医療機関で診察を受けると、領収書とは別に診療明細書が発行されます。そこには、診療にかかる費用やどのような治療を行ったかについて、「保険点数」というものが記載されています。
日常ではあまり使用することのないものですが、実は身につけておくと便利な知識のひとつ。治療や入院の際にあらかじめ費用を予測したり、医療費の不正が行われていないか自分で確認したりすることができるようになります。
今回は
- 保険点数とは何なのか
- 保険点数を元にして医療費の計算方法
- 保険点数を知っておくことのメリット
についてご紹介していきます。
保険点数とは?
保険点数とは、医療費の計算に使われる単位です。具体的には、次の2つの特徴を持っています。
保険点数とは
- 医療行為ごとに決められた価格である
- 1点=10円として計算
それぞれの内容について、詳しく解説していきます。
保険点数は医療行為ごとに決められた価格
保険点数とは「医療機関や保険薬局が行った医療行為や調剤行為に対して、公的医療保険の被保険者が支払う報酬の単位」です。
診察や調剤に必要な費用は、かつては自治体によって異なっていました。しかし、医療費の適正化や公平性を確保するために、医療行為や調剤行為ごとに点数を一律で定めるようになりました。
その際に決められた点数が「保険点数」です。保険点数は、医療行為の難易度や技術、時間、診療内容などに基づいて、厚生労働大臣が定めています。
1点=10円として計算
保険点数は、「1点あたり10円」と定められています。
初診の保険点数は288点ですので、初診にかかる実際の料金は2,880円となります。
しかし、初診にかかる費用は公的医療保険の対象となるため、実際に窓口で2,880円支払うわけではありません。そこから、公的医療保険によって定められている自己負担割合に応じて費用が割引されます。
保険点数は大きく2種類に分けられる
保険点数は「基本診療料」と「特掲診療料」の2種類に大きく分けられます。それぞれの内容について理解しておくことで、自分で保険点数を調べる際に役立ちます。
診察を受けたときに発生する「基本診療料」
「基本診療料」は、一般的な医療行為に対して定められた保険点数です。診察や簡単な検査、処置などの費用が該当します。
メジャーなものとしては、初診料(288点)や、再診料(73点)があります。このふたつは、医療機関での受診そのものにかかる費用です。
また、入院時の基本的な看護や医学管理にかかる費用である「入院基本料」も、基本診療料のひとつ。さらには、集中治療やリハビリについても、基本診療料に該当すると定められています。
特定の医療行為を行った際に発生する「特掲診療料」
一方で「特掲診療料」は、特定の医療行為に対して定められた保険点数です。
特掲診療料に該当する例
- 特殊な疾患に対する診療
- 在宅医療
- 特殊な検査
- 投薬
実際の治療内容に応じて、基本診療料に上乗せして請求されます。
保険点数はどこで確認できる?
実際の保険点数については、ご自身で確認できます。確認する方法は次の2種類です。
- 厚生労働省が公開している診療報酬点数表
- 診療ごとの保険点数を検索できるサイト
厚生労働省が公開している診療報酬点数表
最も信頼できる情報として、厚生労働省が保険点数について記載されている「診療報酬点数表」をオンラインで公開しています。
実際に確認してみたい方は「令和4年度診療報酬改定について」から閲覧が可能です。「診療報酬の算定方法の一部を改正する件」に記載されている「別表第一」をご確認ください。
参考:別表第一
診療ごとの保険点数を検索できるサイト
公式の情報については厚生労働省のサイトから確認できますが、実際の医療行為について素早く探すのは難しいかもしれません。
特定の医療行為の保険点数を簡単に調べたい方は、医療行為ごとに保険点数を検索できるサイトを活用するのがおすすめです。
ただし、保険点数は定期的に更新されます。最新かつ信頼性が最も高い情報を知りたい方は、厚生労働省のサイトから確認するのがベストでしょう。
保険点数から自己負担額を計算する方法
保険点数を確認すれば、実際に支払う金額を予測できるようになります。ここからは、保険点数から実際の自己負担額を計算するためのステップについて具体的に解説していきます。
あらかじめ必要な医療費を自力で計算できれば、大掛かりな治療が必要になったときでも経済的に備えられそうですね。
ここからは、例として「胃カメラ検査(胃内視鏡検査)」の自己負担額を算出してみましょう。
該当する医療行為の保険点数を調べる
まずは自己負担額を計算したい医療行為の保険点数について調べましょう。「保険点数はどこで確認できる?」でお伝えしたサイトから、該当する医療行為の保険点数を確認します。
今回取り上げている「胃カメラ検査」の場合、「生体検査料」のなかの「内視鏡検査」に点数が記載されています。内視鏡検査は部位によって保険点数が異なりますが、胃の場合は「1,140点」です。
医療費の総額を算出
