水災は年々増加傾向にあり、火災保険において水災補償は必須になりつつあります。
実際、国土交通省の豪雨災害をはじめとした水災(土砂災害)の件数報告には以下のように記されています。
43道府県で1,471件の土砂災害が発生し、死者8名、人家被害262戸の被害が生じた。
統計開始以降(S57~)の平均発生件数(1,099件)および直近10年(H25-R4)の平均発生件数(1,446件)を上回った。
国土交通省:令和5年は過去平均を上回る土砂災害が発生~令和5年の土砂災害発生件数を公表
そこで、本記事では、水災補償の必要性や補償範囲、補償される金額の目安を分かりやすく解説します。
- 水災とは台風・豪雨が原因の洪水、高潮、土砂崩れなどの総称
- 地震が原因のもの、水漏れとは扱いが異なるので要注意
- 水災補償は近年の気候変動や災害リスクを考えると必要性が高い
- 水災補償では被害の大きさに応じて「保険金額」を上限に支払われる
- 水災を受けた際には被災者生活再建支援制度(公的制度)の活用もできる
火災保険における水災とは?
水災とは、台風や暴風雨等によって起こる洪水、高潮、土砂崩れなどの水による災害のこと。床上浸水、床下浸水も水災のひとつです。
【水災の例】
建物への直接的な被害
床上浸水・床下浸水: 豪雨や高潮などにより、建物内部が水没し、床や壁、天井が損傷する。
土砂崩れによる損壊: 土砂が建物に直接衝突したり、建物が土砂に埋もれたりして、構造部分が損壊する。
高潮による塩害: 海水による浸水で、建物の構造材が腐食したり、内装が損傷する。
家財への被害
家具・家電製品の水没: 床上浸水により、家具や家電製品が水没し、使用できなくなる。
衣類・布団などの汚損: 水に濡れた衣類や布団は、カビが生えたり、悪臭がしたりして、廃棄せざるを得ない場合もある。
また、日本における自然災害のリスクが高まっていることも念頭におかなければいけません。日本の年平均気温は、100年あたり1.19℃の割合で上昇しており、猛烈な雨(1時間降水量80mm以上の雨)の年間発生回数も増加しています。
地球温暖化の進行に伴って、大雨や短時間に降る強い雨の頻度はさらに増加すると予測されているため、水災補償の重要度は今後さらに高まっていくでしょう。
ただ、水災補償が重要といわれても、どれくらいの被害が起きる可能性があり、火災保険に入っているとどこまで補償されるのか分からないと、
とは思えませんよね。補償を手厚くすれば、その分、保険料も高くなってしまうため、判断に慎重になるのも無理ありません。
ここからは、具体的な水災の種類と被害例を紹介します。
水災の例|被害額はいくらくらいになる?
①洪水による被害
洪水が原因による、建物や家財の被害の例と被害額の目安を記載します。
被害例
台風による洪水が発生し、床上浸水の被害を受けてしまった。
床上浸水が発生した際、一部の家電製品、家具などが使えなくなってしまった。
被害額例
108万円(床上浸水復旧費:60万円 + 家電製品等48万円)
また、洪水による床下浸水は補償の対象外となるケースがあるので注意が必要です。
床下でも地盤面から45cm以上浸水している場合や、再調達価額の30%以上の損害となった場合は補償の対象となりますが、それ以外の床下浸水は補償の対象外となります。
火災保険の補償対象外になってしまう被害例
豪雨による床下浸水の被害を受けたが、被害額が再調達価額の20%かつ、地盤面から30cmしか浸水していなかった場合
②高潮による被害
高潮が原因による、建物や家財の被害の例と被害額の目安を記載します。
被害例
高潮により浸水被害があり、建物が被害を受けてしまった。
1階にある全ての家具、家電が被害を受けてしまった。
被害額例
580万円(建物被害:80万円 + 家財被害:500万円)
注意点として、地震による津波で被害を受けた場合は水害ではなく地震による被害となるため、火災保険の対象外となります。地震が原因の場合は、地震保険によって補償されます。
https://ins.minkabu.jp/columns/fire-earthquake-set-220728
③土砂崩れによる被害
土砂崩れが原因による、建物や家財の被害の例と被害額の目安を記載します。
被害例
土砂崩れに巻き込まれてしまい、建物の4割が倒壊してしまった。
一部の家具、家電が被害を受けてしまった。
被害額例
1,300万円(建物被害:1,000万円 + 家財被害:300万円)
火災保険に水災補償は必要?それともいらない?
