生命保険、中でも死亡保険においては、受取人を指定しておく必要があります。
しかし、受取人を決める際にはいくつか考慮すべきポイントがあります。場合によっては、残せる保険金の金額が大きく変わってしまうかもしれません。
この記事では、受取人に関する気になる点についてわかりやすく解説していきます。
生命保険では受取人を決める必要がある
生命保険、とくに死亡保険においては、保険金の受取人をあらかじめ決めておくのがおすすめです。
まずは、生命保険における受取人とはなにか、なぜ受取人を指定しておくべきなのかについて確認しましょう。
受取人とは保険金を受け取る人のこと
生命保険における受取人とは、保険会社から支払われる保険金を受け取る人のことを指します。
死亡保険においては、補償の対象となる人が亡くなった際に保険金が支払われます。ただし、被保険者は死亡してしまっているため、本人が保険金を受け取ることはできません。
したがって、代わりに誰かが受け取る必要があります。代わりに保険金を受け取る人のことを「受取人」といいます。
契約者、被保険者、受取人の違い
受取人を誰にするかを考えるにあたって、契約者や被保険者、受取人の違いを一旦整理しておきましょう。誰がどのポジションに該当するかをきちんと把握しないと、受取人を決める際にややこしく感じてしまうかもしれません。
- 契約者
保険会社と契約を結び、契約内容の決定や変更、保険料の支払いをする人
被保険者
保証の対象となる人
- 受取人
保険金を実際に受け取る人
契約の仕方によって異なりますが、契約者と被保険者は同じ人であるとは限りません。また被保険者や受取人を誰にするかは、契約者が指定できます。
受取人を決めないとトラブルに繋がる可能性がある
そもそも、なぜ受取人を決めたほうがいいのでしょうか。その理由は、保険金や相続をめぐるトラブルを回避するためです。
家族や子に残す遺産をどのように分配するか、誰に残したいかは人それぞれです。希望通りにお金を残すためには、受取人をきちんと決めておく必要があります。
残された家族の間で大きな不平等が発生すると、揉め事のきっかけになることも。そのようなトラブルを回避するためにも、受取人を決めておくのがおすすめです。
死亡保険金には税金がかかる
被保険者が亡くなった際にお金がもらえる死亡保険。その保険金には、実は税金がかかります。
生命保険で受け取れるお金すべてに税金がかかるわけではありません。受取人の決め方についてご紹介する前に、課税対象となるお金について整理しておきましょう。
給付金は非課税
生命保険でもらえるお金のうち「給付金」は課税されません。給付金に分類されるのは、受け取っても保険契約が終了することなく、継続して保障の対象となるお金です。
給付金の例として、医療保険やがん保険における「入院給付金」「手術給付金」といったものが挙げられます。
保険金や解約返戻金、年金などは課税対象
一方で、死亡保険金や解約返戻金、個人年金などは課税対象となります。
死亡保険金や満期保険金のように「保険会社から支払われることで契約が終了するお金」に関しては、課税対象となるケースが一般的です。また解約返戻金や個人年金といった「保険料で積み立てていたお金」に関しても、税金の支払い義務が発生します。
給付金のように税金を支払わずにいると、税務署からペナルティが課せられてしまうことも。課税されるお金については、事前にきちんと把握しておきましょう。
課税対象になるもの | 課税対象にならないもの |
---|---|
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受取人によって税金の種類が変わる
保険金にかかる税金の種類は、保険金の受取人を誰にするかによって異なります。
どんなケースでどのような税金がかかるのか、具体的な計算方法もあわせて解説していきます。
死亡保険金にかかる税金
- 所得税:契約者と受取人が同じ
- 相続税:契約者と被保険者が同じで、受取人のみ違う場合
- 贈与税:契約者や被保険者、受取人がすべて異なる
相続税:契約者と被保険者が同じ
契約者と被保険者が同一人物であり、受取人が別の人の場合、相続税の対象となります。自身の生命保険を契約した人が亡くなり、残された人に死亡保険金が支払われるパターンが該当します。