保険点数が分かったら、点数に10をかけることで医療費の総額を算出することができます。
胃カメラの場合
1,140×10=11,400
医療費の総額は「1万1,400円」であることがわかります。
公的医療保険の自己負担割合に応じて計算
「胃カメラ検査をするだけで、1万円以上もするの……?」と驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、胃カメラ検査は公的医療保険の対象となります。そのため、年齢に応じて費用が割引されます。
自己負担割合は以下のとおり。
年齢 | 所得 | 自己負担率 |
---|---|---|
70歳未満 | 現役並み所得者 | 3割 |
非現役並み所得者 | 3割 | |
70歳以上75歳未満 | 現役並み所得者 | 3割 |
非現役並み所得者 | 2割 | |
75歳以上 | 現役並み所得者 | 3割 |
非現役並み所得者 | 1割 |
※非現役並み所得者は「年収約370万円未満の被保険者」を指す
該当する年代や所得に合わせて、自己負担額を計算しましょう。たとえば、30代で年収400万円のサラリーマンの方が胃カメラ検査を受ける場合、実際に負担する金額の割合は3割。したがって、自己負担額は
11,400円×0.3=3,420円
となります。
保険点数の具体例は?
ここからは、具体例をさらにいくつかピックアップし、保険点数と自己負担額をご紹介していきます。取り上げるのは次の3つです。
- 歯科での歯石除去
- MRIによる検査
- PCR検査
またこの章で算出する自己負担額については、すべて3割負担として計算しています。
歯科での歯石除去
歯石除去とは、歯垢が長期間蓄積して固まった「歯石」をスケーラーという器具で取り除く処置であり、正式名称は「スケーリング」といいます。
口の中を6ブロックに分けたうちの1ブロックを対象にスケーリングを行った場合、保険点数は「72点」です。
そのため、自己負担額の計算は
720 × 0.3 = 216円
となり、自己負担額は216円です。(2021年時点)
ちなみに、歯石除去のブロックが1つ追加されるたびに、保険点数は38点ずつ増えます。
MRIによる検査
MRI検査は、「磁気共鳴コンピューター断層撮影」として診療報酬点数表に記載されています。点数については検査を行う医療施設や機器によって異なります。
厚生労働大臣が定める施設基準に適合した医療施設において、3テスラ以上の機器で検査を行う場合、保険点数は1,620点となります。
16,200 × 0.3 = 4,860円
上記の計算結果から、自己負担が4,860円となることがわかります。(2022年時点)
PCR検査
コロナに感染しているかどうかについて確認するための検査である「PCR検査」は、「HPV核酸検出」として記載されています。ただしコロナのPCR検査では、「HPV核酸検出の所定点数2回分を合算した点数を準用して算定する」と定められており、注意が必要です。
そのため、PCR検査の保険点数は「700点(22年4月1日以降)」となります。自己負担額の計算式は
7,000 × 0.3 = 2,100円
となり、自己負担額は2,100円と算出できます。
保険点数が書かれている診療明細書は大切に保管
医療機関を受診すると、診療内容や検査、処方箋薬剤などを記した「診断明細書」が発行されます。
自分が受けた医療行為や医療費の詳細を知ることができますし、医療費控除を受ける際にも使用するため、捨てずに保管しておきましょう。診療明細書を取っておくことで、もしもの時の大切な証拠になります。
医療事故や薬の副作用の証明になる
もしあなたが受診した際に医療事故が発生したり、処方された薬に副作用が発生することが後に発覚したりした場合、診療明細書は大切な証明書となります。
該当する診療や投薬が行われたことを証明できない場合、医療事故の原因特定や損害賠償請求が困難になってしまうことも。
いざという時のために、診療明細書は大事に保管しておきましょう。
保険点数は定期的に改定されている
保険点数は定期的に中央社会保険医療協議会において議論が行われ、改訂が加えられています。
保険点数が定期的に更新される理由は大きく2つあります。
医療技術の進歩に対応するため
医療技術の進歩により、従来よりも高度な医療行為が可能になってきており、定期的に適切な評価を行う必要がある
社会情勢に合わせて医療費の適正化を図るため
少子高齢化などの社会問題によって医療費が膨らむ一方、医療機関の健全な経営も考慮しなければならない
2年ごとに変更されている
保険点数が改訂される頻度は、2年に1度です。言い換えれば、2年ごとに医療費が大きく変わる可能性もあるため、保険点数を確認する際は
- 最新の情報であるか
- 次の更新はいつであるか
を考慮する必要があります。
ちなみに、直近で保険点数が改定されたのは令和4年。そのため、令和6年には一部の医療費が変動する可能性があります。
保険点数を知っておくとどう役立つ?
