医療保険

高額療養費制度とは?制度の内容や受け取れる金額、申請方法について解説

著者:みんかぶ編集室

2023年07月18日 掲載

日本では、対象となる医療費の自己負担額が1〜3割になります。それは医療費による国民の負担を軽減する「公的医療保険」の仕組みが存在するからです。

しかし、それでも何度も治療や入院が必要になり、その分支払う医療費も高額になることで大きな負担を感じている方もいらっしゃるでしょう。

そのような方のために用意されているのが「高額療養費制度」。毎月の医療費には上限額が設けられ、それを超えた分は国が負担してくれる制度です。

今回は、高額療養費制度について

  • どのような制度なのか
  • 具体的に何円受け取ることができるのか
  • どうやって申請すればいいのか

といったよくある疑問について、わかりやすく解説していきます。医療費の負担を軽減するための他の制度や保険についても紹介するので、医療費の支払いでお困りの方はぜひご覧ください。

高額療養費制度とは?

まずは、高額療養費制度の内容や目的について説明していきます。受取可能な金額を具体的に知りたい方は「高額療養費制度でもらえる金額は?」の内容を、申請方法について確認したい人は「高額療養費制度の手続きの流れ」をご覧ください。

高額医療費制度でもらえる金額は?

高額医療費制度の手続きの流れ

高額な医療費をカバーするための制度

高額療養費制度とは、医療費の負担が重くなりすぎるのを防ぐために作られた制度です。

日本では、対象となる総医療費の一部のみを自己負担分とする「国民健康保険制度」が用意されています。ですが、治療回数が重なれば、その分支払う医療費も高額になってしまいます。そのような状況に備えるために作られたのが「高額療養費制度」です。

 医療費が自己負担分の限度額を超えた人が対象

高額療養費制度は、1ヶ月で支払った医療費の合計が、このあと紹介する「上限額」を上回った場合に利用することができます。ひとつの医療機関で支払う医療費が21,000円を超えたものが合算の対象となりますが、70歳以上の場合は金額関係なくすべての医療費を計算に含めることができます。


69歳以下 70歳以上
医療機関Aで支払う医療費 200,000円 100,000円
医療機関Bで支払う医療費 1,500円 150,000円
医療機関Cで支払う医療費 23,000円 3,000円
高額療養費制度の対象金額 223,000円(医療機関Bで支払う医療費は含まれない) 253,000円(すべての医療費を合算)

対象の期間は毎月1日~末日

医療費の計算方法は、毎月の1日から末日までの期間で計算します。支払った時点からの1ヶ月ではないので注意しましょう。

例えば、8月16日に250,000円、同年の9月2日に20,000円の医療費が発生したと仮定します。それぞれの支払日は2週間程度の期間しか空いていませんが、別の月の医療費として計算することになります。

4回目からは限度額がより安くなる

1年以内に4回目の申請をすることになった場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに安くなります。医療費による過度な負担をより軽減できるため、限度額を確認する際は何回目の申請なのかを把握しておくとよいでしょう。

年が切り替わるのは8月1日

対象年の切り替わりタイミングは8月1日となります。例えば、令和5年2月に支払いが発生した場合は令和4年分として、令和5年9月の支払いは令和5年分としてカウントされます。

 高額療養費制度でもらえる金額は?

次に、高額療養費制度を利用することで自己負担額をどれだけ抑えられるか、計算例も合わせてご紹介していきます。

自己負担限度額が何円になるかについては、年齢や収入によって変化します。計算する際は、ご自身の収入額をきちんと把握しておくことが重要です。

69歳以下の場合

まず、69歳以下の所得別区分についてご紹介します。ご自身の毎月の「総支給額(手取り金額)」や、社会保険料の計算を簡単にするために作られた「標準報酬月額」に基づいて区分けされています。

69歳以下の場合の所得区分

例えば、毎月30万円の収入を得ている人が、1ヶ月に30万円の医療費を支払うと仮定します。その場合、当てはまるのは「区分ウ」であり、総医療費は100万円として計算されます。

