずに放火が起きた場合、保険会社の現地調査により空き家であると認められてしまうと保険料が支払われません。
具体例
空き家になったことを保険会社に通知せずに火災保険を継続
→ 放火による被害に遭う
→ 保険会社の現地調査により空き家であると認定さて保険料が支払われない
放火被害で保険金が支払われなかった判例
ここでは、実際の放火被害で保険金が支払われなかった判例を紹介します。
現場から時限発火装置が見つかった事例
保険契約者の請求 | 木造2階建ての建物と、建物内の家財道具一式が火災により全焼し、保険契約者が保険会社に対し2,000万円の支払いを請求。 |
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なぜ支払われなかったのか | 警察の捜査により、建物と家財道具一式は,台所食卓付近に設置された時限発火装置により出火し、他に設置されていた時限発火装置や延焼装置の一部も延焼して発生した火災であると発覚。 保険契約者自らの放火であると認定されたため、保険金が支払われなかった。 |
工場職員による共謀が発覚した事例
保険契約者の請求 | 工場の倉庫から出火し工場・事務所建物およびその内部に置かれていた商品、什器等が消失した事故について、保険金約2億7183万円を請求。 |
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なぜ支払われなかったのか | 火災前の契約者の不審な行動や、契約者の累積赤字による経営破綻の状態、過去に3回保険金の支払を受け、うち1回は保険契約において虚偽の申告をしていた事実など 間接事実を総合考慮し契約者による故意の放火であると認定され保険金が支払われなかった。 |
放火されてしまった場合の保険金請求手順
最後に放火による被害に遭った場合の保険金請求手順を解説します。主な流れは以下の4ステップです。
放火による被害を受けたことを保険会社へ連絡
保険金請求に必要な書類を提出する
保険会社が現地調査&審査する
審査が通れば保険金を受け取ることができる
各項目の注意点についても解説していきます。
放火による被害を受けたことを保険会社へ連絡
保険会社へ連絡する際の注意点・コツは、被害内容をなるべく具体的に伝えることです。
何が
どれくらいの被害を受けて
どんな状況なのか
上記3点を明確に伝えるようにしましょう。具体的な被害を伝えることで保険会社も今後どのように対応すればいいのか把握しやすくなるからです。
保険金請求に必要な書類を提出する
保険会社から「保険金請求書」などの必要書類が送られてくるので、漏れが無いように記入しましょう。
焦って記入して記入漏れがあると保険金の支払いまで時間がかかってしまう可能性があるので、不備のないようダブルチェックを行うことをおすすめします。
保険会社が現地調査&審査する
被害の状況などに応じて保険会社が、原因や損害の確認を行うために現地調査に来る場合があります。その際は、必要に応じ現地調査に協力しましょう。
現地調査が終わると保険会社にて審査が始まります。この工程は、保険会社側の作業になるので注意事項はありません。
審査が通れば保険金を受け取ることができる
あとは、保険金が支払われて無事完了です。おおまかな流れはイメージできたでしょうか?
まとめ
今回は放火による被害は火災保険で補えるのかを解説しました。記事を読むにつれ「今の補償内容で本当に大丈夫かな」と不安に思った方もいるのではないでしょうか。
こうした不安を先延ばしにしてしまうと、いざ被害に遭ってしまった場合大きな後悔をすることになりかねません。火災保険の見直しについてもしっかり考えておきましょう。