病気やケガに関する保険にはさまざまな種類があります。公的な医療保険と民間の医療保険があり、さらにそれぞれいくつかの種類があるため、混同してしまう方も多いでしょう。
健康保険は、公的医療保険のひとつ。民間の医療保険に加入すべきかを考える上で、健康保険と医療保険の違いについて理解することも重要です。
この記事では、
- それぞれの保険における対象や保障内容
- 健康保険と医療保険の違い
- 医療保険の必要性
についてわかりやすく解説していきます。
健康保険とは?
まずは、健康保険とは何なのかについて確認してみましょう。多くの人が加入しているため、すでに知っている方も多いでしょう。
ですが、医療保険との違いについて考える上で、健康保険の対象範囲や保障内容をきちんと把握しておくのが大切です。
公的医療保険のひとつ
健康保険は、日本における公的医療保険のひとつです。
日本では、全国民がどのような社会的・経済的状況にあっても基本的な医療サービスを受けられるようにする「国民皆保険制度」が導入されています。世界的にも高水準な保険制度であり、健康保険はそのような公的医療保険の一種です。
公的医療保険は主に4種類
公的医療保険は複数あり、職業や年齢によって加入できる保険に違いがあり、公的医療保険の主な4つは以下になります。
- 健康保険:被用者保険のひとつで、特定の民間企業に勤務する人々とその家族が加入する保険。
- 共済保険:被用者保険のひとつで、公務員、教職員などが加入する保険。
- 国民健康保険(地域保険):特定の企業に属さない人々、例えば自営業者、専業主婦、年金受給者、無職者などが加入する保険
- 後期高齢者医療制度:原則75歳以上の人が加入する制度
上記のように、公的医療保険には健康保険以外にもいくつかの種類があり、保障内容や対象が少しずつ異なります。
健康保険は民間企業に勤めるサラリーマンが対象の保険
特定の民間企業に勤める民間企業に勤める役員・従業員とその扶養家族は、自動的に健康保険に加入することになります。
特定の企業に属さない人が加入する国民健康保険と比較して、健康保険は休業時のカバーが手厚く用意されているのが特徴です。このあと詳しく解説しますが、健康保険に加入している人であれば、治療によって働けなくなっても一定の収入が得られます。
一方、対象となる治療を受けた際に支払う「医療費の自己負担割合」は、国民健康保険と同じです。
国民の医療費を大きく抑える
健康保険は、医療費そのものの負担を軽減し、国民の健康を維持することを目的としています。
具体的にどのような保障があるのか、あらためて詳しくチェックしていきましょう。
医療費が3割負担になる
大部分の治療にかかる医療費において、被保険者の自己負担額は3割以下まで抑えられます。そのため、被保険者の経済的な負担が大幅に軽減されています。健康保険において最もメジャーな保障でしょう。
被保険者の自己負担額は、年齢によって異なります。
- 75歳以上:1割(現役並み所得者は3割)
- 70歳から74歳まで:2割(現役並み所得者は3割)
- 6歳以上70歳未満:3割
- 6歳(義務教育就学前)未満:2割
医療機関で保険証を提示するのは、健康保険に加入していることを証明するためです。保険証を提示できないと、全額が自己負担になります。
また健康保険の対象外となる治療や医療行為は、全額自己負担となります。
毎月の医療費に上限が設定される
健康保険に加入している人は、高額療養費制度を利用できます。
健康保険によって医療費が3割程度に抑えられても、治療内容や支払回数によっては医療費による負担が大きくなってしまいますよね。
そこで活躍するのが、高額療養費制度。高額療養費制度は、同一月の医療費の自己負担額が上限額を超えた場合に、超過分の支払いが免除される制度のことです。
もし医療費の支払いが大きくなってしまったとしても、高額療養費制度のおかげで実際の負担額は一定以下に抑えられます。実際の上限額は収入の多さによって変わります。
治療による休業中にお金がもらえる
公的医療保険ならではの保障が、傷病手当金です。
