医療保険

傷病手当金とは?支給期間やいくらもらえるのかなど気になるポイントを分かりやすく解説

著者:みんかぶ編集室

監修:

髙柳 侑己

3級ファイナンシャル・プランニング技能士 / フィナンシャル・エージェンシー所属

2023年06月29日 掲載

病気や怪我で仕事を休まなければならない場合、本来受け取れたはずの報酬を受け取ることができなくなってしまうことも多いでしょう。治療費もかかる中、収入が減少してしまうことで経済的な負担は大きくなり、精神的にも辛くなってしまいますよね。

そんな方々のために用意された制度が「傷病手当金」。

最長で1年半、休業中に一定の金額を受け取ることができます。ただ、

「どんな人が対象なんだろう?」

「いくら受け取ることができるのかな?」

「どうやって申請すればいい?」

など、制度内容についてまだわからない部分も多いでしょう。

この記事では、傷病手当金の制度内容や支給期間、もらえる金額など知っておきたいポイントについて詳しく解説していきます。まだ制度について何も知らなくても、この記事を読めばスムーズに利用することが可能になるでしょう。

傷病手当金とは?

傷病手当金とは、病気や怪我により長期間出勤できなくなった場合に、経済的な支援を受けるための制度です。

長期間出勤できなくなると、会社からの十分な報酬を受け取ることができなくなってしまいます。治療費の支払いに加え収入も減ってしまうため、休業中の経済的な負担が大きくなってしまうでしょう。

そのような負担を軽減するために作られたのが「傷病手当金」です。

傷病手当金と労災の違い

傷病手当金と似たものに「労災保険(正式には労働者災害補償保険)」という制度があります。これらの制度は、「対象となる病気や怪我」と「カバーする費用」の2点で異なります。


傷病手当金 労災保険
対象となる病気・怪我
業務時間外の病気や怪我
業務時間内の病気や怪我
費用 給与所得の補填
治療費・後遺障害に応じた費用

傷病手当金は、業務時間外で発生した病気や怪我が対象。一方、労災保険は通勤中を含む業務時間内に発生した病気や怪我に対して費用が支払われます。

また、傷病手当金は後述する方法に基づいて支払われる金額が算出されますが、労災保険では治療費や後遺障害に応じた費用なども受け取り可能です。

傷病手当金がもらえる条件

では、傷病手当金を受け取るためにはどのような条件を満たす必要があるのでしょうか。

まず、大きく4つの条件がありますが、まず最初に「会社員もしくは公務員」であることが前提です。そのため、フリーランスや自営業の方には適用されません。

フリーランスや自営業の方である場合は、ここからの内容を飛ばして「傷病手当金を使えない人はどうすべき?」をご確認ください。

一方で、会社員や公務員で働いている方は、以下の4つの条件を満たすことで傷病手当金を利用することができます。

  1. 業務外で発生した病気や怪我により休業すること
  2. 病気や怪我によって仕事が困難であること
  3. 連続する3日間を含む4日以上仕事を休んでいること
  4. 休業期間において給与の支払いがないか、もしくは受け取る金額が傷病手当金よりも低いこと