通常であれば、受け取った金額にそのまま相続税がかかります。しかし、法定相続人が死亡保険金を受け取った場合は、法定相続人の人数×500万円の非課税限度枠が用意されています。
さらに、相続税においては基礎控除として「3,000万円 +600万円 × 法定相続人数」の金額を相続財産から差し引くことが出来る非課税枠があります。
そのため、相続税の課税価格が基礎控除の範囲内に収まってる場合は、相続税はかかりません。
所得税:契約者と受取人が同じ
契約者と受取人が同じ場合、保険金などは所得税の対象となります。「夫が契約者かつ受取人、妻や子供が被保険者」のように、契約した人と被保険者が違う人であるケースが該当します。
所得税として支払う金額の計算方法は2ステップです。まずは、課税の対象となる金額を求めます。
一度に受け取る場合は「一時所得」に該当し、以下の式で計算可能です。
※特別控除額は最大で50万円です。一時所得の金額から経費を差し引いた金額が50万円未満であれば所得税は課税されません。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
一方、年金として受け取る場合は「雑所得」になります。(契約者と受取人が同じ場合)
雑所得=総収入額-必要経費
(必要経費=その年の年金受け取り額×(払込保険料の総額/年金総支給見込み額)
次に、実際の支払額を計算します。それぞれの課税所得に対し、給与など他の所得を合算し、金額に応じた所得税率を適用することで、実際の金額がわかります。
贈与税:契約者や被保険者、受取人がすべて異なる
契約者、被保険者、受取人がすべて異なる場合は、贈与税の対象となります。
贈与税の場合、以下の手順で計算を行います。
- その年の1月1日から12月31日までの1年間の贈与によりもらった財産の価額を合計する
- その合計額から基礎控除額110万円を差し引く
- その差し引いた金額を下記の表に基づき贈与税を計算する。
(贈与税は、贈与者と受贈者の関係および年齢により税率が異なります。また、贈与税の制度は複数存在するため、すべてが上記の通りに金額を求められるとは限りません。)
※税率と控除額は国税庁のHPにあります。
死亡保険金の他にも資産を受け取った場合、保険金と合計した金額から110万円を差し引く必要があります。もし保険金や財産の合計金額が110万円を下回る場合、贈与税はかかりません。
もっとも税金がかからないのは相続税
上記3つのケースにおいて、支払う税金額を最も効果的に抑えられるのは「相続税のパターン」となります。生命保険の非課税控除枠に加え、相続税の基礎控除も適用されるため、他の2パターンに比べて税金が安くなりやすいです。
それぞれのパターンにおける税金の算出方法を知っておけば、誰にいくらの保険金を残すかがより具体的になりますね。受取人を決める際の判断基準として活用しましょう。
生命保険の受取人に指定できる人の範囲
生命保険の保険金が支払われる際、大きな金額が受取人の手に渡ることになります。そのため、受取人を誰にするかは非常に重要です。
基本的には、家族や親族が受取人として選ばれます。しかし場合によっては、それ以外の人を受取人に指定することも可能です。
ここからは、生命保険の受取人に指定できる人の範囲について解説していきます。
通常は配偶者や二親等内の血族
一般的に、受取人に指定できるのは二親等内の血族までの範囲となります。
- 戸籍上の配偶者
- 一親等(親や子)
- 二親等(祖父母、兄弟、姉妹、孫)
二親等までの範囲に該当しない親族や他人は、基本的に受取人に指定することはできません。
子供の年齢に制限はない
生命保険の受取人として子供を指定する際、年齢に制限はありません。子供が何歳であっても、受取人として指定することができます。
ただし未成年の子供が受取人となった場合、保険金の受け取りには親権者(親権者がいない場合は未成年後見人)による手続きが必要になります。
受取人は複数人指定できる
ひとりだけに保険金を渡すのではなく、受取人を複数人指定することも可能です。したがって、保険金を残された家族に分けて残せます。
例えば、子供が複数いる場合、それぞれに一定の割合で保険金を受け取らせるよう指定することも可能。分配割合は契約者が自由に決定でき、家族のニーズに合わせて設定できます。
生命保険の受取人がいない場合は?