近年の異常気象や豪雨災害の増加を加味すると、水災補償の必要性は高いといえます。
特に、以下のような「水災リスクが高い地域」に住んでいる方は水災補償を付けておくことをおすすめします。
地形的な特徴
低地や河川、海岸線に近い地域: 海抜が低く、河川からの氾濫や高潮の影響を受けやすいです。
谷底や扇状地: 集中豪雨などにより、短時間で大量の水が流れ込み、浸水しやすい地形です。
埋立地: 地盤が弱く、液状化や浸水の危険性が高いです。
斜面地: 土砂崩れやがけ崩れの危険性があり、土砂が河川をせき止め、新たな水害を引き起こす可能性があります。
気象条件
集中豪雨や台風が頻発する地域: 短時間で大雨が降ることで、河川が氾濫しやすくなります。
雪解け水が多い地域: 春先に雪が解けることで河川の水量が増え、氾濫の危険性が高まります。
人工的な要因
都市化が進んでいる地域: コンクリートやアスファルトが増えることで、雨水が浸透しにくくなり、内水氾濫が起こりやすくなります。
下水道の整備が不十分な地域: 雨水が適切に排水されず、浸水につながりやすいです。
堤防などのインフラが老朽化している地域: 洪水を防ぐための施設が老朽化している場合、機能が低下し、水害のリスクが高まります。
水災は被害範囲が広いことも多く、損害額も高額になりやすいため、支払える保険料にゆと
りがあるのであれば、追加しておいたほうが安心できます。
・特定設備水災補償特約
・費用保険金特約
では、火災保険に水災補償をつけると、どこまで補償が受けられるのでしょうか。
火災保険で補償される水災の範囲は?
火災保険の補償対象には、3つの選択肢があります。水災を含め、選んだ補償対象によって、補償される範囲も変わるので覚えておきましょう。
建物のみ:高価な家財が少ない場合におすすめ
家財のみ:賃貸物件におすすめ
建物と家財:持ち家全般におすすめ
基本的に、補償範囲が狭いと、その分保険料は安くなります。一方、補償範囲が狭いと万一の事があった際に十分な保険金が受け取れない可能性が高くなるので注意しましょう。
また基本的に、家財は現金やデジタルデータ、自動車等が補償の対象外になります。
※家財の定義は保険会社によって異なるので各社へ確認は必要です。
https://ins.minkabu.jp/columns/household-goods-insurance-221019
火災保険の水災補償【補償対象になる事例】
水災が火災保険の補償対象になるのは、
再調達価額(立て直しにかかる費用)の30%以上の損害を受けた場合
床上浸水または地盤面から45cmを超えて浸水した場合
のいずれかに当てはまる場合です。
地盤面から45cm以下の床下浸水等のケースは補償の対象外となるので、補償の対象となるケースは被害が一定数大きいものに絞られます。
再調達価額(立て直しにかかる費用)の30%以上の損害を受けた場合
再調達価額(立て直しにかかる費用)の30%以上の損害を受けた場合による、建物や家財の被害の例と被害額の目安を記載します。
被害例
大雨による土砂災害によって、建物に土砂が流れ込み、建物の約40%が被害を受けた
被害額例:建物代金:2,000万円 × 40% = 800万円
床下浸水で再調達価額の30%以上の損害を受けるケースは少ないと考えられますが、水災が原因で建物外に付いている空調設備や充電発電設備等が壊れてしまった場合に備えて「特約」でカバーできるかどうかを確認した方がよいでしょう。
※保険会社によって特約の有無が異なります。
床上浸水または地盤面から45cmを超えて浸水した場合
床上浸水または地盤面から45cmを超えて浸水した場合による、建物や家財の被害の例と被害額の目安を記載します。
被害例
大雨により、近くの川が氾濫して自宅の床上まで浸水してしまった
建物:泥や汚水の除去と床の張替、断熱材の交換、壁紙の張替等が必要になった
家財:家電やソファー等の家具、洋服が被害にあった
被害額例:約700万円
床上浸水になると、建物だけでなく家財への被害も出ます。
家財一式を新しく揃えるとなると、金額は思っている以上に高くなってしまいますよね。洗濯機や冷蔵庫、テレビなど高額な大型家電が被害を受けた場合、それだけで数十万円以上の被害になってしまいます。
こうしたケースに備えて、家財補償に入っていると万一の時でも安心です。もし、自分で家財補償にはいるべきかどうか判断できない場合には、無料相談でその悩みを保険のプロに相談してみましょう。