1,000,000円ー267,000円は733,000円となり、その1%は7,330円。それを80,100円に足したもの、つまり「87,430円」が自己負担額の上限となり、残りの212,570円は国が負担してくれることになります。

医療費の自己負担額

結果的に、高額療養費制度によって、30万円の医療費を87,430円まで抑えることができます。

70歳以上の場合

次に70歳以上について解説していきます。こちらも、収入に応じて区分けされています。

70歳以上の場合の被保険者所得区分

毎月の収入が20万円で、病院での治療費(入院なし)が10万円となった場合、「一般所得者」に該当し、自己負担限度額は18,000円となります。

高額療養費制度を利用する際の注意点

高額療養費制度申請する前の注意点

高額療養費制度を利用する際には、いくつかの注意点があります。申請する前にあらかじめ確認しておきましょう。

 適用できる範囲は「公的医療保険」の対象となる費用のみ

高額療養費制度は、公的医療保険の対象となる費用にのみ適用できます。したがって、入院中の差額ベッド代や保険が適用されない治療など、保険の対象外となる費用に関しては自己負担となります。

医科と歯科、入院と外来は分けて計算(例外あり)

医療費の自己負担分を計算する際、同じ病院でも医科と歯科、入院と外来は分けて計算する必要があります。

たとえば、医科と歯科で支払った医療費の合計が28万円だと仮定します。そのうち歯科での支払いが15,000円の場合、「ひとつの医療機関で支払う医療費が21,000円を超える」という条件を満たしていません。そのため、歯科で支払った分は高額療養費制度の対象外となります。


69歳以下
医科費用 265,000円
歯科費用 15,000円
高額療養費制度の対象金額 265,000円(歯科費用は含まれない)

70歳以上は合算も可能

ただし、例外もあります。70歳以上の方は、医科と歯科、入院と外来は分けずに合計することが可能です。上記の例では、歯科の15,000円も高額療養費制度の対象として、医科と合算して申請することができます。

差額分を受け取れるのは通常3ヶ月後

高額療養費制度の利用を申請する場合、実際に差額分を受け取るのは3ヶ月後となります。そのため、上限額に関係なく、一時的に多額の支払いが発生する可能性もあります。

しかし、金額があまりに高く支払いが難しい場合、事前に申請することで支払い金額を上限以内に抑えることもできます。

高額な支払いが難しい場合は「限度額適用認定証」が必要

あらかじめ自己負担額の上限を超えることが予想されている場合は、所定の手続きを踏むことで上限額までの支払いで済ませることができます。そのためには健康保険組合に先に申請して「限度額適用認定証」を受け取る必要があります。

限度額適用認定証を医療機関の窓口にて保険証と併せて提出すれば、窓口での支払いを上限額まで抑えることが可能に。医療機関での支払いが高額になってしまい、全て支払うのが難しい場合は、限度額適用認定証を準備するのがおすすめです。

高額療養費制度の手続きの流れ

ここからは高額療養費制度の手続きについて解説いたします。制度を利用しようと考えている方は要チェックです。

申請する場合、自身が加入している保険組合によって提出先が異なります。

  • 会社員・週30時間以上のアルバイトやパート→健康保険
  • 自営業や年金受給者→国民健康保険

ご自身の保険証に保険組合の情報が記載されているため、不安な方は一度確認してみてください。

先に自己負担分を支払い、あとで差額を受け取る場合

具体的にどれぐらいの医療費が発生するかわからない、もしくは先に支払っても経済的な余裕がある場合は、先に医療機関で支払いをした後に申請することができます。

「健康保険」と「国民健康保険」どちらにおいても、手続きの流れは同じです。申請時の手続きの流れは

  1. 必要書類を揃える
  2. 健康保険証に記載されている保険組合の窓口に提出する

となります。

必要書類は、

  • 高額療養費支給申請書
  • 本人確認書類(マイナンバーがわかるものと身分証明書の2点)のコピー
  • 医療機関で受け取った領収書のコピー
  • 負傷原因届(ケガによる治療を受けた場合)
  • 被保険者の(非)課税証明書(被保険者の市区町村民税が非課税の場合)