生命保険を契約する人の中には、受取人として指定できる家族がいないケースも起こりうるでしょう。その場合、家族以外の人を受取人にすることも可能です。
内縁関係のパートナーを指定できる
すでに2人で生活している根拠を保険会社に提示できれば、内縁関係のパートナーを受取人として指定できます。
保険会社によって審査の内容や厳しさは異なりますが、一般的には
- 戸籍抄本の写し
- 住民票の写し(一定期間以上の生活を共にしていたことがわかるもの)
- 健康保険の扶養に入っていると証明できる書類
があれば、パートナーを受取人に指定できることがあります。どのような条件や証明方法が指定されているか、あらかじめ保険会社に確認しておきましょう。
同性パートナーも受取人にできる
最近では、同性パートナーを受取人に指定できる保険会社も増えてきています。
渋谷区で「同性婚に証明書を発行する条例」が制定されたこともあり、同性パートナーに対する理解が深まってきてると言えますね。
同性パートナーを受取人に指定したい場合、主に次のような書類が必要になります。
- 「パートナーシップの証明書類」
- それ以外の自治体に住んでいる場合は「任意後見契約の公正証書」もしくは「生活、療養看護および財産の管理に関する事務を援助する旨の合意契約の公正証書」(正本または謄本)
家族や婚約者を受取人にする場合よりも、書類の準備に少々手間がかかります。同性のパートナーに保険金を残したいと考えている方は、早めに保険会社に確認してみましょう。
特別縁故者や成年後見人を受取人に指定できることも
婚約者やパートナーがいない場合、特別縁故者や成年後見人を受取人に指定することも可能です。
- 特別縁故者:被保険者と同じ生計で生活し、被保険者の療養や看護をしたり、特別な縁故がある者
- 成年後見人:認知症などにより自力で判断できない人に対し、身の回りの世話をしたり、代わりに同意や判断をする人
もし家族がいなくても、お世話になった人に対し保険金を残せますね。
特別縁故者や成年後見人になるには、所定の手続きが必要になります。そのため、保険金が発生する前に手続きをしておくのが重要です。
生命保険の受取人は変更できる
生命保険の受取人は、契約後も柔軟に変更できます。ライフステージや家族の状況に応じて生命保険の受取人を見直すのが重要です。
ここからは、生命保険の受取人を変更するべきタイミングや手続きの手順、必要書類についてご紹介します。
生命保険の受取人を変更すべきタイミング
- 被保険者が結婚した
- 被保険者が離婚した
- 受取人が先に亡くなった
結婚した
生命保険の受取人を変更すべきタイミングは、ライフステージや家庭状況によって異なります。具体的には、次の3つのタイミングにおいて受取人を見直すのがおすすめです。
被保険者が結婚した場合、受取人を配偶者に変更する方が多いです。
結婚のタイミングで配偶者を保険の受取人に加えることで、新しい家族が経済的サポートを受けられるようになります。もし生命保険に加入している場合は、結婚して家族が増えたタイミングできちんと受取人を確認しておきましょう。
離婚した
逆に被保険者が離婚した場合も、受取人を見直すのがおすすめです。元配偶者を受取人から除外し、家族の状況に合わせて受取人を再検討する必要があります。
離婚していたとしても、受取人が元配偶者である場合、被保険者が亡くなったら保険金はそのまま元配偶者に支払われます。保険金を渡すかどうかは元配偶者との関係にもよりますので、自身の家族とどちらを優先すべきか考えてみましょう。
受取人が先に亡くなった
元々指定されていた受取人が亡くなった場合、新しい受取人を指定するのがおすすめです。
受取人が亡くなってしまった状態で死亡保険金が支払われる場合、法定相続人に対して支払われることになります。その際、分配割合も自動的に決まってしまうため、場合によっては思わぬ不公平が発生してしまうことも。
相続においては、残された家族の間で納得のいく分配方法を決めておくのが大切です。そのため、受け取り人が先に亡くなってしまった場合は、誰にどれぐらいの金額を残すのか再度検討してみましょう。
生命保険の受取人を変更する方法