傷病手当金とは、病気やケガで仕事を休む際に、収入の2/3相当の金額が支給される制度です。本来であれば、治療のため仕事ができなくなる分、収入は減少してしまいます。そのような「逸失利益」を補填するために用意されているのが傷病手当金です。
治療で大変な思いをしながら、経済的な不安もどんどん大きくなっていくのはつらいですよね。傷病手当金があるおかげで、治療により専念できるでしょう。
出産費用をカバーできる
健康保険や国民健康保険に加入している人は、出産時に一定のお金を受け取れます。
受給の条件 | 金額 | |
---|---|---|
出産一時金 | 妊娠4カ月目(85日目)以降であること。 正常分娩のほか、帝王切開、流産、早産、死産、人工妊娠中絶を含む |
約50万円 |
出産手当金 | 出産のため会社を休み、事業主から報酬が受けられないとき、出産日以前42日から産後日後56日までの期間 | 報酬の2/3相当額 |
妊娠・出産は病気ではないため、健康保険の適応外となり全額を自己負担しなければなりませんが、上記の条件を満たす場合は受給することが出来るので、安心して出産に臨めそうですね。
その他の保障
健康保険には、ほかにも様々な保障があります。
対象 | 金額 | |
---|---|---|
入院時 食事療養費 |
入院する場合に食事代の自己負担額が抑えられる | 1食あたり〜460円の自己負担額をオーバーした金額 |
入院時 生活療養費 |
65歳以上の人が入院する場合に居住費の自己負担額が抑えられる | 1日あたり〜370円の自己負担額をオーバーした金額 |
埋葬費 | 被保険者やその家族が亡くなった際に埋葬を行った家族 | 5万円 |
このように、健康保険においては「自己負担額が3割」以外にもさまざまなサポートが用意されているのがわかりますね。具体的にどのような保障や制度が利用できるかを理解しておくことで、医療保険との違いがより明確に把握できるでしょう。
医療保険とは?
健康保険の次に、医療保険について詳しく解説していきます。どのような目的で、どのような保障が用意されているかを理解することで、
- 健康保険との違い
- 医療保険に加入すべきかどうか
がわかるようになります。
民間企業による保険
健康保険とは異なり、医療保険を提供しているのは民間企業です。
健康保険をはじめとする公的医療保険は、国や自治体、保険組合によって運営されています。それに対し医療保険は、個々の民間企業がプラン内容を設計し販売する金融商品です。
そのため、毎月の保険料は保険会社に支払い、いざというときには保険会社からお金を受け取ることになります。
医療費の自己負担分をカバーする
医療保険の主な役割は、公的医療保険の対象外である自己負担金額をさらに軽減することです。公的医療保険だけではカバーできない費用の例として、以下が挙げられます。
- 保険適用外の治療費
- 入院中の差額ベッド代
- 入院中の逸失利益
医療保険では上記のような費用を賄えるため、経済的な負担をさらに軽減できます。
入院給付金
入院給付金は、病気やケガで入院した際に、保険会社から受け取れるお金のことです。加入契約時に定めた日額を、入院日数分もらうことができます。
- プライベート空間を確保できる「個室入院」にかかる差額ベッド代
- 働けなくなることで減少する収入
上記のような「公的医療保険だけではカバーできない費用」に対しても、入院給付金でまかなえます。
手術給付金
手術給付金は、治療に必要な手術を受ける際にもらえる、ある程度まとまったお金を指します。
一般的に対象となる手術は以下のどちらかで、どちらが対象かは保険商品によって異なります。
- 公的医療保険の範囲内の約1,000種の手術
- 保険会社が定める88種類の手術
手術給付金の金額は、次のように決められることが多いです。
- 入院給付金日額と手術の種類に応じた給付倍率(10倍、20倍、40倍など)を掛け算して算出される
- 定額(一律10万円など)
先進医療特約
先進医療特約は、公的医療保険の対象外である先進医療にかかる技術料をカバーする特約です。