これらの条件を満たした場合、申請を行い審査が通れば傷病手当金を受け取ることができます。

業務外で発生した病気や怪我で休業する

業務中の出来事ではなく、業務とは関係ない理由によって病気や怪我が発生したケースが傷病手当金の対象となります。

例えば、休日のドライブ中に事故で怪我をしてしまい、しばらくの間入院や治療が必要な場合であれば、傷病手当金が適用されます。

一方、通勤中の怪我は業務時間内での発生とみなされるため、傷病手当金は適用されません。

病気や怪我によって仕事をするのが困難である

病気や怪我によって、仕事をするのが難しい状態であることも傷病手当金の条件となります。この場合、個人の判断だけでなく、医師による診断が必要になります。

申請時に必要な書類は、同記事内の「 傷病手当金の申請方法」で説明しますが、医師からの診断内容を添えて提出する必要があります。

連続する3日間を含む4日以上仕事を休んでいる

3日間連続(休日も含む)で休んだ後にさらに追加で休みが必要となった日数に応じて、傷病手当金が支払われます。

3日間連続の休みがなく断続的に3日以上休んでも、傷病手当金の対象にはなりませんので注意してください。

給与の支払いがない、もしくは傷病手当金より金額が低い

休業中の給与の損失をカバーする制度であるため、給与を従来通り受け取っている場合は支給の対象になりません。

給与の支払いがない場合においては、傷病手当金の満額を受け取ることができます。

また、給与を受け取っていても、算出された傷病手当金よりも給与額や手当の金額が低い場合は、差額分をもらうことが可能です。

傷病手当金はもらわない方がいい?

傷病手当金の存在については知っているものの、制度の内容や条件などを細かく理解している人は少ないでしょう。中には、「傷病手当金はもらわない方がいいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

傷病手当金をもらわない方がいいと言われている理由として、よくあるのが以下になります。

  • 会社に費用面で負担がかかる
  • 生命保険に入れなくなる
  • 再度同じ病気になったときに傷病手当金を受け取れなくなる

ですが、実際には上記のような考え方は誤解を含んでいます。

  • 費用は保険組合が支払うため、会社の負担はありません。
  • 給付金を受け取ったかどうかは生命保険の審査に影響しません。
  • 医師の判断で一度職場に復帰していれば、同じ理由でも再申請が可能です。

実際の制度内容を細かく確認すれば、もらわない方がいいと言われている理由は大きく削れそうですね。

傷病手当金の支給期間は最長1年半

一定の条件を満たしていただければ、傷病手当金の受給が可能です。ただし、支給期間の長さは非常に重要ですよね。治療が長期にわたる方にとっては、特に気になるポイントです。

傷病手当金の支給期間は最長で1年半です。具体的には、待機期間の3日目が終了した翌日から支給が開始されます。

もしも職場に復帰した後に再び休むことになった場合でも、これまでの休んだ日数に関係なく、再度1年半の支給を受けることが可能です。

傷病手当金の支給開始日

傷病手当金の金額はいくら?

傷病手当金を利用する場合、やはり「いくら受け取れるのか」は知っておきたいポイントですよね。休業中の生活を考える上で、自身の経済状況に関わる情報は必要不可欠です。

ここからは、傷病手当金の金額の算出方法や、金額が変動する要素についてご説明いたします。

支給額の計算方法

傷病手当金としてもらえる金額は、それまで会社で受け取ってきた給与額に基づいて算出されます。具体的には、「支給開始日が属する月の前の月までの1年間」の「標準報酬月額」を参考にします。

標準報酬月額とは、保険料の計算を簡単にするために作られた給与額ごとの区分のことです。ご自身の給与明細に書かれている場合もありますが、もし書かれていない場合は「厚生年金」の額を確認した上で、「厚生年金保険料額表」をチェックしてみましょう。 厚生年金保険料額表

基本的に1日あたりの傷病手当金は、過去1年間の標準報酬月額を平均した額を(1ヶ月の日数度である)30で割った数値のうち、3分の2の金額となります。

傷病手当金の額の計算方法

たとえば、傷病手当金の支給開始日が2023年の2月16日である場合、2022年2月〜2023年1月までの標準報酬月額の平均した金額が計算対象となります。

1年間の標準報酬月額の平均が27万円と仮定すると、30で割って9,000円、そのうちの3分の2である「6,000円」が1日あたりの傷病手当金です。

支給金額が変わることも

もし、傷病手当金以外に報酬や手当(障害手当金、出産手当金など)を受け取っている場合は、傷病手当金の金額が変わります。

受け取っている報酬や手当が傷病手当金よりも高い場合、傷病手当金はもらうことができません。しかし、傷病手当金よりも他の収入の金額が少ない場合は、その差額を受け取ることができます。