水災で火災保険の対象外になってしまう事例
水が原因であれば、水災の補償の対象となるという認識をお持ちの方もいると思います。
しかし、水災として扱われない被害もあるので注意が必要です。
水災による被害で補償対象外になる4つのケース
地震による津波・土砂崩れ被害
豪雨などが原因の水漏れ被害
経年劣化が主原因と判断される場合
被害発生から3年以上経過している場合
地震による津波・土砂崩れ被害は水災補償の対象外に
津波(高潮)や土砂崩れは大雨だけでなく、地震でも起こります。
地震が原因による損害に関しては、水災の対象外です。主契約である火災保険の補償ではなく、地震保険で補償の適用がされるので注意が必要です。
例
地震が原因の津波によって家屋被害が出た
地震が原因の土砂崩れによって家屋被害が出た
日本は世界でも有数の地震大国。特に戸建てを住居にしている方は、地震保険へも加入しておくことをおすすめします。
集中豪雨などが原因の水漏れ被害
豪雨などが原因で、もともとあった隙間から水漏れ(雨漏れ)した場合は補償の対象となりません。
補足になりますが、強風による屋根の損害や、飛来物による損害が原因で雨漏りが発生した場合は補償の対象となるのでその点はご安心ください。
例
もともとあったすきまに雨水が入り込み、雨漏れが発生した
経年劣化が主原因と判断される場合
経年劣化が原因と判断される場合は、火災保険の補償対象外になります。
火災保険は偶発的に起きた自然災害や事故等によって損害を受けた際に補償される保険であるため、徐々に進行していく経年劣化は補償の対象外になります。
例
経年劣化により床が損傷した
経年劣化により屋根が壊れた
経年劣化してきた箇所があれば、都度直しておくことが望ましいです。
また、経年劣化ではなく、故意ではない事象によって、建物や家財に損害が生じた場合、火災保険が使えることもあります。故障やキズは放置せず、火災保険で直せないか確認する習慣をつけておけるとよいですね。
被害発生から3年以上経過している場合
火災保険には請求期限があります。期間は被害発生から3年以内と定められている所が多いです。
被害があってからは素早く請求することで請求漏れを防ぐことができるでしょう。
※保険会社によって異なります
例
被害に遭ってから5年後に請求をした
保険金の請求手順に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
https://ins.minkabu.jp/columns/fire-insurance-benefits-241225
水災に遭ったら保険金はいくらもらえるの?
水災被害にあった場合、保険金支払例を記載します。
土砂災害によって建物被害があったケース
土砂災害により、建物が被害を受けてしまい、修繕費として「700万円」が必要になった。
保険会社の審査により全額補償を認められた場合は、修繕費全額の700万円が補償されます。
特約として、費用保険金(※1)を付けていた場合は保険金額の10%が追加で受け取ることが出来るので、770万円受け取ることが可能です。
床上浸水で家電等に被害があったケース
川の氾濫によって床上浸水になってしまい、損害を受けた家財一式を買いなおすのに「400万円」が必要になった。
保険会社の審査により全額補償が認められた場合は、修繕費全額の400万円が補償されます。
特約として、費用保険金(※1)を付けていた場合は保険金額の10%が追加で受け取ることが出来るので、440万円受け取ることが可能です。
※1…費用保険金は各保険会社によって上限金額が異なります。
水災の被害を受けたら火災保険だけでなく公的支援制度が使えないかも要チェック
自然災害で家が壊れてしまった場合、国や自治体から様々な支援を受けることができます。主な支援として、以下の2つが挙げられます。
1. 被災者生活再建支援金
どんな人がもらえるの?:家が全壊したり、大きな被害を受けて住めなくなった人
どんなときに使えるの?:家を建て替えたり、修理したりする費用として使えます。
いくらもらえるの?:最大で300万円(単身世帯は4分の3の金額)支給されます。
何に使えるの?:新しい家を建てる費用、今の家を修理する費用、引っ越し費用など、生活を立て直すために必要な費用に使うことができます。
2. 住宅の応急修理
どんな人がもらえるの?:家が少し壊れてしまい、住み続けるために修理が必要な人