先進医療は、新しい技術や治療法を用いるため、高額な費用がかかることがあります。しかし、先進医療特約によって医療費の負担を大きく削り、治療の選択肢を増やすことができます。
先進医療技術 | 平均 入院期間 |
年間 実施件数 |
対象となる 病気やケガ |
---|---|---|---|
陽子線治療 | 14.9日 | 1,293件 | がん |
重粒子線治療 | 5.3日 | 562件 | がん |
高周波切除器を用いた 子宮腺筋症核出術 |
9.7日 | 82件 | 子宮腺筋症 |
先進医療技術平均入院期間年間実施件数対象となる病気やケガ陽子線治療14.9日1,293件がん重粒子線治療5.3日562件がん高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術9.7日82件子宮腺筋症
その他の保障
ほかにも、医療保険では以下のような保障が利用できます。
- 通院保障:退院後の通院にかかる費用をカバーする
- 特定(三大)疾病保障特約:がんや心疾患など日本で死亡率の高い疾患を治療する際に、一時金が支払われる
どんな保障や特約をつけられるかは、保険商品によって異なります。そのため、自分にぴったりな保険を選ぶ際は、各社が提供するプランを慎重に比較することが重要です。
医療保険と健康保険の違いを表で比較
健康保険と医療保険それぞれについて解説したところで、あらためて両者の違いを表で確認してみましょう。
健康保険 | 医療保険 | |
---|---|---|
目的 | 国民が医療を受けやすくするため | 公的医療保険の自己負担分をさらに軽減するため |
保険料 | 収入額をもとに決められる | 保険会社や保障内容によって異なる |
主な保障内容 | 医療費の自己負担が3割負担 高額療養費制度 傷病手当金 など |
入院給付金 手術給付金 先進医療特約 など |
加入方法 | 加入方法被用者保険の場合、企業に務める人とその扶養家族は自動的に加入 | 申込み手続きや保険会社での審査が必要 |
それぞれさまざまな保障や制度が用意されていますが、目的の違いを理解すると整理しやすくなるでしょう。健康保険は国民がより医療サービスを利用しやすくするための制度ですが、医療保険は健康保険をさらにサポートするために用意されています。
それぞれの保障の内容や対象について理解できたところで、次に「医療保険の必要性」についても考えてみましょう。
健康保険があれば医療保険はいらない?
健康保険と医療保険の違いについて調べている方の中には「健康保険があるのに医療保険は必要なの?」と疑問に感じている人もいらっしゃるでしょう。
たしかに「健康保険が充実しているから医療保険は必要ない」という意見もよく見かけるでしょう。しかし、本当に医療保険が不要かどうかは、人によって異なります。
健康保険は幅広い医療費を大きく減らしてくれますが、それだけで十分とは限りません。ここからは、医療保険の必要性をどのように判断すればよいのかについて掘り下げていきます。
医療保険の必要性は個人によって異なる
医療保険が必要かどうかは、個々人のライフスタイルや健康状態、貯蓄状況に大きく左右されます。たとえば、病気になりやすい体質の人や貯蓄が少ない人、扶養家族がいる人は医療保険の必要性が高いと言われています。
さらに端的にまとめるならば、個々人が病気やケガのリスクに対してどれだけ不安に感じるかによって、医療保険の必要性が変わります。
明確な正解がないからこそ「医療保険に入るべきか」は多くの方が迷ってしまうトピックですよね。
医療保険に加入すべきか判断する方法
医療保険の必要性を判断するために、以下3つのポイントで多角的に検討するのがおすすめです。
- 医療費の自己負担額をもとに考える
- 預貯金額をもとに考える
- ライフプランをもとに考える
それぞれについて詳しく解説していきます。
医療費の自己負担額をもとに考える
入院や手術が必要になった場合にどのような費用が必要になるか、あらかじめ確認しておくと医療保険の必要性がより明確になります。
公的医療保険だけではカバーできない費用の代表例として「入院中の自己負担額」と「先進医療の技術料」が挙げられます。