つまり、傷病手当金として計算された金額分は最低限受け取ることが可能です。

退職後も傷病手当金はもらえる

退職しても、傷病手当金は受け取ることができます。ただし、以下の条件を満たす必要があります。

  • 退職日の前日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること(任意継続や国民健康保険は含まれない)
  • 退職の前日まで連続で3日以上休んでおり、退職日も出勤していないこと(医師による休職の判断が必要)
  • 同じ傷病により、退職日以降も引き続き労務不可能であること
  • 失業給付を受けていないこと

また、在職中に傷病手当金の手続きができていなくても、2年以内であれば申請することができます。

傷病手当金の申請方法

ここまで、目的や期間、金額など制度の内容について詳しくご紹介してきました。ここからは、実際に傷病手当金の利用を検討している方に向けて、申請方法についても解説していきます。

傷病手当金の申請をする場合は、「傷病手当金支給申請書(ケガの場合は「負傷原因届」を添付)」を協会けんぽに提出する必要があります。申請書は公式サイトからダウンロードが可能。

協会けんぽ公式サイト

申請書には、申請者本人に加え「事業主」と「療養担当者(治療を受ける医療機関)」の記入欄もあります。そのため、申請者本人だけでなく会社や医療機関でも必要事項を書いてもらわなければなりません。

傷病手当金支給申請書の書き方

傷病手当金支給申請書には、記入する人によって必要な情報が異なります。

  • 申請者本人:個人情報、収入の状況、振込先、申請理由など
  • 事業主:勤務状況、賃金の支払い状況など
  • 療養担当者:病気やケガの発生日、出勤が難しい理由など

詳しい書き方は協会けんぽが公開している「傷病手当金支給申請書記載例」をご確認ください。

傷病手当金支給申請書記入例

傷病手当金はいつもらえる?

申請書を提出したのち、保険組合による審査が始まります。スムーズに審査が通過できた場合、2週間前後で傷病手当金を受け取ることができるでしょう。

もし、書類に不備があった場合は、差し戻しのあと再提出となり、傷病手当金の受け取りが遅くなってしまいます。申請書の書き方をチェックしながら、正しく記入しましょう。

給料の締切日ごとに申請が必要

休業期間が給料の締め日をまたぐ場合は、その度に申請する必要があります。

事業主の給与支払い額によって傷病手当金の有無や金額が決まるため、給与の締切日ごとに申請書を提出するようにしましょう。

傷病手当金がもらえないケース

傷病手当金を申請したけれども、受け取ることができない場合もあります。受け取れると思っていた手当金をもらえないのは辛いですよね。

事前に傷病手当金が受け取れなくなってしまういくつかのケースについて紹介しますので、「給与は減ったのに傷病手当金がもらえなかった…」という事態を回避できるようにしましょう。

医師の指示に従わなかった場合

病院から指示された治療を行わなかったり、通院を怠ったりしていた場合、傷病手当金が受け取れなくなることがあります。

傷病手当金の申請には医師の診断が必要です。加えて、治療や服薬で改善をしようとする姿勢がないといけません。

適切に通院や投薬などを続けていないことが発覚してしまうと、手続きや審査に影響が出てしまうこともあります。治療期間中は、きちんと医師の指示に従いましょう。

継続申請時に違う傷病名を記入した場合

給与日をまたぐことによる継続申請をする際に、すでに申請していた内容と異なる傷病名を記入してしまうと、支給が打ち切られてしまうこともあります。

例えば、交通事故で頭にダメージを受け足がうまく動かなくなり、頭部外傷として傷病手当金を受け取っているとします。

継続申請を出すタイミングではリハビリ中であるからといって、傷病名を「頭部外傷」から「両足のリハビリ」に変えてしまうと、手当金の支給がストップしてしまうかもしれません。

引っ越しに伴い通院先を変える場合

傷病手当金を受け取りながら治療をする中で、「ひとりで生活するのが厳しいから実家に移動する」といったことも珍しくありません。その場合、実家に移動することで通院先が変更になることもあるでしょう。

通院先が変わる際は、

  • もともと通院していた医療機関で就労不能期間の証明をしてもらう
  • 新しい病院での診察を受け、傷病手当金支給申請書に記入してもらう

というステップが必要になります。ここで注意すべきなのは、「新しい病院での治療」のタイミング。もし、もとの病院で就労不能期間についての判断をもらってから新しい病院に行くまでに日が空いてしまうと、その間は傷病手当金を受け取ることができなくなってしまいます。

申請書に医療機関が記入する際は、診断を行った日よりも前の日の分までは支給されません。そのため、新しい病院に行かずに数日過ごしてしまうと、その分受け取れる傷病手当金は少なくなるため注意が必要です。

傷病手当金が使えない人はどうすべき?

