病気や怪我で入院する際、通常であれば6人〜8人分の病床が用意されている大きな部屋に入ることになります。ですが、病院側に要請すれば、自分だけの個室で入院することができる場合もあります。
プライバシーが確保され、自由に過ごせる部屋での入院は、通常の入院よりも快適に感じることも多いでしょう。
ですが、そのような「個室入院」には追加費用が発生してしまいます。それが、「差額ベッド代(差額室料)」。
「差額ベッド代ってどれぐらいかかるの?」
「保険は適用できないって本当?」
「差額ベッド代を支払わなくてもいいケースってあるの?」
この記事では、差額ベッド代の相場や保険との関係、よくあるトラブルなど、差額ベッド代とは何かについてわかりやすく解説していきます。
個室入院すべきかの判断基準についても解説しているので、差額ベッド代について迷っている方でもこの記事を読めば納得のいく判断ができるようになります!
差額ベッド代(差額室料)とは
まずは、そもそも「差額ベッド代」とは何なのかについて解説していきます。すでに差額ベッド代についてご存知の方は読み飛ばしていただき、「差額ベッド代の相場は?」にお進みください。
差額ベッド代(差額室料)とは、簡単に言えば「入院する病室をアップグレードするための料金」です。
通常であれば、入院時には1部屋あたり6〜8人程度が入る大きな病室に入ることになります。しかし、知らない人と同じ部屋で、カーテンのみで仕切られた状態で過ごすことに不安やストレスを抱える方も多いのも事実。
そのような場合、追加料金を支払うことで、より設備や環境が充実した個室に移動することが可能になります。その際に支払うのが「差額ベッド代」です。
差額ベッド代が必要となる病室の条件
では、具体的にどのような病室に入る際に差額ベッド代が必要となるのでしょうか?基本的には、以下のような条件を満たす病室が対象となります。
- 1部屋あたりの病床数が4床以下
- 病室での1人あたりの面積が6.4平方メートル以上
- ベッドごとのプライバシーを確保するための設備(トイレや仕切りなど)が備えられている
- 個人用の私物収納設備・照明・小机・椅子が用意されている
上記のような個室では、一般的な病室と比べて快適に過ごすことができる反面、追加コストが発生してしまいます。
差額ベッド代が発生するケース
上記の条件を満たした部屋に入院する(=個室入院する)際において、次のケースに当てはまる場合は差額ベッド代を支払うことになります。
- 対象の部屋に入ることを自ら希望した
- 病院から説明を受け、同意書にサインした
それぞれのケースについて、さらに詳しく解説していきます。
自分から希望して対象の部屋に入る場合
自らの要望で差額ベッド代が必要な部屋に入る際は、もちろん差額ベッド代が必要になります。
通常の部屋で入院しているけれども、同じ部屋にいる人のいびきがうるさい、仕切り用カーテンのみではプライバシーの保護が不十分など、個室入院に切り替えたくなる場面は意外と多くあります。
そのような場合は病院に要請することで個室入院に切り替えることができますが、自分から希望して入るため、差額ベッド代を支払わなければなりません。
病院から説明を受け、同意書にサインした場合
また、病院や医師から説明を受け、金額や部屋の設備などについて書かれた同意書にサインした場合、基本的には差額ベッド代が必要になります。
入院が必要な時は、身体的にも精神的にも不安定なことも多いでしょう。入院時には、そのような中で医師からの説明を聞き、さまざまな書類にサインする必要があります。あまり確認せず慌ててサインしてしまうと、想定外の出費につながってしまうかもしれません。
とはいえ、個室入院することになっても差額ベッド代が必要ないケースも存在します。そのことについては後ほど説明していきますが、基本的には「同意書にサインをしたら差額ベッド代は必要」と覚えておきましょう。
差額ベッド代の相場は?