となります。

高額療養費支給申請書について、健康保険に加入している方は協会けんぽのサイトもしくはコンビニのプリントサービスで入手可能です。
また、国民健康保険に加入している場合は、自治体からの郵送や、自治体の専用窓口での申請によって受け取ることができます。

参考:協会けんぽ

2年以内の申請が必要

通常の高額療養費制度の申請期限は「診療日の翌月から2年」となります。期限を過ぎると差額分を受け取ることができないため、忘れず早めに申請するようにしましょう。

 先に差額分の金額を受け取りたい場合

医療費を支払う前にどれぐらいの費用が発生するかがわかっている場合は、事前に申請することで医療機関での支払額を抑えることが可能です。

そのために必要な「限度額適用認定証」を受け取るために必要な手続きも、上記と同様に

  1. 必要書類を揃える
  2. 健康保険証に記載されている保険組合の窓口に提出する

といった流れになります。

申請に必要な書類は

  • 限度額適用認定申請書(社会保険に加入している場合)
  • 健康保険証のコピー
  • 保険限度額適用・標準負担額減額認定申請書(被保険者の市区町村民税が非課税の場合)

加入しているのが国民健康保険の場合、上記に加えて

  • 本人確認書類(マイナンバーがわかるものと身分証明書の2点)のコピー
  • 領収書(非課税世帯において過去1年間の入院日数が90日を超える場合)

となります。

健康保険に加入している方は協会けんぽのサイトからダウンロードできます。国民健康保険に加入している場合は、各自治体の窓口やサイトから入手可能です。

参考:

協会けんぽ

申請後に受け取る限度額適用認定証は、医療機関の窓口で提示することで利用可能です。

70歳以上の一部の人は「高齢受給者証」でOK

通常は事前に申請しなければ限度額適用認定証は利用できませんが、70歳以上の一部の方は限度額適用認定証の発行が不要になります。

先ほどご紹介した収入ごとの区分のうち、「一般」および「現役並みⅢ」の方は、健康保険証と高齢受給者証を医療機関窓口に提示することで、上限額までの支払いで済ませることができます。

限度額適用認定証の有効期間は1年間

限度額適用認定証の利用可能期間は、申請書を受け付けた日の属する月の1日(8月14日に受け付けの場合は8月1日から計算)から最長で1年間となります。期間が過ぎてから利用する場合は再度申請が必要となるので注意しましょう。

高額療養費制度の事前申請が間に合わなかったら?

高額療養費制度の事前申請が間に合わなかった場合

事前に限度額適用認定証を入手することができなかった場合、医療機関での支払いが高額になり、経済的な負担が大きくなってしまいます。その後申請すれば差額が払い戻されるとはいえ、それまで3ヶ月間待つのが厳しい方もいらっしゃるでしょう。

しかし、もし事前の申請が間に合わなくても、窓口での支払額を抑えることができるかもしれません。ここからは、限度額適用認定証が手に入らなかった場合に役立つ制度をふたつご紹介します。

高額医療費貸付制度

高額医療費貸付制度では、医療費として使うことを目的に、無利子で高額療養費支給見込額の一部を借りることができます。たとえば、健康保険に加入している方の場合、高額療養費支給見込額の8割相当までの金額を借りることが可能です。

高額療養費受領委任払制度

本来は高額療養費として後日払い戻される分の金額を、公的医療保険から医療機関に直接支払いを行う制度です。この制度を利用すれば、限度額適用認定証がなくても、医療機関の窓口での支払い額を抑えることができます。

しかし、この制度は「健康保険」に加入している場合は利用できないため注意しましょう。

高額療養費制度のほかにも活用できる制度

高額療養費制度のほかにも、様々な医療費の補助制度があり、状況や治療内容によっては金銭面での負荷をさらに軽減することが可能です。医療費の負担を抑えるために利用可能な他の制度についても、簡単にご紹介していきます。

高額医療・高額介護合算療養費制度

年間の医療費と介護費の合計額が上限額を超えた場合に利用できる制度で、上限を超えた分の差額を受け取ることが可能です。

この記事でメインでご紹介している高額療養費制度を使えば、毎月の医療費には上限額を設けることは可能です。しかし、それでも支払い回数が重なれば、その分負担は大きくなってしまいます。