たとえば、入院中の自己負担額は1日あたり平均25,800円と言われています。
出典:2022(令和4)年度 生活保障に関する調査《速報版》
また先進医療を受ける際、必要な費用は数百万円にのぼることも珍しくありません。
先進医療技術 | 技術料(1件当たり平均額) |
対象となる病気やケガ |
---|---|---|
陽子線治療 |
2,692,988円 |
がん |
重粒子線治療 |
3,162,781円 |
がん |
高周波切除器を用いた 子宮腺筋症核出術 |
301,951円 | 子宮腺筋症 |
もちろん、すべての人に入院や先進医療が必要になるとは限りません。入院する人も先進医療を受ける人も、実際は限られています。
それでも「もしものときにどれだけの負担が予想されるか」を明確にすることで、医療保険の必要性についてより適切な判断ができるようになるでしょう。
貯金額をもとに考える
個人の貯蓄状況も、医療保険の必要性を判断するうえで重要な要素です。
充分な貯蓄がある場合、医療保険に加入する必要性は低くなります。上記のような自己負担費用を支払ったとしても、どれぐらい負担に感じるかどうかは貯蓄額で大きく変わりますよね。
しかし、貯蓄が限られている、または医療費以外の目的(旅行費、養育費など)で貯蓄している場合、医療保険の必要性が高いでしょう。
ライフプランをもとに考える
個人や家族のライフプランも、医療保険の必要性を判断する際の重要な要素です。
たとえば、以下に当てはまる人は医療保険の必要性が高くなると考えられます。
- 家族が増える予定がある:自分だけでなく家族の生活費も必要になるため
- 子供の教育費が必要になる:医療費以外の出費も大きくなるため
- 老後資金を用意したい:医療費による支払いは抑えておきたいから
医療保険に加入しておくことで、上記のようなライフイベントに伴う経済的なリスクを軽減できそうですね。
医療保険に加入する方法
医療保険に加入することを検討している方に向けて、医療保険に加入するために必要な手続きについても解説していきます。
必要書類
一般的に、医療保険に加入する際には以下のような書類が必要になります。
- 本人確認書類:マイナンバーカードや運転免許証、パスポートなど
- クレジットカードもしくは口座番号:保険料の支払い方法として必要になります
- 健康診断表:一部の保険では、現在の健康状態を示すための健康診断結果が求められる場合があります
必要な書類は保険会社によって異なる場合がありますので、申し込みする際にきちんと確認しておきましょう。
手続きの流れ
医療保険の加入手続きは以下のような流れで進められます。
- 保険会社などに連絡:保険会社や代理店へ電話、もしくはホームページから資料請求。
- 必要事項を記入:保険会社から送られてくる書類に必要事項を記入します。最近ではオンラインでの手続きが可能な場合も多いです。
- 必要書類を提出:記入した書類に加えて、本人確認書類や健康告知書、口座番号などの必要な書類・データを保険会社に送付します。
- 審査を経て契約成立:提出した書類をもとに審査が行われ、問題がなければ加入手続きは完了です。審査にかかる期間は保険会社によって異なりますが、一般的には1〜2週間程度です。
書類や入力データに不備があると、手続きの完了まで時間がかかってしまいます。ミスがないよう丁寧に進めましょう。
まとめ
ここまで、健康保険と医療保険の違いについて解説しながら、医療保険の必要性についてご紹介してきました。
初めて医療保険について検討している方にとっては、医療保険と健康保険の違いについてややこしく感じてしまうかもしれません。それぞれの保険の目的や保障内容を理解し、きちんと区別しておきましょう。
そして医療保険に加入するかどうかについては、様々な角度から検討するのがおすすめです。それでもなかなか決められないという方は、みんかぶ保険の「一括見積もり」を活用してみましょう。
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