差額ベッド代の相場は、病室や部屋の設備によって変動します。ここからは、どのような部屋に入ることでどれだけの差額ベッド代が発生するのか、具体例を交えつつ解説していきます。
差額ベッド代の1日あたりの平均額
厚生労働省が発表した「主な選定療養に係る報告状況」によりますと、令和3年における1日あたりの差額ベッド代の平均は6,613円でした。
部屋人数ごとの差額ベッド代の平均は以下の通りです。
部屋 | 金額 |
1人部屋 | 8,315円 |
2人部屋 | 3,151円 |
3人部屋 | 2,938円 |
4人部屋 | 2,639円 |
差額ベッド代が必要な個室入院の具体例
差額ベッド代が必要な個室について、さらに詳しく確認してみましょう。ここでは、実際に差額ベッド代を公開している「行徳総合病院」を例に、部屋の設備や料金をご紹介します。
部屋タイプ | 料金 | 設備 |
個室風多床室 | 8,800円/1日 | トイレ(共有)、洗面台(共有)、鍵付きテレビ台、テレビ、エアコン、冷蔵庫、ロッカー |
個室 | 11,000/1日 | トイレ、洗面台、シャワー室、鍵付きテレビ台、テレビ、エアコン、冷蔵庫、ロッカー |
特別室 | 110,000円/1日 | ベッドルーム、リビングルーム、トイレ、洗面台、ユニットバス、キッチン、鍵付きテレビ台、テレビ、エアコン、冷蔵庫、ロッカー |
上記のように、通常の入院よりも充実した設備が用意されています。経済的な負担は増えてしまいますが、そのかわり入院中はより快適に過ごせそうですね。
病院によって設備や料金は異なるため、あくまで参考程度としての情報になります。
差額ベッド代に保険は適用されない?
差額ベッド代の具体的な金額についてお伝えしてきましたが、ここで気になるのは「保険が適用できるかどうか」でしょう。公的医療保険が適用できた場合、費用を3割程度に抑えることができますが、差額ベッド代は割引できるのでしょうか。
差額ベッド代は公的医療保険の対象外
残念ながら、差額ベッド代は公的医療保険の対象外となってしまいます。そのため、差額ベッド代はすべて自己負担。
そのため、高額になってしまう医療費に対して上限額を適用できる「高額療養費制度」も、差額ベッド代には適用させることができません。
公的保険が使えると思ったのに高額な出費が必要になってしまった、といった事態に繋がらないよう注意が必要です。
民間の医療保険は活用可能
公的医療保険は使えませんが、民間の医療保険であれば活用することができます。
民間の保険の基本的な保障のひとつが、入院時に一定の金額を金額を受け取ることができる「入院給付金」。用途は限定されていないため、入院中の自己負担費用のカバーに充てることもできます。
契約時に、1日あたりの金額の上限を設定することができ、それに応じて支払う保険料の高さも変動します。詳しくはこちらの記事をご確認ください。
参考記事:
医療保険は日額5000円の保障で十分?実際の入院費用や日額の決め方について解説
差額ベッド代を支払わなくても良いケース
先ほどもご紹介した通り、自分から希望した場合や同意書にサインした場合は差額ベッド代を支払う必要があります。ですが、場合によっては差額ベッド代を支払わずに済むことも。
以下に当てはまる場合、差額ベッド代を支払う必要はありません。
- 同意書へのサインをしていない
- 病院の都合で個室入院となった
- 治療上の必要により特別な病室への入院が決まった
同意書へのサインをしていない
個室入院する際には、ベッドの代金や設備などについて詳細に明記されている同意書にサインする必要があります。同意書へのサインが行われていない場合、個室入院への同意が得られていないことになり、差額ベッド代は必要ありません。
病院の都合で個室入院となった
また、「通常の病室が空いていないため、入院するなら個室入院してもらうしかない」「他の患者への感染拡大を防ぐ必要がある」など、病院側の都合で個室入院することになる場合、差額ベッド代は必要ありません。
とはいえ、病院による事情について実際にどれだけの説明があるのかについては、病院の裁量に委ねられがちな部分でもあるため、念入りな確認が必要です。
治療上の必要により特別な病室への入院が決まった
さらに、治療上の必要性により特別な病室に入院しなければならない場合も、差額ベッド代は免除されます。
- 常に監視が必要な重篤患者
- 免疫力が過度に低下し、さまざまな感染症に罹患する恐れがある
- 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者
など、治療する上で個室入院が必要だと医師が判断した場合、差額ベッド代は支払わずに済みます。
差額ベッド代に関するトラブル
差額ベッド代の支払いについては、病院側と患者側との間でトラブルになることも少なくありません。実際のトラブルの例をご紹介しつつ、どのように対応すべきかについて解説します。
差額ベッド代にまつわるトラブルの例
よくあるトラブルのひとつは、「病院都合で個室入院したはずなのに、差額ベッド代を請求される」といったものです。
例えば、家族が緊急入院することになり、大部屋に空きがないといった説明とともに同意書のサインを求められたとします。この場合、実際にひとつも病床が空いていない場合は差額ベッド代を支払う必要はありません。
ですが、病院側から繰り返し支払いを求められてしまい、トラブルに発展してしまうことがあります。
同意書にサインしたら撤回できない?