そのようなケースにおいても、年間の総合計からさらに支払いを抑えることができます。

傷病手当金

会社員や公務員として働いている方は、病気や怪我で働けなくなった時に給与の3分の2を傷病手当金として受け取ることが可能です。

しかし、自営業やフリーランスの方は対象外となってしまいます。

所得税に応じた控除

医療費の自己負担額が10万円(1年間の所得が200万円未満の人は、総所得金額等の5パーセント)を超える場合、差額分が所得税から差し引かれる「医療費控除」が利用できます。

利用するためには医療費領収書を確定申告書に添付する必要があります。また、領収書は自宅で5年間保存しなければなりません。

 所定の条件を満たすことで利用できる制度

そのほかにも、「石綿(アスベスト)による健康被害の救済制度」「医薬品副作用被害救済制度」のように、所定の状態や症状を満たせば利用可能な制度が複数用意されています。

医療費の負担を軽減するために利用可能な公的制度についてさらに詳しく知りたい方は、国立がん研究センター「医療費の負担を軽くする公的制度」をご覧ください。

参考:医療費の負担を軽くする公的制度 

治療費の負担を減らすなら民間の医療保険も要チェック

ここまで、治療費が高額になってしまった際に利用できる公的医療保険の制度についてご紹介してきました。とはいえ、治療や入院の回数が多くなってしまう分、どうしても医療費の負担も大きくなってしまうもの。

さらに入院時の差額ベッド代や食事代、一部の特殊な治療にかかる費用など、公的医療保険の対象外となる費用は全て自分で負担しなければなりません。

そのような負担をもっと減らしたい場合は、民間の医療保険が使えるかどうかを確認してみましょう。民間医療保険に加入すれば、入院や手術の際には一定の金額を受け取ることができ、自己負担費用をさらに大きくカバーすることができます。

しかし、民間の医療保険にはさまざまな種類があり、保障内容や保険料も異なるため、一気に比較するのは大変な作業となります。そこでおすすめなのが、みんかぶ保険の「一括見積もり」。保険のプロに無料で相談することができるため、医療保険の加入や見直しを検討している方はぜひご利用ください。

高額療養費制度についてよくある質問

高額療養費制度とは

高額医療費は申請しなくても戻ってきますか?

企業に所属している会社員のうち、事業主に受領委任している方は、申請せずとも会社から高額療養費制度の支払いが受けられることもあります。そのため、高額療養費制度を利用したい場合は、まずは会社に確認してみるのがおすすめです。

しかし、それ以外の場合は自分で申請しなければ差額分を受け取ることができません。期限内に必ず申請するようにしましょう。

高額医療費の基準はなぜ21000円以上なのでしょうか?

69歳以下の方の場合、高額療養費制度の対象となるのは「ひとつの医療機関での支払いが21,000円を超えたケース」となります。

その理由については具体的に明示されていませんが、国が作った補助制度であるため、財源や年代ごとの医療費データなどをもとに総合的判断によって決められた金額だと考えられます。

 高額療養費制度が廃止されるって本当ですか?

高額療養費制度は、現時点では廃止される予定や計画はありません。

「高額療養費制度が廃止される」というニュースを目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、実際に廃止になったのは「高額医療負担金」であり、別の制度となります。

高額医療負担金の廃止とは、80万円を超える高額な治療に対して費用を補助する制度について、国ではなく自治体負担にしようといった変更のこと。しかし、名前が似ているため「高額療養費の廃止」と勘違いしてしまう方も多いようです。

高額療養費制度は、がんの治療にも適用されますか?

高額療養費制度は、がんの治療時にも利用することが可能です。

しかし、公的医療保険の適用範囲内での治療が対象となります。それ以外の治療を受けた場合、費用は自己負担となってしまうので注意してください。

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みんかぶ編集室

資産形成メディア「みんかぶ」を中心に、金融商品の記事の執筆を行っています。資産運用のトレンド情報や、初心者が楽しく学べるお金の基本コラムなど、資産形成をするすべての人に向けた記事を提供します。

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