記事の最初にお伝えしたとおり、会社員や公務員でない人(自営業、フリーランスなど)は、傷病手当金を受け取ることができません。

傷病手当金の対象外となってしまう方が病気や怪我で働けなくなってしまった場合、

  • 貯蓄を活用する
  • 民間の生命保険を利用する
  • 公的扶助制度を利用する

といった方法で、費用面の負担を受け止める必要があります。会社員や公務員と比べて負担はどうしても大きくなってしまいそうですね。

より手厚い保障が欲しいなら医療保険も要チェック

傷病手当金だけでなく、より手厚い保障が必要だと感じる方は、民間の医療保険もチェックしてみましょう。

民間の医療保険であれば、治療に伴って働くのが難しくなっても保険金を受け取ることができる「就業不能保険」「所得補償保険」が利用できます。

また、入院や手術の際にも一定の金額を受け取ることが可能。公的制度よりも手厚い保障が用意されています。

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とはいえ、民間の保険会社には様々な種類があり、用意されている保障や保険料もさまざま。ひとりで探すのはなかなか難しいでしょう。

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傷病手当金についてよくある質問

会社が傷病手当金の利用を嫌がる場合はどうすればいいですか?

諸病手当金の申請時において、会社側がなかなか傷病手当金の申請書を書いてくれない、といったケースも存在するでしょう。その場合、いくつかの理由が考えられます。

  • 会社が費用を負担しなければならないと認識されている
  • 会社が労災を隠そうとしている(傷病手当金と労災を一緒に申請している場合)
  • 会社と労働者の間でなんらかのトラブルが発生している
  • 年金事務所への報酬の届出内容に虚偽がある

必ずしも上記の理由のどれかが当てはまっているとは限りませんが、会社側が制度についてどれだけ理解しているかをまずは確認してみるのがおすすめです。社労士に申請代行を依頼すれば、制度の説明や手続きのお手伝いをしてもらうことも可能になります。

傷病手当金の申請には、医師の証明が必要ですか?

傷病手当金を申請する場合は、医師や医療機関による証明が必要です。新型コロナウイルスによる申請の場合、かつては自分で代わりに書いても受理されていましたが、2023年5月8日以降はどのような理由であっても医療機関の記入が必要となります。

会社に提出するような診断書では代用できないため、申請書の医師証明欄に書いてもらうようにしましょう。

傷病手当金の審査は厳しいですか?

預貯金状況や過去の傷病歴のような審査項目は存在しておらず、審査内容は主に「申請書がきちんと書かれているか」「適切に治療を行っているか」といった部分がポイントになるようです。

手続きの仕方や通院状況によっては支給が受けられない場合もあるため、申請時には慌てずしっかり確認しながら申請書に記入していきましょう。

傷病手当金の期間を延長することはできますか?

1ヶ月半の支給期間が終了したからといって、傷病手当金の期間を延長することはできません。しかし、職場に一度復帰したのち、再度給食が必要になった際に再度申請した場合は、1ヶ月半の支給を受けることが可能になります。

職場に復帰する際は医師の判断が必要になるため、支給期間を伸ばすために自己判断で出社した場合は支給の対象外となってしまいます。

傷病手当金を利用すると生命保険に加入できなくなりますか?

生命保険に加入する際には、「過去にどのような傷病歴があるか」といった審査ポイントが存在します。

とはいえ、あくまで「傷病歴の有無」が重要であり、傷病手当金を受け取ったかどうかは審査に影響しません。そのため、生命保険の審査のために傷病手当金の申請を我慢する必要はありません。

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