どんなときに使えるの?:屋根や壁、窓など、住むために必要な部分を修理する費用として使えます。
いくらもらえるの?:最大で65万5000円まで、修理費用の一部が支給されます。
何に使えるの?:屋根を修理したり、壁に穴があいているところをふさいだりする費用など、住み続けるために必要な修理費用に使うことができます。
どちらの制度を利用できるかは、家の被害状況や世帯構成などによって異なります。また、申請には、罹災証明書が必要になる点も合わせて覚えておきましょう。
火災保険の保険金の請求手順
保険金請求時の流れについては以下の順番で行っていきます。
保険会社への連絡
必要書類の作成
必要書類を保険会社に送付
保険会社が審査・調査を行い支払いの可否を判断
保険金が支払われる
請求する際に必要な書類として以下が挙げられます。
保険金請求書
加入している保険会社から保険金請求をした際に送られて来る請求書のことで、保険の請求を行う時に必要な書類になります。
修理(修繕)見積書
修理(修繕)会社に作成してもらった見積り書のことで、これを元に保険金の支給額が変わってくる可能性があります。
被害状況の写真
罹災証明書(被害の程度を証明するもの)を発行する際に必要になるケースがあります。また、言葉では伝えきれない情報を写真に残す事により、より正確な査定を受けることが出来ます。家の外から・中からをどちらとも撮影し、寄りの写真と引きの写真も取っておくと万全でしょう。
事故内容報告書(事故届書)
事故の概略を記載する書類のことで、保険金請求書と同じく保険会社から送られてくる書類になります。
損害明細書
家財などの損害品等を記載する書類のことで、こちらも保険会社から送られてきます。
罹災証明書
自然災害の場合は自治体、火災の場合は管轄の消防署から取り寄せます。
建物登記簿謄本
法務局や登記所等の出張所から取り寄せます。
印鑑証明書
自治体から取り寄せます。
委任状
保険金の請求を第三者に委任する場合に必要な書類になります。
上記の必要書類を保険会社に送付しなくてはなりませんが、損害の状況等によって必要な書類が異なります。保険会社の方が教えてくれるので、不明点があれば電話で確認した方が良いでしょう。
また、請求時の注意点として以下2点を把握することが必要です。
損害部分を漏れなく写真に収める
必要書類は記入漏れやミスがないように注意
損害部分を漏れなく写真に収める
保険金の請求査定は写真のみで行う場合もあります。
その場合は、提出された写真が大きな情報源になるので、漏れや画像が粗い場合は正確な査定を行えないと考えられます。
損害部分の洗い出しと漏れなく写真を収めることは非常に重要です。また、被害がおきた際の詳しい状況や日時もメモをとっておけるとなおよしです。
必要書類は記入漏れやミスがないように注意
保険金の申請に必要な書類は、不備や誤りがあると迅速に保険金を受け取れなくなってしまいます。
記入ミス・漏れがないようにダブルチェックをすること、わからないことがあれば保険会社に問い合わせをすることをおすすめします。
まとめ
水害被害を受けてしまうと、修繕のために多額のお金が必要になります。
特に夏から秋にかけて、水による災害の数は全国で多く発生するので、火災保険における水災の補償を付けて加入しておくとより安心できます。
ただし、補償を付けることで保険料はもちろん高くなってしまうので、お住まいの住所のハザードマップを確認し、水災の補償は必要かどうかの見極めは非常に重要となります。
また、商品によっては水災の補償を外せない商品も存在するので、各保険会社の比較は火災保険を加入するにあたって必須条件となります。
ただし、何社もある保険会社の見積もりを1社ずつ取っていくには、時間と労力が相当かかります。みんかぶ保険であれば、複数社の見積もりを一括で見積もることが可能です。
ご不明な点や補償内容の変更希望があっても、何度でも無料でご相談いただけます。
火災保険の水災補償に関するよくある質問
水災補償はいらないと言われる理由はなんですか?
マンションの上階であったり、賃貸マンションに住んでいる場合には、水災の被害を受けづらく、必要性は低くなるかもしれません。そのため、水災補償がいらないのではなく、ケースによっては必要性が下がるというのが正確といえます。
水災補償の加入率は何%ですか?
2023年度における火災保険の水災補償付帯率の全国平均は63%と報告されています。