生命保険の受取人を変更する際、一般的に次のような手順が必要になります。
- 証券番号の確認:保険証券に書かれている証券番号を確認
- 保険会社への連絡:保険会社に連絡を入れ、受取人変更の意向を伝える
- 書類の記入と提出:保険会社から送られてくる書類に必要事項を記入し、提出
- 保険会社による確認:提出した書類を保険会社が確認し、問題がなければ変更完了
提出書類に不備があった場合、手続きの完了まで時間がかかってしまいます。ミスの無いよう、丁寧に手続きを進めましょう。
生命保険の受取人を変更する際の必要書類
生命保険の受取人を変更する際には、主に以下の書類が必要です。
- 保険会社から送られてくる書類
- 本人確認書類: マイナンバーカードや運転免許証、健康保険証など
詳しい手続き方法や必要書類は保険会社によって異なる可能性があります。詳しくは保険会社のプラン内容や規約をご確認ください。
遺言で受取人を変更することもできる
もし手続きが間に合わなくても、法的に有効な遺言があれば受取人を変更できます。
法的に有効な遺言とは、次の条件を満たしたものです。
- 遺言者本人が、遺言の全文、作成日時、氏名を自分で書き、押印しているもの
- 書き間違えた箇所や追記した部分に押印してあるもの
手続きを進めるのが難しい場合、遺言として残せるよう事前に準備しておきましょう。
生命保険の受取人に関するトラブルの例
生命保険の保険金は、想定以上に高額になるケースも少なくありません。そのようなお金をめぐり、残された人同士でトラブルに発展してしまう可能性もあります。
生命保険の受取人に関してどのようなトラブルが考えられるか、事前に把握しておくことが大切です。
今回ご紹介するのは、以下の3つのパターンです。
- 相続人の間で不公平が発生する
- 保険金に課税されることを知らないまま受取人を決める
- 保険金は遺産分割の対象だと誤解される
相続人の間で不公平が発生する
保険金や遺産の分配方法により、相続する人の間で過度な不公平が発生してしまうと、相続人の間でトラブルになる可能性が高くなります。
受取人を指定しなかった場合、法定相続人に保険金が支払われます。その際、分配割合も自動的に決まってしまいます。その結果、すでに遺産を多めに相続する人に対し、保険金も多く支払われてしまうかもしれません。
また受取人を指定したとしても、相続する人たちが納得しているかどうかも大切です。保険金を誰にどれぐらい残すのか、あらかじめ話し合っておくのもおすすめですね。
保険金に課税されることを知らないまま受取人を決める
この記事でも解説してきた通り、生命保険の保険金には税金がかかります。そのことを知らないと、いざ保険金を受け取る時に「もらえる金額が想定よりも少ない」と感じてしまうかもしれません。
保険金の受け取り方によっては、控除の対象となります。特に契約者と被保険者が同じ「相続税」に該当するパターンにおいては、支払う税金が最も少なくなる可能性が高いです。
とはいえ、控除額を上回った分は課税対象となり、税金を支払わなければいけません。税金分を差し引いた結果いくらぐらい受取人に残るのか、きちんと確認しておきましょう。
保険金は遺産分割の対象だと誤解される
生命保険の保険金は、遺産分割の対象とはなりません。
通常の遺産であれば、法定相続人が相続財産をどう分配するか決めることができます。しかし、保険金に関しては遺産分割の対象外です。そのため、受取人がもらった保険金は他の相続人と分配する対象になりません。
そのため、相続人の間で思わぬ不平等が生まれ、トラブルのもとになってしまいます。
誰にいくら残すのか、できる限り明確にしておくのがおすすめですね。
まとめ
- 生命保険の受取人を決めるべき理由
- 受取人によって変わる税金の種類
- 受取人に指定できる人の範囲
- 受取人にまつわるトラブル
この記事では、上記について解説してきました。トラブルなくスムーズに保険金を残せるよう、受取人について早めに考えてみましょう。
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受取人や生命保険に関する悩みごとがあったら、ぜひお気軽に利用してみてください。