保険点数について知っておくと、次の3つの場面で役に立つと考えられます。
保険点数を知っておくメリット
- 治療や入院に備えることができる
- 不当な請求がないか確認することができる
- 医療保険を選ぶ際の基準になる
より具体的にチェックしてみましょう。
治療や入院に備えることができる
保険点数について知っておくことで、治療や入院にかかる費用を予測し、経済的に備えることができます。
出産や計画的な入院など、どのような治療や処置が必要かあらかじめわかっている場合は、必要な費用を計算しておくことが可能。
そのため
- いくらぐらいの治療費を用意すべきか
- 公的制度や医療保険によってどれだけカバーできるか
などが予想できるため、経済的にも安心感を得られますね。
不当な請求がないか確認することができる
保険点数について知識があることで、不当な請求がないか確認できるようになります。
保険点数の調べ方を知ることは、言い換えれば「医療行為の適正な価格を調べられる」ことでもあります。
そのため、
- 保険点数よりも高い金額で請求される
- 実際には行われていない医療行為が請求される
- 保険点数は適正だが、自己負担額が計算結果と異なる
など、不当請求について気づきやすくなるでしょう。
「おかしいな」と感じたら診療明細書の内容を詳しくチェックし、実際の費用について調べてみましょう。
医療保険を選ぶ際の基準になる
保険点数について知っておくと、より自分に合った医療保険を探すことが出来ます。
医療保険においては、入院日数に応じた日額給付金を受け取れる「日額型」が一般的。しかし、入院日数は近年減少傾向にあるため、それに伴い受け取れる給付金も減ってきています。
したがって、給付金でカバーできる金額と実際に支払う医療費に差が生まれてしまうことも。
その一方で、「診療報酬点数に連動して給付金が受け取れる保険」も増えてきています。入院日数の長さではなく、保険適用の治療を受けた場合の医療費の自己負担分をほぼカバーできるため、実際の負担によりマッチした保障を受けられます。
保険点数について知っておくことで、医療費に関するニーズや経済的な不安に合わせて、ご自身にぴったりな医療保険を見つけることができますね。
保険のプロに相談してみよう
しかし、医療保険を探すのは想像以上に手間がかかる作業になります。保険会社の最新のプランをチェックしつつ、収入や家計、ライフプランについても考慮しながら、最適な保障内容を決めなければなりません。
そこでおすすめなのが、保険のプロへの無料相談。みんかぶ保険では、保険の専門知識を豊富に持つプロに無料で相談することができます。
相談回数に制限はなく、納得のいく保険を簡単に見つけられます。これから医療保険に加入しようと考えている方や、よりお得な医療保険を探している方は、ぜひ活用してみてください。
まとめ
医療費を計算するための保険点数の概要や計算方法、知っておくことのメリットについて解説してきました。
あまり日常生活で使うことはないかもしれませんが、きちんと理解しておくのがおすすめです。経済的な備えや、より賢い医療保険の選択に活用していきましょう。