先述した「差額ベッド代の支払いが不要なケース」に該当するはずなのに、同意書にサインをしたことを理由に支払いを求められてしまうことは少なくありません。
サイン自体を撤回することは難しいかもしれませんが、
- サインする前に同意書の内容や個室入院が必要な理由について詳細に確認する
- サインを撤回したい旨を病院に相談する
といったことが必要になるでしょう。
病院や厚生労働省の窓口に相談する
差額ベッド代にまつわるトラブルについて困っている場合は、入院する病院だけでなく、厚生労働省の地方支分部局である「地方厚生局」に相談することができます。
差額ベッド代にまつわる規則については厚生労働省が定めているため、病院に相談しづらい場合は地方厚生局に連絡してみるのがおすすめです。
名称 | 管轄区域 | 連絡先 |
---|---|---|
北海道厚生局 | 北海道 | 総務課:011-709-2311 管理課:011-796-5155 医療課:011-796-5105 |
東北厚生局 | 青森県、岩手県、宮城県、 秋田県、山形県 、福島県 | 総務課:022-726-9260 医療課:022-206-5216 |
関東信越厚生局 | 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、 神奈川県、新潟県、山梨県、長野県 | 総務課:048-740-0711 医療課:048-740-0815 |
東海北陸厚生局 | 富山県、石川県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県 | 総務課:052-971-8831 医療課:052-971-8836 |
近畿厚生局 | 福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 | 総務課:06-6942-2241 医療課:06-6942-2414 |
中国四国厚生局 | 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県 | 総務課:082-223-8181 医療課:082-223- 8225 |
四国厚生支局 | 徳島県、香川県、愛媛県、愛知県 | 総務課:087-851-9565 医療課:087-851- 9502 |
九州厚生局 | 福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、大分県 | 総務課:092-707-1115 医療課:092-707- 1123 |
差額ベッド代のトラブルを未然に防ぐために
外部に相談できる機関があるとはいえ、やはり差額ベッド代をめぐるトラブルは避けたいところですよね。
先に述べた内容と被ってしまいますが、トラブルを避けるためには
- 差額ベッド代の支払いに関するルールを把握しておく
- 同意書に書かれている内容や個室入院の必要性について細かく確認する
上記のふたつが大切になります。
とはいえ、入院する際は不安になったり慌てたりしてしまうもの。事前に必要な知識を入れておくことはもちろん重要ですが、もしサインをしてしまった場合は、早めに病院や専門機関に相談するようにしましょう。
差額ベッド代以外の自己負担費用は何がある?
差額ベッド代だけでなく、入院中には他の自己負担費用も発生します。たとえば、
- 治療費
- 食事代
- 日用品類、衣類
- 娯楽品などに必要な費用
- 入院中に働けなくなることによる収入の減少(逸失費用)
といったものが挙げられます。
入院中の自己負担額の相場
「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査《速報版》」によると、入院中の自己負担費用と逸失収入の合計は、1日あたり平均25,800円と報告されています。もちろん人によって入院費用はさまざまですので、あくまで参考数値として考えるようにしましょう。
出典:
2022(令和4)年度 生活保障に関する調査《速報版》
差額ベッド代による医療費負担を軽減させる方法
差額ベッド代は高額になりやすく、入院時の大きな経済的負担となってしまいます。だからこそ、そのような負担を軽減させる方法について知っておきたいところですよね。
そこでおすすめなのが「医療保険への加入」です。
入院給付金を受け取れる「医療保険」を検討してみる
先述した通り、差額ベッド代は公的制度ではカバーすることが難しく、すべて自分で負担することになってしまいます。ですが、民間の保険を活用すれば、差額ベッド代による医療費の負担を軽減することができます。
中でも、入院給付金を受け取ることができる「医療保険」なら、入院時の費用をカバーすることが可能。受け取った給付金の用途が限定されていないため、入院中のさまざまな自己負担費用の支払いに活用することができます。
医療保険を探すなら保険のプロへの無料相談がおすすめ
加入する医療保険を探す際は、みんかぶ保険が用意している「保険のプロへの無料相談」がおすすめです。
民間の医療保険を提供する会社は数多く存在しており、またプラン内容も豊富に取り揃えられています。入院給付金の金額においても契約時に自分で決められるため、なにを基準に決めるべきか迷ってしまう方も多くいらっしゃるでしょう。
保険のプロに相談してみることで、「どんな保障が必要なのか」「どこまで保険料を抑えることができるのか」など、保険に関するさまざまな疑問を解決することができます。医療保険への加入を検討している方は、ぜひ活用してみてください。
差額ベッド代は本当に必要なのか?
ここまで差額ベッド代に関するさまざまな情報をご紹介してきましたが、「そもそも差額ベッド代を支払ってまで個室入院する必要はあるのか?」と疑問に感じている方もいらっしゃるでしょう。
個室入院のメリットやデメリットについて確認しつつ、個室入院をすべきかどうかの判断基準について考えてみましょう。
個室入院のメリットとデメリット
個室入院をするかどうか決めるにあたって、まずはメリットとデメリットを確認してみましょう。
個室入院のメリット
個室入院することで、以下のようなメリットを得ることができます。
- プライバシーが保たれ、自由に過ごすことができる
- 設備が整っており、快適に過ごせる
- 面会時間の制限がほとんどない
個室入院の最大のメリットは、プライバシーの確保です。特に1人部屋で入院する場合は、自分の部屋のように自由に過ごすことができるようになります。
通常の入院と比較し、個室入院の方が入院中の過ごしやすさは高いでしょう。
個室入院のデメリット
一方で、個室入院のデメリットは以下のようなものが挙げられます。
- 差額ベッド代が必要になる
- ほかの患者とのコミュニケーションや情報共有の機会が減る
- ひとりの時間が増えるため、寂しさや孤独感を感じる可能性がある
最も大きなデメリットは「差額ベッド代」でしょう。1日あたり平均で約6,000円の出費が必要になると考えると、経済的負担も大きいですよね。
また、自分用のプライベート空間が用意されている分、他の患者さんとのやりとりが減ってしまいがちです。さらに、病気やケガで辛い中、ひとりで過ごす時間が増えてしまうと、不安や寂しさを感じてしまうこともあるでしょう。
個室入院の必要性を判断するためのポイント
それでは、個室入院すべきかどうかについて、どのような観点で考えればよいのでしょうか。
結論、「予算に余裕があるか」と「他人とのコミュニケーションを楽しみたいか」の2つのポイントで考えるのがおすすめです。
差額ベッド代を払う経済的余裕があるか
まずは、入院時における予算にどれだけ余裕があるかについて考えてみましょう。差額ベッド代を支払う余裕があるかどうかで、個室入院についての判断は大きく左右されます。
「入院中の自己負担額の相場」でご紹介した通り、入院中はさまざまな費用が発生します。さらに、家族がいる場合は、支出が増える中で家族にどれだけの経済的負担がかかるかについても考える必要があります。
その上で、差額ベッド代を支払っても問題ないと判断できるかどうかについて確認してみましょう。
他人とのコミュニケーションを楽しみたいか
次に、他人とのコミュニケーションをどれだけ楽しめるかについて考えてみるのもおすすめです。ともに治療を頑張る仲間を見つけられるのも、入院ならではの出来事のひとつでしょう。
しかし、もっとプライバシーが守られる場所にいたい、コミュニケーションをとるのが苦手といった場合には、個室入院を検討してみましょう。
差額ベッド代についてよくある質問
差額ベッド代は医療費控除の対象となりますか?
差額ベッド代は、医療費控除の対象になりません。
医療費控除の対象となるのは、「医師等の診療等を受けるため直接必要なもので、かつ、通常必要なものであること」と定められています。そのため、差額ベッド代は医療費控除の対象から外れてしまうため、注意が必要です。
差額ベッド代を拒否したら入院できないと伝えられた場合、どうすればよいでしょうか?
もし「病院側の都合で通常の入院ができない」「治療する上で個室入院をしなければならない」といったケースに該当する場合、本来であれば差額ベッド代を支払う必要がないと規定されています。病院側にそのことを伝えてみるか、近くの地方厚生局に相談してみましょう。
しかし、そのような余裕がない場合は、ほかの病院を紹介してもらうことも可能です。別の病院に移りたいことを医師や看護師に伝え、紹介状を書いてもらいましょう。
病院ごとの差額ベッド代はどこから確認できますか?
病院ごとの差額ベッド代については、病院の公式サイトに掲載されていることがあります。また、病院側に問い合わせてみることで、料金や部屋の設備に関する案内を受け取ることもできます。
差額ベッド代について気になる方は、入院予定の病院に確認してみましょう。
労災で入院した場合、差額ベッド代は自己負担ですか?
差額ベッド代は、労災保険の療養給付の対象外となります。
労災保険の療養給付とは、労働災害と認められたケガや病気を治療するにあたり、指定された病院にかかれば原則として治療費が無料になる制度です。しかし、差額ベッド代はそのような療養給付の対象外となってしまいます。
一方で、合理性や正当性が認められれば、差額ベッド代を会社に対して損害賠償請求をすることも可能です。損害賠償請求は労災保険の療養給付と異なり、ケースバイケースでの事情が考慮されます。